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3:連絡先の交換、したかったな

「あの、本当に送ってもらっていいんですか?」


「うん。今日の任務はもう終わっているからね」


「でも護符までいただいているのに……」


「気にしないでいいよ、澪。悠がここまで親切にするってことは君のことを気に入ったってことだから。遠慮しないで大丈夫」


「陽、余計なことを言うんじゃない」


二人は双子の兄弟で、苗字は本波と言い、政府機関「鎮守府」に所属することわりの守り手だった。陽は中学生ぐらいに見えたが、二人とも十九歳だとさっき知った。


今日、悠と陽は、鉄道会社の要請で、私が乗った電車で出没情報が寄せられていた地縛霊の浄化の任務についていた。


通常、浄化を行う際は結界が展開され、一般人はいない状態で行われる。


結界を展開して浄化を行う理由は二つ。


理由一つ目、それは一般人への霊の憑依を防ぐためである。


人間には、後頭部の髪の生え際の左右に「天柱てんちゅう」と呼ばれるツボがあった。


その左側の天柱から霊は人の体内に入り込み、憑依を行っていた。


通常、この天柱は閉じられていた。


ただ、心が弱っていたり、意図的に天柱を開いている場合があり、そういった人に霊が憑依しないよう、結界が必要だった。


理由二つ目、それは稀に悪霊や怨霊は暴れることがあり、そういった場合に周囲に被害が出ないよう、また逃亡できないようにするために、結界が必要だった。


展開した結界には、理の守り手と、除霊・調伏・浄化対象となる霊しか入ることができなかった。


今回私が結界に居合わせることになったのは、まだ修行の身とはいえ、理の守り手として認識されたためだった。


だが、なぜあかりちゃんはあの時、私の左の首筋、天柱から憑依しようとしたのか?


それは私が天柱封じのペンダントを着けていなかったからだ。


星稜学園に入学したその日から身に着けることが義務付けられているもの、それが天柱封じのペンダントだった。


五大元素の術で作られた碧い宝石がついたペンダントには、結界に等しい力があり、そのペンダントを着けることで、開いた天柱は守られていた。


そう、理の守り手は除霊・調伏・浄化を行うために、憑依を行う。


そのため意図的に天柱を開いていた。


常時開いた状態では霊が憑依してしまうので、憑依を行わない際はこのペンダントで開いた天柱を守る必要があった。


そしてもちろん私もこのペンダントをつけていたはずなのだが……。


どこかで落としてしまったようなのだ。


悠と陽は私の制服、ペンダントと同じ碧い色の襟のセーラー服とプリーツのスカートを見て、すぐに私が星稜学園の生徒と気づいた。


そして霊が私に憑依しようとした理由もすぐに分かり、ペンダントの代わりになる強力な護符を渡してくれた。


これがあれば十分だったのに、悠は私を家まで送ると言ってくれた。


そして陽は、悠が私のことを気に入っていると言っていた。


……そんなこと言われると意識しちゃうな。


私は横を歩く悠のことをチラッと見た。


驚くほどの端正な顔立ち。


目鼻立ちが整っているのはもちろん、光の具合で蒼くも見える黒髪もきちんと整えられ、清潔感があった。


細身であるが身長もあり、スーツのシルエットから相当鍛えていることも感じられた。


しかも悠は優しく、穏やかで、そして大人の余裕みたいなものがあった。


一連の浄化も的確に行っていたし、とても落ち着きがあった。


「澪、悠のこと気になるの?」


肩に乗っている鈴が小声で囁いた。


私は指でポンと鈴の頭を軽くはたいた。


「澪ちゃんの神使、可愛いね」


悠が私の方を見て微笑んだ。


……とても綺麗な笑顔。


笑顔を見て綺麗と思ったのは初めてだった。


私は自分が照れているのを感じ、慌てて


「悠と陽の神使は……ずっと姿が見えませんが……」


「うん、僕の神使は狼なんだけど今は霊体化している」


「あ、そうなんですね」


「澪、おれの神使はこれ」


陽が左の人差し指を立てるとそこに沢山の蜂が現れた。


「……! 蜂の神使、初めて見ました」


「うん。珍しいってよく言われる」


「あ、ここです」


私は家の前に着き、足を止めた。


「では明日、学校についたらすぐに先生に言って、新しいペンダントを受け取ってね」


悠はそう言うと、鈴の頭を撫でた。


「澪、今日は護符を肌身離さずでね」


陽は笑顔でそう言って手を振った。


そして二人はそのまま元来た道を戻っていた。


私は悠と陽の後ろ姿を見送り、小さくため息をついた。


……連絡先の交換、したかったな……。


「すればいいのに」


鈴はそう言うと、今にも二人の方へ駆けて行きそうだった。


「いいの。二人はいい大人だよ。後輩をただ助けてくれただけなんだから」


私は鈴を抱き上げると家に入った。


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