表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/23

望まない環境破壊をしてる件について(03)

 周囲に轟音が響き渡り、衝撃波でまばらに生えていた木が吹き飛ぶ。

それが地面に降り立った瞬間、その地点は破壊の限りが尽くされた。

究極複合魔術『絶縁破壊』ダイエレクティック・ブレイクダウンが見せた大破壊には及ばないが、大地には巨大な割れ目が走り、降り立った場所は大きく抉れた。


 俺は思わずため息をついた。

あたりは見るも無惨な状況になっている。

もしかして、これってなんか身体能力がおかしかったりする?

俺の頭の中に疑念が生まれた。


 状況を確認しなおそう。

俺は走ろうとして利き足を踏み出した。

上空に浮かび上がっていた。

高空から着地したために周囲は大破壊。

以上。


 しかし、まず第一に、なぜ上昇したかは置いておいて、あれだけの高空から落下してなぜ無傷なのだ。

また、単に人間程度の質量が落下しただけであそこまでの破壊が起きるとは思えない。

要は、この体はどこかおかしい。

試しに腕をつねってみたが、金属が砕けるみたいな音をたてて激しくちぎれた。

その時は激しい痛みと後悔に囚われたが、数分放置したら次第に修復されていった。驚き&ドン引きである。

あ、これってあれですか、「スキル『自己再生』」みたいな。


 スキルの真否はどうでもいいとして、この体に秘められた力は想像を絶するものらしいとわかった。

だったら、この力をうまく活用すれば空腹で倒れるより先に最寄りの町とやらに辿り着けるかもしれない。

もっとも、一歩一歩でクレーターを作っていくなんてことはしたくない。降下している時間が怖すぎるってのはあるが。

幸い近くに人里はないので、ちょっと失敗したぐらいなら問題ない。

え?ここが誰かの私有地かもって?…そんなことは知らん。


 まず、踏み出す力の調節だ。

上方向に向きすぎていたから恐らく吹っ飛んだのだろうから、前方向に押し出すイメージで地面を蹴ると…

案の定、超高速で空中へ浮かび、五百メートルぐらい先に落下。またもや地面が大きく抉れてしまった。

いちいち環境破壊してしまうこの体を呪いたい。

次は、少し力をセーブして前に力を向ける。

すると、百メートルと少し進んだところで地面を削りつつ着地した。

今までの惨状からすれば割と成功かもしれない。次からこの方法を取ろう。


しかし、俺は数回跳んでいるうちに気づいてしまった。

これ、一回跳ぶ事にめちゃめちゃ体力を消費する。

急がなければグラゴーとかいう町に着く前に倒れるかもしれない。

いや、逆だ。休み休み行けばいい。

空腹でダウンする前に到着していれば何とかなるだろう。


 ということで、百五十メートルおきに細長く地面を削りながら俺は跳び続けた。

一回跳ぶごとに二、三分ぐらい休憩していたら、百回跳んだあたりで日が沈みだした。

今日はここらにしよう。就寝。


 翌朝も、起きたらすぐ跳び続ける。空腹が襲い来る前に町に着かねばならない。

いや、もう来てるんだが。精神力で何とか我慢して町へ向かう。

  

