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018話 なぜか絡まれる件について

 俺はコミュ力が低い。

これは前の世界で身についてしまったものだ。

まあ…察せ。

小学校時代は単純に名前でからかわれ、中学入ってからはスペックが低すぎて罵倒された。

要は、まともに意思疎通する機会がなかったからな。


 が、転移直後は「食わないと死ぬ!」「情報がないと死ぬ!」って状態だったのでリミッターは外れていた。

グラゴーの八百屋のおっさんがいい例だ。

酒場(?)のマスターもいたな。

彼らは当然見ず知らずの人である。

俺もやればできるのかと思ったよ。


 しかし。

先日の入試でトラウマが蘇ってしまった。

あれは無理だ。

正直死ぬかと思った。

事実、魔力切れもあったとはいえ会場で二回も気絶してるし。

人に視線を浴びせられる度、全身を蹴られた痛みや助けのない心細さが俺の心を蝕む。


 それを前提として聞いてほしい。


 この状況、なに?


 受験番号79ことレイラ・シャウアーは、今年の新入生の中で一番有名かつ優秀だ。

俺がそう断言しているわけではない。

嫌でも聞こえてくる噂話から知ったことだ。

性格は自己中心的で他者を軽視するが、一定以上の力を持つ者には敬意を払う。

得意属性は水。

ついたあだ名は『氷の令嬢』。

何でも彼女の祖父も名の知れた魔術師らしい。

それはいい。


 問題なのはその前だ。

噂話、すなわち、この学年の中での共通認識。

人前で、俺がレイラに話しかけられる。

それは、俺が一定以上の力を持っていると認識された事になる。

 試験でやらかした俺が。

それによって生まれるのは、「なんでアイツが」という考えである。


 結果。

俺がイジメられます。


 いや待ってよ。

なぜ充分元の世界でイジメられた俺が更に罪を受けなければならない!?

異世界来てまでも陰湿さとお別れできないのか…。

まあ、異世界人が地球人のような短絡的な性格をしていないことを願おう。


 そういう不安と、レイラからの視線と、レイラに俺が話しかけられたことに驚いた周囲の視線と。

見事なまでの三重苦。

ねえ、ここ地雷原?


 が、そんなことを長々と考えていられる時間はない。

俺の脳の処理レートは高くないけど、最適解をこの短時間で…!


「じゅ、受験番号…79でしたっけ?

 レイラさんも、お久しぶり」


 俺の脳が吐き出したのは極めて模範的な回答だった。

それにも関わらず、俺の口は盛大に噛んだ。

あ〜、邪神でも何でもいいから俺に力を貸してくれ…!


「私に対してその口調はいただけないわね。

 まあ、試験の時に面白いものを見せてもらったからギリギリ及第点かしら。

 で、あの赤黒い弾はなに?」


 うわ〜…。

コイツ俺が一番苦手なタイプだ。

自分の意見だけを相手に通して、人の話聞いてくれない人。


「あ、いや、その、ですね…」


「何?答えられないのかしら?

 無理やり吐かせてやってもいいのよ?」


 待って待って…これ脅迫ですよ!

クッ…やっているのが美人だから許されるのか…!

俺にも主人公補正プリーズ!

イケメンならコミュ障でも…逆に許されないか。

 とにかく…この場を乗り切れる言い訳を!


「あ、あれは、魔力弾と呼んでいるものでして。

 詳細は長くなるのでまた後日…!」


 そう言って立ち去ろうとすると、案の定レイラに肩を掴まれた。


「え?私を待たせるつもりかしら?」


 ですよね〜。

いやマジでどうすんのよさ。


 刹那の間途方に暮れていると、救世主が現れた。

そいつは長身の男だった。

どうしても目がいってしまうのは髪だ。

視線を奪う、派手派手しい赤色。

そして、形容できないほどにイケメンだった。

はいきたテンプレ〜。


「レイラ様、弱い者いじめはお辞め下さい——」


 おお!お前は神か!あの邪神より神ムーブしてるぞお前!

いや、というか瞳まで赤とかファンタジーしてるな、ほんと。

が、それも束の間、その真っ赤な瞳がこちらに向けられると、ゴミを見るかのような目でこう吐き捨てた。


「——尊き御身体(おからだ)が穢れます」


 その突然のギャップ何よ、期待して損した。

いや待て、そういえば…!

コイツ、受験番号87の人だ。

レイラが放った『濫水収束砲(スーパーセル)』を真似て失敗してた人だ。

そう思うと、なんかポンコツ同士親近感が湧く、というか?

いや湧かないわ。

水砲弾(ウォーターボール)』撃ててる時点で俺より優秀ですね。


 俺がその場に立ち尽くしていると、彼はレイラの腕を引っ張りつつ言った。


「レイラ様、そろそろ戻りますよ」


「ちょっと待ちなさい!

 まだ133から魔力弾の撃ち方聞いてないの!」


「あんな下賎な者に構う必要などありませんから」


 133って…俺は囚人か。

というか俺のせいで揉めてんのかこれ?

だとしたら申し訳ない。


「あの…お気になさらず?」


「お前は黙ってろ」

「あんたは静かにしときなさい」


 同時に強力な精神攻撃を受けた。

おおっと、ルパン選手再起不能か!

あかん、シンプルにキツい。

 というか二人ヒートアップしてね?

レイラの方とかなんか魔力が手に集まってる気がするけど気のせいかな〜?

おいおいまさか、ここで殺し合いしたりしないよな?


