011話 鍛錬
再び『竜王の家』を出た。結構稼げたのではないだろうか。深緑双脚竜と同じようなサイズの竜には三階層で多数遭遇したので、その都度魔晶石へと変わっていったからな。
まあ、どう考えても俺一人では深緑双脚竜の突進を防ぐのは無理だったから、パーティを組めて素直に良かったと考えるべきだろう。
あの突進してくる竜の恐怖はまだ残っている。
そんな俺に気づいてか気づかずか、シーナさんが話しかけてきた。
「どうだった?竜もやろうと思えば倒せるでしょ?」
「…いや、一人じゃ無理ですね」
「三人なら余裕だろ?な?」
「まあ…そうですね。お二人とも強くて」
「そうか?ありがとな」
ギルドに戻ってきた時、あたりはすでに暗くなっていた。
そのままカウンターに直行する。
結構周囲から注目されているらしい。周囲から視線を向けられるのはあんまり得意とも苦手とも言えない。こればかりは仕方ない。笑い物にされていた時の記憶が蘇る。
「二人とも有名なんですね」
「ああ。最近来て結構なスピードでBランクまで上がったからかな」
「そうね。割と注目されてるみたいよ」
二人とも来たのは最近なのか。まああれだけ強ければランクがすぐ上がるのも頷ける。
まあ、俺も二人にくっついてるだけの奴と思われないように精進せねばな。
結局、竜の魔晶石が効いたからか金貨二十枚分も稼ぐことができた。
均等に分けて今日は解散。
この調子で行けばすぐに学校に行けるだけの金が集まりそうだ。
グラゴーの部屋に戻り、色々考える。
竜の突進を前に立ち尽くしていた時の記憶がありありと思い出される。
あの時、シーナさんが防壁を張ってくれていなければ?
答えは簡単だ、スプラッタだろう。
いかに俺の体が頑丈だといえ、あの質量の前には無力だ。
つまり、俺一人ではあの竜は倒せなかったはずだ。
しかし、残りの二人はいとも容易く竜を葬った。
俺って、どうしてあのパーティに入れてもらえたのだろう。
俺なんかいなくとも、二人で十分強いじゃないか。
恋人水入らずでいた方が良かったんじゃないのか?
あのあと調べたところによると、あの深緑双脚竜はAランクの魔物だ。
それを簡単に倒すのなら、二人はAランク以上は少なくともある。
Aランク冒険者なんて、数千人の冒険者が出入りするあのギルドで数人しかいないほど貴重な存在だ。
俺、役に立つのか?
いや、ネガティブに考えるな。そこでいかに役に立つのかを考えるのが俺の仕事だ。そうすると決めたじゃないか。
あの竜に二人の助けなしで勝てる程度の強さにはなっておかないとな。
俺も、殴るだけじゃなくて色々試さなければならないかもしれない。
その日は崖のふもとで一人鍛錬に明け暮れた。
考えたことは主に二つ。
まず、普通の突きについてだ。
俺は拳法などを習っていたことはない。
だから、普通に真っ直ぐ腕を突き出すことしかわからない。
しかし、それにさらに威力を増大させる方法として魔力を込めることを思いついた。
別に、虚空を殴っただけで衝撃が伝わってくるとかいうわけではないよ?あの人(?)は格好いいんだが。
まああのことはいい。俺の体内魔力量はそこまで多いというわけではないので、これは多用できない。切り札的な存在である。
で、実際試してみたが、「魔壊拳」と名付けたそれは結構な破壊力を誇っていた。
崖にですね、通常の砕鉄拳と比べてなんと!三倍ほどの抉れを作りました。
でも、お高いんでしょう?
いえいえ、プライスレスです。魔力は高くつきますがね。
まあ、魔晶石を取り込むと魔力が回復するというのは知っている。
そういうわけで一応補充可能だから、問題はない。
常に複数個の魔晶石を持ち運んでおけばいいのだ。
そしてもう一つ、魔力を注ぎ込むという発想から、拳の先に熱を発する魔道具を括り付ければ面白いのではないかと思った。
例の鍋は大きすぎて向いていない。
ということで、ふたたび魔道具店へ。
カイロ型のものがあったので、ちゃんと正規料金で買った。
銀貨五十枚だったが、まあためらう額ではない。
最近は潤っているのだよ。ほっほっほ。成金趣味はないのだが。
店員さんには今度は逆に疑われる目で見られた。
理不尽だ。
どうやら傍から見れば俺も少年らしい。
前より背が縮んだとか沢渡も言ってたしな。
今思えば、水面に映る自分の姿がちょっと小さいなー、あと前よりガリガリになったなー、と思ったことは前からあった。
くそ、管理者の野郎め。人の体型弄って楽しいか…?
ま、あいつがやったという証拠はないので限りなく黒に近いグレーだ。
翌日。再び『竜王の家』に二人と合流して向かった。
あの二人って同棲してんのか?ま、リア充のすることには興味などない、うん。
ふとギルドカードを眺めて、気がついた。
「ユーグさん、気づいたらランクがEになってました」
「いや早いな。まあ、稼いだ魔晶石の分のポイントは全員に付くからな」
それだけ竜狩りは稼げるということだろう。この人たちがいなければ竜なんて縁もなかったと思えば、感謝してもしきれない。
今日は前回の転移魔法陣があるので、そこに転移する。
念の為にシーナさんが張った結界に包まれて俺らは迷宮内へ転移した。
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目の前を歩く新たなパーティメンバーを見て、ユーグはため息をついた。
こいつ、強くなりすぎじゃないか?
彼が数発拳を振るえば目の前の巨大なドラゴンも内部から一瞬で崩れ落ちる。
恐らく拳に魔力が込められているのだ。
シーナの鑑定によると体内魔力量はそこまで多くないそうだが、なにぶん魔力も込めない素手でドラゴンの硬い鱗を粉砕する威力なのだから笑えない。
素の破壊力に加えられた魔力がアクセントとなりその威力を生んでいるのだろう。
更に驚かされたのは、ひょっこり現れた幻妖赤蛇を瞬殺したことだ。
一撃が放たれると同時に蛇の体が一瞬で焼け焦げたように見えた。
あいつ、魔法使えなかったのでは?
そもそも、人族の体は頑丈ではない。硬い鱗を素手で殴って逆にダメージを与えている時点で異常なのだ。
本人からの告白もあってこの少年が例の人物であることに間違いはないのだが…
このまま野放しにしておいていいものか?ユーグは少し逡巡する。
考えたのち、一旦放置——そうユーグは決断した。
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本日の収穫、双脚竜十七匹。大蛇三匹。蜘蛛四匹。
結構今日も稼げた。深層に行けば行くほど竜が出やすいようだ。
二人にはなんか驚かれてしまったけど、人間は進化する生き物だからね。
これからも頑張って、役に立てるようになるのだ、と。
そう誓った。




