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7:やめて!

あまりの衝撃に声が出なかった。


「やめろ! すばる、めろ」


一瞬表情が変わり、霊ではなく、悠が叫んでいた。


悠の右腕に、突然現れた狼が噛みついた。


「つう……。何なんだ⁉」


霊が私から手を離し、悠の神使……すばるを左手で何度も殴り、叩き落そうとしていた。


「やめて!」


私はその腕を掴んだが、振り払われ、突き飛ばされた。


床に私が転がったその瞬間、霊の動きが止まった。


「澪ちゃん、すまない。コイツは霊ではなかった。生霊だ。通常の霊と違い、生霊は力がとても強い。僕でもコイツを抑えきるのは……厳しい。今すぐ、逃げて」


生霊……⁉


私は驚きつつも


「分かりました」


そう叫んで立ち上がろうとした。


だが、床は展開した水術で水浸しでなかなか立ち上がれなかった。


「水術。静かなる水面、解除」


「水術、零雨、解除」


立ち上がろうとしたその瞬間、すばるの鳴き声がして、そして霊が私の脚を掴んだ。


「逃がさないよ」


霊が、悠の顔で冷酷な笑みを浮かべた。


恐怖に体が固まったその時


「澪」


よく響く澄んだ声が聞こえ、扉が開いた。


刀岐ときのが私を見て、悠の姿を捉えた。


その瞬間、刀岐の眼光が鋭くなった。


「道は閉ざす。あらわれろ」


怒りを押し殺した低い声に、悠の動きは止まり、天柱から生霊が姿を現した。


すると刀岐は素手で生霊の首を掴んだ。


「お前の顔は覚えた。二度と、俺の前に現れるな」


生霊は苦しそうに身をよじった。


「分かったか?」


刀岐の低い怒りを含んだその声に、生霊は何度も頷いた。


「今すぐ、あるべき場所へ還れ」


鋭い刀岐の言葉と同時に閃光が走り、生霊の姿が消えた。


「澪、大丈夫か⁉」


振り向いた刀岐の顔に怒りはなく、私の顔を心配そうに覗き込んでいた。声もいつものトーンに戻っていた。


「澪~」


鈴が私の頭に抱きついた。


刀岐は私の腕を優しく掴むと、体を支え、立ち上がらせてくれた。


そして「俺が遅くなったからごめん」そう短く言って私を抱きしめた。


「ちょ、私は大丈夫よ! それより悠は……」


刀岐は私の体を解放すると、悠のそばにひざまずいた。


「……!」


驚いた表情で悠を見た刀岐は、悠の上体を起こして支えると……。


八咫兵衛やたべい


霊体化していた刀岐の神使の八咫烏やたがらすが姿を現した。


刀岐の神使の名前、八咫兵衛……なんだ。


センスなさすぎ……。


「コイツを回復してやってくれ。生霊相手になんて無茶をしているんだ。右腕は特にひどい。何をしたんだ⁉」


「悠は……生霊の動きを止めるために、自分の神使のすばるに……狼に自分の腕を噛ませたの」


私の言葉に刀岐は目をむいた。


「はあああ⁉ そんな自殺行為する奴がいるか……。神使が使うのは神の力だぞ。噛みつかれたら神の力が体内を巡るんだ。雷に打たれて電流が流れるぐらいのインパクトだ。生身の人間に耐えられるわけないだろう。天柱に神使が回復を行うのとは訳が違う。……ったくそこまでして守ろうとするなら、憑依させる前に生霊だって気づけよ」


刀岐がため息をついた。


すばるが噛みついた場所に、外見上の傷は見当たらなかった。


だが悠の体には強力な神の力が巡った……。


通常、神使は理の守り手が除霊・浄化・調伏で負った怪我や力の回復にその力を使っていた。


自身を攻撃させるなんて、刀岐が言う通り、聞いたことがなかった。


「でも、霊と生霊の区別は難しい。神使であっても区別は難しいんだし」


鈴はそう言うと、床をとことこ歩き、鼻をくんくんさせた。


「鈴、どうしたの?」


「ここにすばるが倒れている。回復をするよ」


「霊体化したまま気絶しているの?」


「いや、違う。実体化できないぐらい力を失っている。悠の動きを止めるために相当力を使ったんだよ」


鈴はそう言うと、まるで見えないすばるに寄りそうにように体を丸めた。


「……生霊ってそんなに強い……の?」


私の問いに、床に座り込み、悠の体を支えていた刀岐が答えた。


「当たり前だ。霊には生命エネルギーがない。でも生霊は生命エネルギーに満ち溢れている。生きているっていうのは、それだけでもう無敵なんだよ。生霊を相手にするっていうのは、一度に千体近い霊を相手にするようなもんだ。生霊を憑依させて、自我を保つなんて無理ゲーだ。普通だったらできない。……コイツをそこまで突き動かしたのは……お前だろう、澪」


「え……」


「お前を守ろうとしたんだろう? ……どいつもこいつも貧乳ガリ勉女に熱を上げ過ぎなんだよ」


「……! ちょ、刀岐、人のことを……何なのよ、その言い草!」


「澪、悠!」


陽の声に振り返ると、陽に続き、東堂先生と織田先生が休憩室に入ってきた。


他にもいろいろな人がやってきて現場は騒然となった。


悠は鎮守府にある専門病院に運ばれ、私たちは学校へ戻った。



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