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鑑定商さんがイカれてる件について(04)

 やあみんな、ルパンだよ!

グラゴー生活三ヶ月っていうところかな。ようやく馴染んできたよ。

現在絶賛ホームレスさ。とは言っても、寝る場所はあるんだけどね。

街の郊外に小さな崖があるんだけど、そこに横穴を掘ったのさ!

絶妙に力を加減すれば、真っ直ぐ掘り抜けたんだ。

まあ、失敗もたくさん出ちゃったから、崖は穴だらけになっちゃったけどね。

入り口には大きな岩を置いておいたから、やばい魔術とか使われない限りは侵入されないだろうね。ハハッ!

ま、僕なら30%解放ぐらいでぶち抜けるんだけど、それだとその岩って使い物にならなくなっちゃうでしょ?

新しい岩を取るにしても、大きな岩ってそんなないから、10%ぐらいに抑えて押し出さなきゃだめなんだよ。面倒くさいし残念だなあ。


 茶番はさておき、俺は一応グラゴーで暮らす基盤ができた。やはり寝る場所はないと困る。

羊毛を布で包んだだけの簡単な布団だけしかない部屋でも、寝ている間に気がつけば何やら怪しい組織の牢屋だったとかよりはマシだ。

というか布団があるだけ幸せというものだろう。

 

 その資金は、五百円玉が全てをやってくれた。

鑑定商がいないか探していたのだが、仲良くなった酒場のマスターから近くにあるかなり大きな街である城塞都市バルテンに行けばいるらしいと聞いたので、バルテンとやらに行ってみた。


 いやあ、大きな街だった。

城塞都市の名の通り街全体を囲むように巨大な城壁が聳え立っていた。

たぶん20メートルはあったと思う。

そして、巨大な正門が街道の進む先にあって、そこで検分された。

不審者は中に入れないようになっているらしい。

思えば、俺って一緒に転移した他の二人と違って服装が変わらなかったんだよね。

つまり、今も学ランのまま。たぶん俺って明らかに不審者である。

どうして入れたんだろうか。よく分からねえな。「神」様の威光かもな、うん。


 中は居住地域と滞在区域、それに商業街、そして中心に白亜の城が聳え立つ貴族区域に分けられていた。

城壁内にもいくつか堀があったり塀があったりしていたので、できるだけ防衛できるシステムなんだろうな。

ちなみに、グラゴーの街も同じような作りだが、住んでいる貴族の偉さが違うみたいだ。

城の威容が別格である。これを見るとグラゴーの城はただの館にしか見えないな。

わざわざ城塞都市にしているんだから、ここは交通の要所だったりするんだろう。

ちなみになんか滞在区域を通りがかった時に、街の外に向かって長い列が伸びていた。一体なんだろう?


 目的の商人は商業街でも貴族領域の近い場所に店を構えていた。

『クリスの部屋』とかいう店名である。こんな名前のテレビ番組なかったか?まあいい。

店内は何やら綺麗な品に溢れていた。緻密なガラス細工なんかもある。

店内は賑わっていた。主に貴族で。

周りからは俺と俺の服装に奇異の目線が集中するが黙って列に並ぶ。

はっきり言ってあまり居心地は良くはない。

あんな白亜の城に住むようなヒト達だぜ?世界が違うっての。

恐らくこの店は貴族から買い上げた装飾品を他の貴族に売って儲けているのだろう。

よく考えられている。買うのが貴族なら金に糸目をつけずとも欲しいものがあれば買うに違いない。

売る方はいらなかったり飽きたりした人だろう。

貴族なら破産は基本的にないから安値でも快く売ってくれるはずだ。

ブッ○オフの進化版…いや、黙っておこう。決して文句は言っていない。

俺だって結構お世話になったもんね。


 そうこうしているうちに、俺が鑑定してもらう番になった。

先に記入しておいた申請用紙を提出する。

これを書くのは、『言語認識』が役に立った。まさか勝手に手が動くとは…

一歩前に出る。

後ろからは「あんな平民風情の子供が何を…」みたいに嘯く声が聞こえてくる。

潰してやりたいがやると明らかに運命が明らかなので我慢しよう。


「次は、君だね。私は鑑定士のクリストフだ。

 何を持ってきてくれたのかな?」


 人の良さそうな初老の男性である。

もしかしたら俺は子供扱いされているのかもしれない。

まあ身長()平均的だったし、そこまで高いとは言えないからな。

 でもな…俺はここで、自分で自分を守って生きていくんだよ。

少しは俺を置いて行った奴らを見返したいじゃねえか…!

 身の内に秘めたる熱意を精神力で押し殺し、俺は平然とした様子で答えた。


「これです。緻密な紋様が秘められた硬貨のような円盤です。

 色と模様と大きさが違うものもお持ちしました」


 そう言って、俺は五百円玉と残っていた十円玉を包まれていた布から取り出す。

先日レモン汁で磨いてきたやつだ。ピカピカに光っている。

それがクリストフさんに見せられた瞬間、”声”が頭に響く。

何度か経験してきた感覚だ。


《『欺瞞』が発動…一部失敗》


ん、一部失敗ってどういうことだ…と思う暇もなく、クリストフさんが跳び上がった。


「ちょっと…!君の名前はルパン君、かな?これは…ごめんね、こっちに来てもらうよ」


 あ、これ、バレた系ですか?

