媚薬の後遺症
僕には酷く後悔している事がある。
容姿や性格に自信が持てず美人准教授に怪しげな媚薬を使用した事である。
初めての告白の際に使用した際には媚薬がバレ無いかという不安と緊張で上手く言葉を発する事ができず失敗してしまったのは思い出として残っている。
容姿や性格を自分なりに改善しながら告白に挑戦し続けた。
しかし最後の一押しとして彼女の飲みかけの缶コーヒーに媚薬を入れる事をどうしても止める事ができなかった。
冷たい缶コーヒーでも溶ける錠剤の残りが少なくなり最後の挑戦と決めて挑んだ。
思えば何かに本気で挑んだ事は僕の人生で初めての事かもしれない。
丁寧に管理されている訳ではない木陰の下のベンチに隣に並んで座り彼女の愚痴に付き合う。
人通りが少なく穴場であると彼女に誘われた場所である。
離席していた彼女が缶コーヒーに口を付けるのを自然な会話を続けながら待つ。
彼女はベンチで隣に座りずっと話を聞いてくれるがやがて缶コーヒーに手を伸ばして喉を潤す。
一世一代の大勝負である。
彼女の手を握り彼女の目を見ながら思いの丈を全て出し尽くした。
媚薬という自信は此れで最後なのだ。
僕は必死になって訴え続ける。
そして遂に彼女の了承を得ることができた。
一緒に過ごす季節を重ねて将来を約束して順風満帆な学園生活を過ごした。
疑いようがない僕の人生の最高到達点である。
そして地獄の入り口であった。
社会人となり会えない時間が増えるからと通信履歴の監視から始まり単独行動を極端に制限された。
女性関係についての制限は受けなかったが少しでも相手への好意が彼女に発覚した際に奇声を上げ感情が不安定になる傾向があった。
彼女も束縛をしたい訳ではないらしいが自分に自信が持てず何かで繋がっていないと不安だと伝えられた。
束縛状態から緊張を強いられる僕に限界が近づいていた。
このままでは互いの関係が修復不可能な状況まで悪化してしまうと感じて距離を取る事を僕から提案した。
予想通りに発生した家の中の嵐が収まり被害総額の計算と復興を二人で行い学園の頃と同じく二人並んで缶コーヒーを飲んで一息つく。
途中仕事の電話で離席したがその時以外はずっと忘れていた楽しかったあの頃に戻れた気がした。
次第に酷い眠気に襲われる。
彼女の温もりに安心を抱くのはいつ振りだろう?
心配そうな彼女を宥め別居の準備は明日からにしようと寝室に向かう。
「ただいま」
という彼女の声が聞こえてくる。
当然僕は返事を返す事はできない。
僕は酷く後悔している。
恋に自信を持てない他の誰かに同じ失敗をして欲しくない。
流動食と紙オムツを抱えて彼女が部屋に入ってくる。
「すぐにご飯を食べさせてあげるね」
狂気に満ちた彼女の瞳には僕の姿はどう映っているのだろうか?
手足を縛られて寝台から動けない僕からの忠告である。
怪しげな媚薬に手を出すな。
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