「水でも被っときなさい!」


「いや、ちょ、やめてください…!」


 ちょっと待て、男の方喜んでね?

もしかして:ドM?

レイラの方は間違いなくSだよな。

あらあら、お似合いですこと。

これを思考するのにかかった時間は数秒。


 しかし、その間だけで、レイラの術式は完成しているようだった。

おいおい、それは良くないって…!

レイラの手が開かれる。


 その手に水が出現して、それは男の方へと鋭く向かっていく。

俺が一歩後ずさったその時、何やら不快な音と共に水が掻き消えた。

次の瞬間、全身が震えるような倦怠感に襲われる。

耐えられず、俺は地面に倒れ伏した。

それから次々と同じクラスにいた同級生たちも倒れ伏す。

レイラと赤髪の男が倒れたのは最後だった。

しばらくして、倦怠感が消える。


「おい…なんだこれは?」

「何の魔術でしょう?」

「こんな魔法知らないぞ?」


 今のは何だったんだろう?

俺もよくわからない。

ただ、これによく似ているのは魔力が底をついた時の感覚だ。

レイラの魔術が消えたことを考えると…。


「強制的に範囲内の魔力を吸い取った…?」


 しまった、声が出てしまった。

周囲の視線が俺に集中する。

やべぇ、やらかした…!

視線よ、散れ!


「そのとぉ〜り〜!」


 ファッ!?

危ねえ、これも声に出てしまうとこだった。

 声の主は後ろ。

恐る恐る振り向いた。

次の瞬間また元の方向に顔を戻す。

一瞬で、ここ重要。

そこに見えたのは、見てはいけないものだった。

あ、いや、顔が前後両方についていたとか見た瞬間死ぬとかそういった類いのものではない。


「なかなかやりますねぇ〜、君!」


 彼の見た目は完全に変質者であった。

彼と日本で出くわしたなら、間違いなく通報するレベルの変質者だった。

普通のマッシュルームと言われたら、丸く膨らんだ髪型を思い浮かべるだろう。

だが、それは頭の形が丸いから丸く見えるにすぎない。

 彼の髪は、物理的にキノコの形をしていた。

モジャモジャとした髪が生えている上に、真っ直ぐ上に髪が伸び、それは頭上で広がって大きな傘となっていた。

そして、色はオレンジだった。

これは元からとかではなく、明らかに染めた雰囲気が出ている。

極め付けに、大きなレンズの丸メガネ。


 よくわからない?

安心しろ、俺もだ。

これが噂に聞くマッドサイエンティストというやつか。

俺だけでなく、同じ教室にいる誰もが顔を引き攣らせていた。

良かった、異世界にも常識があって。


「教室内での魔法の許可なき使用は禁止されてまぁ〜す!

 魔力の実体化が確認されましたのでぇ、止めさせてもらいましたぁ!」


 …その割に言っていることは至極当然のことである。


「で?あなたは何者なんですの?」


 いやレイラ、よく聞く勇気があったな…。

俺には多分数億年早いだろう。


「ああ、申し遅れましたぁ。

 ワタクシ、生活指導担当のアドニスと申しまぁ〜す!」


 ?!

せ…生活…指導…担当だ……と…!?

コイツが?

この見るからに生活を指導されそうなコイツが?

あのレイラでさえもドン引きしている様子。


「ん〜、言いたいことはわかりますよ〜?

 でも、今年はワタクシの担当なんです〜。

 てなことで、一年間よろしく☆」


 それだけ言い残して、アドニスは教室の後ろにある転移魔法陣から帰っていった。

フッと来てフッと帰っていったな。


アドニスが帰った後、教室には微妙な雰囲気が流れていた。

状況をうまく飲み込めていない様子。

うん、まあ、普通そうだよな。

静寂に包まれる教室。

レイラでさえも押し黙って、話し出せないでいる。

こういうの苦手だからやめて欲しいんだが…。


と、俺がそろそろ耐えられなくなってきたころ、また魔法陣が光り出した。

来たれ!救世主2号!

出てきたのは、どこかで見た事のある顔だった。


「少々遅れました、A組担当のカトリン・シュヴァルツシルトです。

このクラスの人のせいで遅れ…いえ、この話はやめておきましょう。

はい、それではよろしくお願いします」


オレンジの髪の彼じゃなくて良かった…。

今思えばこの人って試験官だった人だよね?

いろいろ奇遇だ。




あの後は普通に学校の説明だけされて、それで終わり。

転移魔法陣の使い方とかもわかった。

カトリン曰く、今日はあくまで説明だけの日らしい。

自己紹介なるものがあるのではと戦々恐々だっただけに、ありがたくてたまらなかった。

が、刑執行日が延びただけに過ぎないな。


教室から出て、レから始まってラで終わりそうな人の熱い視線を浴びながらそそくさと帰路に着く。

ああ、勘違いするな、殺意の篭った(あつい)視線だよ。

ようやく校門…と思ったら、そこにも先客がいた。


「だいぶ待たされたのう」


それは転移させてくれた時に俺を睨んだ爺さんだった。

彼は一言呟くと、その老体からは想像できない速度で彼は歩み寄り、俺の腕をがしりと掴んだ。

デジャブだ…。

こいつら血縁か?(作者:ガチです)


「ほれ、行くぞい」


「え、ちょ、待ってください…」


「ん?安心しろ、手荒なことはせん」


その目が俺を再びギロリと覗き込んだ……。

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