 再び日が傾きかけたころ、瀬川の教えてくれたグラゴーという町に到着した。

そこまで大きな町ではないが、活気に溢れていた。地方の中心都市といった感じだろうか。


 さて、ここからどうしよう。帰れるものなら元の世界に帰りたいが、そうやすやすと帰れそうな雰囲気はない。

まずは食事だ。二日近く何も食べていない。まずは何か食べなくては。

とりあえず何か食べられそうなものが置いてある場所を探さなくてはならない。

人だかりのできているところへ行ってみると、そこは市場のような場所だった。当たりである。

当然だが言語は理解でき、な…


「あれ、どうして文字が読めるんだ?」


 なぜか、書かれている文字の発音は理解できないのに、その意味だけはわかる。

そんな不思議な現象が起きていたので、そう呟かずにはいられなかった。

そう呟いただけだった。


 その瞬間、頭の中に”声”が響き渡った。


《『言語認識』は正常に作動しました》


『わっはっは!小さきものよ、それはワタシによる補正効果だ!ありがたく思え〜!』


 ああ、この声は。転移の時に聞いた、あのアホらしい、それでいて理不尽なまでの力を感じさせるあいつ。

それとともに電子音声みたいな音が聞こえたが、それは向こう側の何かなんだろう。

 全くまともな「神」だとは思えたもんじゃないが、バチでも当たりそうだしありがたく思っておくとするか。


俺はとりあえず食べ物を探すことにした。

物々交換できそうなものは俺は何一つ持っていない。

月末の寂しい財布をゴソゴソあさったが、財布の中にあったのは五百円玉が一枚と百円玉が四枚、十円玉が三枚である。

隠し財産で五千円札を部屋に封印してあったが、今持っていないしまずこの世界でお金として認めてもらえるとは思えない。

市場を見たところ、使われているのは主に銅貨のようだ。たまに銀貨も見かける。金貨はそうとう高額貨幣のようだ。当然そんなものは持っていない。あ、もしかしたら五百円玉で勘違いしてくれるかもしれないが、それを試すことの出来るほどの勇気は俺にはない。

百円玉は銀貨みたいなものだろう。恐らく物価から考えて同じくらいだと思う。うん。

勇気を出して、新鮮そうなトマトを売っている人の所へ向かう。


「すみません、このトマト頂けますか?」

「…?食いたいなら金を出してくれ…」


……は?会話が噛み合っていない。


《『言語翻訳』に誤作動が発生》


また機械音声みたいなのが聞こえた。さっきの変な「神の声」と一緒に聞こえたやつだ。

誤作動?しっかりしてほしいぜ、ポンコツ野郎。

もう一度言い直してみる。


「えっと、このトマトを買いたいのですがよろしいですか?」

「お、おう……さっきはどうしたんだ?

値段は銅貨五枚だぞ」


ま、まずい。俺が持ってる十円玉は三枚だ。

百円玉と交換とかできないかな?


「じゃあ、これで」

「ん、銀貨か?ちょっと模様が変だな」


俺は百円玉を渡してみた。覗いたところ、銀貨は銅貨の十倍の価値があるはずだ。

…待て。これって貨幣偽造とかになるのだろうか。

大罪!許すまじ!


そう思っていた時、またもや”声”が頭に聞こえてきた。


《『欺瞞』が発動……成功》


今日はあの邪神とやらに助けられてばかりだ。


「お、おお。まいどありい。これがお釣りだ」

「ありがとうございます」


よし、これで偽造じゃない硬貨が五枚手に入った。

しかし、なんか使った効果の名前が『欺瞞』とかちょっと罪悪感がある。騙しているようだ。

「コソ泥」だからこんな効果が使えるんだとしたら、便利だが複雑な気持ちだ。


トマトを食べ終えた。久しぶりの味が懐かしい。

で、今の食事で分かったことがある。

俺は別に怪力でトマトを爆発四散させたりはしなかった。

つまり、力を発動させようと思わなければ普通の力で過ごせるらしい。パワーアップモードのようなものだろう。

久しぶりの食事に体が喜んでいるのがひしひしと感じられる。


さて、俺はこれからどうするのか?

 まず第一の至上目的は、元の世界に戻ること…と、言いたいが、俺は元の世界にはほとんどいい思い出はないのだ。

とはいえ、あんな名前を俺につけたような奴でも一応はたった二人の親だ。悲しめば俺もいい気はしない。

しかし、まずどうやって生きていくかを探らなければ。この問題は後回しにしよう。


 さて、この世界にある程度の文明がある以上、俺はどうにかしてお金を稼がなければならないだろう。

持ってきた百円玉や十円玉では到底暮らせるはずがないからだ。

だいいち、『欺瞞』とやらがいつも通用するとは限らない。

そうだ、五百円玉を芸術品として商人か何かに売り払えば、そこそこの金額になりそうである。

そこで『欺瞞』が使えるなら、「非常に緻密な紋様」とでも言えば信じてくれるかも…いや、希望的観測はよそう。

 まあ当分の生活ができればそれでいい。


 そして、俺には解決したい問題がある。

それは、「なぜ、俺は他の皆と違って魔術が使えないのか」である。

魔術が使えるのと使えないのではやはり違うだろう。

いくら身体能力が高かろうと、空気を遮断されたりすればイチコロだ。

あと、喉が乾いた時にわざわざ井戸まで行かずとも水を生成したりできる。

意味がないように思えるが、敵に追いかけ続けられた時などに重宝するかもしれない。


 つまりは、俺の願望は「詳しい魔術師に会って質問攻めにしたい!」である。

しかし、凄腕の魔術師とそう簡単に会えるものではない。

だから、ある程度この町に馴染もう。俺だって、ある程度のコミュニケーション能力はあるはずだ。

よし、ボッチ生活から早く脱却せねば。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