4:胸、小さくなった?
お風呂に入り、食事を終えると、私は自室で宿題を始めた。
すると部屋をノックされた。
「何?」
私は勉強机に向かったまま大声で返事をした。
「お客さん、同級生の方よ。あんたの落とし物を届けてくれたって」
「え!」
もしかしてペンダントを拾ってくれた⁉
私は慌ててドアを開けた。
するとそこには刀岐がいた。
◇
「な、なんで、あんたが……」
刀岐は私の言葉を無視して、ずかずか部屋に入ってきた。
「ちょ、お母さん、なんでいきなり部屋に案内するの⁉」
「だって、あんたと同じ色の制服だし、それに……すごいハンサムじゃない。あたしに『お母さん、初めまして』って礼儀正しいし、まったくいつの間にこんなイイ男捕まえたのよ」
「ち、違うから! あいつは私とデュオを組むことになっただけだから!」
「あら、そうなの。じゃあ、なおさら部屋に案内しても問題ないじゃない」
そう言うと母親は一階へ降りて行った。
私が振り向くと、刀岐は図々しくも脚を組んでベッドに座っていた。
「な、勝手にベッドに座らないでよ!」
「でも他に座れそうな場所ないし」
「ゆ、床に座りなさいよ!」
「俺は脚が長いから床に座ると面倒なんだよ。それより、ほら」
刀岐はそう言うと、左手を握りこぶしで突き出すと、ぱっと広げた。
すると、くるくる回りながら、天柱封じの碧い宝石が宙を回転し、チェーンがピンと張った。
「……!」
私は刀岐のそばに行き、両手の手の平で碧い宝石を受け止めた。
すると刀岐がチェーンから手を離し、するするとチェーンが私の手の平に落ちてきた。
「階段の踊り場に落ちていた。金具が緩んでいたみたいだ。それは直しておいたから」
「え……」
わざわざ金具、直してくれたんだ……。
「あ、ありがとう」
「つけてやるから、そのまま座れよ」
「え、いいよ、自分で……」
「いいから、座れ」
刀岐がぐいっと私の腰を腕で引き寄せた。
私はよろめきながら床に座った。
刀岐はベッドに座ったまま前かがみになり、ペンダントの宝石が胸元にくるようにして、金具をとめた。
背後から清涼感のあるミントの香りがした。
「何も、なかったか?」
私の耳元で刀岐が囁くように尋ねた。
温かい息が首筋にかかり、私は一瞬びくっとしながら
「な、何かって何よ」
ぶっきらぼうに返事をした。
「このペンダントがないと、憑依されやすくなる」
「……!」
心配、してくれているんだ……。
「大丈夫。偶然、浄化をしている鎮守府の理の守り手の人達に遭遇したけど――」
「憑依されなかったか⁉」
刀岐は私の両腕を掴み、自分の方へ向け、真剣な眼差しで私を見た。
……!
悔しいけど、刀岐の顔は確かにかっこよかった。
そんな切れ長の瞳で見つめられると……。
私は視線を逸らし
「憑依はされていないよ。二人とも強かったから」
「……そうか。良かった」
気づいたら刀岐に抱きしめられていた。
「ちょ、何するのよ!」
私は刀岐の胸板を両手で押した。
すると。
「……? 澪、お前、胸が小さくなった?」
「は、はあぁぁぁ⁉」
「あ、そうか。お前、あげ底ブラつけていたんだな」
「な、余計なお世話よ!」
そう言うと、刀岐の腕を振り払って立ち上がり、気づいてしまった。
ってか私、お風呂の後だからノーブラじゃない!
私は胸を両手で隠して振り返ると、刀岐はチェストの引き出しをあけ、ブラジャーを取り出していた。
「信じられない、何してんのよ!」
「なるほど、こんな分厚いカップ……。普通のブラつければいいじゃん」
「そんなのあんたに関係ないでしょ!」
「俺は胸より尻派だから。胸なんてデカくても年取ったら、垂れるし、形崩れるし」
「どーでもいいわよ、あんたの嗜好なんて!」
「じゃあこれは誰の嗜好にあわせたんだよ」
刀岐がブラジャーを指さした。
「……!」
それは……理人の嗜好に近づけようとした結果だった。
理人が以前、胸の大きいアイドルを好きと言っていたから……。
「何顔を赤くしているんだよ。いやらしい奴だな」
「あんたに言われたくないわよ!」
「それにその眼鏡。学校ではコンタクトなのか?」
「別に構わないでしょ」
「その眼鏡、似合っているのに」
「えっ……」
「お前さ、高望みしすぎ」
「はぁ⁉ 何が⁉」
「自分が恵まれていること、気づいていないのか?」
「はあ……?」
「学年二位の才女で、運動神経もよくて体力もある。身長もあるし、手足もすらっとしている。髪も艶のあるロングストレート。顔だって綺麗に整っている。ぱっちり二重の黒い瞳、形のいい唇。これだけ揃っているのに巨乳になりたいとかコンタクトつけるとか、お前にそうさせているのは誰なんだよ? 貧乳でも眼鏡でもそれ以外で十分だろうが」
「な……それは理人が巨乳好きで、眼鏡より裸眼の顔の方が可愛いって言うから……!」
「誰だよ、理人って?」
「そ、それは隣の家の幼なじみ……」
な、私、なんで本音を口にしちゃっているの⁉
……!
「ちょっと、何しているのよ!」
刀岐がカーテンを開け、窓から隣の理人の部屋を覗き込んでいた。
理人はカーテンを開けたまま、勉強机に向かっていた。
「ちょ、見えるでしょ」
私は慌ててカーテンを閉めた。
「もう好き勝手言っていないで、帰ってよ。宿題もやらなきゃいけないし」
「はいはい」
「明日から実践授業が始まるんだから、ちゃんと学校来てよ!」
「分かったよ。ちゃんと行くから。……お前もせめてブラは普通のつけてこいよ。盛り過ぎはよくない」
「うるさーい!」
私は刀岐目掛けて枕を投げたが、それは奴には当たらず、ドアに当たり、床に転がった。