そのまま奥の部屋に強引なほどの勢いで連れ込まれる。


 終わったかもしれません、「神」様…あなたのせいですよ…

いや俺が悪いんだけどな。


 クリストフさんに連れられた先は豪華な部屋だった。

趣味がいいと言うのだろうか。店内よりも調和が取れた作りになっていた。

しかし、それは逆に逃げられないような圧力を持って俺を責める。

暗い気持ちに苛まれながら着席すると、クリストフさんがドアを閉めた。

ガタンと冷たい音。俺にとっては絶望の響きだ。

まあそれも仕方ない、俺のしたことは騙しだ。

『コソ泥』と呼ばれても文句は言えない。

汚名返上すると言った自分はどこへ…

 その瞬間、俺は無意識に謝っていた。


「…その、すみません!」


しかし、返ってきた反応は予想だにしていなかったものだった。


「へ?ルパン君?どうして謝るんだい!

 あんなに素晴らしいものを持ってきてくれたのに!」

そう言うと、彼はきょとんとする俺に畳み掛けた。

「まずあの材質だ、見るもの誰もを惹きつける、キラキラした輝きを持つ表面!

 あれで私は見惚れたね!

 そして、君が言う通り緻密な細工!

 見ているだけで引き込まれるような、天上の美しさを放っていたよ。

 君はあれを円盤と言ったが、それは違うだろう?

 遥か古代に鋳造された装飾品だよね?違うかい?」


 一息に言い終えて、クリストフさんははあはあしている。

流石に終わりか、と思ったらまだ続きがあったらしい。

フラグでしたね。


「これだけ素晴らしい技術は今では失われてしまったからね…

 さぞ大切に受け継いできたのだろう。

 状態が完璧だったからあの輝きが見れたのだから、ね」


 十五歳の男性に顔を紅潮させている初老の男性がいます。

これこそ不審者では?

…いや、そういうことでは断じてない。彼は硬貨に見惚れているだけだ。


それにしても驚きである。これは単純に俺が磨いたのが良かったのだろうか?だとしたら嬉しいものだ。

独立行政法人造幣局には感謝しても仕切れないな。

 もしかして、『欺瞞』が一部失敗したのって、彼の言葉から考えるに俺が「円盤」と言ったことに対してクリストフさんが無意識に抵抗(レジスト)したからではなかろうか?

まあ今から思えば「円盤」というには少しどころか大幅に小さいな。

「硬貨」と言いたくなかったので適当に「円盤」と言ったが、俺のネーミングセンスの問題だ。


 しかし、これは困った。俺が提示したのはとある国家において日常的に使用されている貨幣なんだよな。

それを古代の伝説的装飾品とか言われても日本人は困惑するだろう。

このまま買取に応じてもらっていいのか…


 心中は複雑だ。俺としては資金は欲しい。

しかし、このままだと騙すような真似をしたことになる。

『コソ泥』と嘲られた自分自身を脱却しようとした自分がだ。

 俺は盗みをしたことはない。しかし、そんな俺が『コソ泥』と呼ばれるには理由があるはずだ。思えば、俺は元の世界では『怪盗』と呼ばれていたこともあった。からかわれていたにしろ、まだ幾分か『コソ泥』よりは高潔な雰囲気が漂う。

『怪盗』は単にからかっているだけだったのだろう。まあ名前のことだ、諦めざるを得ない。

しかし、『コソ泥』は違う。明らかに嘲りの意図が込められた言葉だ。

 『コソ泥』と呼ばれるような矮小な存在だと思われてしまうのは、自分自身の過ちである。

 それを脱却すると誓ったのだ、嘲られるような行為は慎むべきだろう———


 少し長くなったかもしれないが、それが俺の覚悟だった。



「クリストフさん、その…」


俺は覚悟のままに話しかけた。


「ん?なんだね?」

「これ、ある国の一般的な硬貨なんです。私もそこにルーツがありまして。

 そんな貴重なものではありませんので、あなたがそこまで熱烈に評価してくれるとは思っていませんでした。

 その、勘違いさせてしまったようですみません…」


 俺はやっぱり駄目な奴だ。

誤魔化すように「勘違い」とか言ったが、実際は騙しているも同然なのだ。

 覚悟が足りない。

 ああだこうだと御託を並べた所で、結局は自分が大事なのである。

しかし、返された反応は予想をまたもや外れていた。


「そうか…こんな素晴らしい硬貨を流通させていた国があったのか…

 もう今はないのだろうな、行けたなら行ってみたいものよのう…」


 造幣局の皆様、ありがとうございます。あなた方は日本の誇りです。

ん?待てよ。この人はこれが硬貨だと言っても褒めてくれた。

『欺瞞』ってそこまで関係ないのでは…!

 そう思ってからは早かった。罪悪感がないのなら、やることは一つだ。


「お褒めいただき恐縮です。つきましては、これをお買い取りしていただけると…」

「わかった。金貨十五枚でどうだ?」


 即購入である。どんだけ魅入られてるんだ…、クリストフさん。

 こうして、俺は当分の生活資金を手に入れた。

クリストフさんもハッピー、俺もハッピー。win-winである。


 こうして、俺は城塞都市バルテンから帰宅した。

で、俺は今もつつがなく暮らせている、という訳である。

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