表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/23

00話 新たなる超克

 その男は一人孤独な戦いを強いられ続ける。


「なあ、どうしてお前はそんな態度なんだよ…」


 剣と剣が交わり、激しい音を立てた。


 彼は勇者でもなければ魔王と戦っているのでもない。彼の相手は神々しい覇気(オーラ)をたたえた人間だ。

王城内部。王の居る謁見の間に次いで大きい広間。

【魔滅聖将軍】アロイス・アクス。王国内で知らぬ者のいない男である。

それは、金髪長身で、近寄り難い覇気をたたえた厳つい男。

その手には数多の魔物や魔族、魔王すら葬った聖剣、『封魔神剣』(アパラージタ)

神代の言語において「無敵」を表すとされる名を冠する剣だけあって内包する魔力は圧倒的であり、男など簡単に切り裂かれそうである。

聖将軍の名の通り、光り輝く鎧に身を包み、その覇気だけで前に立つ者を畏怖させる存在、それがアロイスだ。

 男の苦し紛れの言葉にアロイスは律儀にも返答する。


「———我が神に仇なす者は殺す。それだけだ」


 蒼い長髪、浅黒い肌、そして漆黒の角を持つその男——ヴィクシルにはつい先刻まで仲間がいた。魔族の中でもヴィクシルと同族であり、そして志を同じくする者。

戦士で前衛を務めていたヴィクシルの他に、後衛として魔術師ギエンと回復術師ガズルの二人。

ヴィクシルが強烈なアロイスの斬撃を苦し紛れながら受け流し、ギエンが後方から攻撃魔法を打ち込み、そしてガズルが二人を守りつつ回復させる。

実に危ういバランスの上に成り立つ連携プレーだったが、それはあえなく崩れる。

 アロイスがヴィクシルをフェイントで引きつけ、たった一瞬前衛と後衛の間の距離が離れた。

その瞬間、チャンスとばかりにアロイスが殲滅魔法を行使した。


それは、万物を滅せうる究極の破壊の光。

空間型に展開された魔法陣が彼ら二人を捕縛し、その閉鎖空間の中に光が瞬く。

天から降りし閃光は空間内を反射し続け、逃亡を許さない。

そしてそれは次第に中心へと収束し、二人が立っていた場所を光が埋め尽くして——


後には、何も残らなかった。

『空間断絶』が施されているはずの広間の天井には外気の吹き込む大穴が開いた。

辺りには殺戮への抵抗の欠片も感じられない声が響くのみだ。


「ふむ。少し改良したが、威力は今ひとつといったところだな」

「お、お前…やってくれたな…ギエン…ガズル…」


 そのあまりにも相手を馬鹿にした発言に、ヴィクシルは思わず声を震わせた。

眼中にないとすら思っているように思える。

しかしここは戦場、立ち止まることは即ち死を意味するのだ。

その怒りを手にもつ刀に纏わせて咆哮する。


「お前も…お前も俺の大切な者を侮蔑するのか…!」

「ふむ。覚悟だけは一人前だな。いいだろう、ゴミにも見応えがある、相手をしてやろう」


 後衛二人を失ったヴィクシルは、より厳しい戦いを強いられることとなった。

アロイスの握る剣は神代から伝わる聖剣だ。いかにヴィクシルの刀が業物であろうと容易く叩き折られるれることなど目に見えている。

後衛がいた時は多少の無茶ができた。回復術師ガズルにより刀に強固な防御結界が張られていたからだ。

アロイスの斬撃で一回一回結界は切り裂かれるが、ヴィクシルがアロイスの剣を受ける度にガズルが張り直してくれていた。


 しかし、今はそれがない。

ヴィクシルはアロイスの剣を避け続けていた。

どうしても回避できない斬撃は自身の魔力を刀に纏わせて刀を守る。

しかし、比較的魔力量の多い魔族とはいえヴィクシルにもギエンやガズル並の膨大な魔力など持っていない。

神代から伝わる封魔の神剣を防ぎ続けることなど不可能だ。


「威勢の良いことを言う割には逃げてばかりではないか、拍子抜けしたぞ」

「黙れ!お前が強すぎんだよ、いや俺が弱いんだな…クソッ」


 アロイスは強い。

今まで見てきた中でも、ダントツだ。魔王様方にも引けをとらないかもしれない。

さすがに【冥獄帝】アンラ様とかは次元が違いすぎて彼の御方の強さを理解することさえ難しいが、彼の御方が圧倒的な強さを持つことだけはわかっていた。 

ヴィクシル自身、強さには自信があったが、それでも魔王様方に及ぶなどとは思っていない。

 そんな相手を倒すには渾身の一撃をもってアロイスを切り裂くしかないだろう。


「アロイス…お前を、この一撃で倒す。覚悟しな」

「ふむ。やれるものならやってみろ」


 傲岸不遜なアロイスの言葉が広間に響く。

通用しうる攻撃は一つだけ。一度だけ見た、魔王様の奥義。

ヴィクシルは自身の全魔力を練り上げて刀に込め、大きく跳躍して——


「死ね!『炎天終焉斬(フレイムレイ)』ッ!!」

「…期待外れだ。まあいい、死ね。『流水斬(ウォータージェイル)』」


完璧なまでのカウンター。業火を纏ったヴィクシルの刀は容易く受け流され、返す刀で胴を両断される。

ヴィクシルは吐血し、無様にも地面に尻餅をついた。


 致命傷だ。絶望的な痛みと薄れゆく意識の中で、ヴィクシルは思う。

…すまん、ニーナ、お前の恨み、晴らせなさそうだ…

婚約者の名を思い出し、再び絶望感を味わうヴィクシル。


「—————様、ゴミの掃除が終わりました」


人生の最後に恨んでも恨みきれない人物の名を聞くとは、俺もついてねえな…

そう思い意識が消失しかけた瞬間——


「わはははは〜!こいつか。うむ、まさにゴミだな!ははは!」


 圧倒的な神々しさの気配。そして聞く者を憤らせる口調。

瀕死のぼんやりした視界の中でさえ、その紅髪ははっきりと目に映る。

 仇敵たる少女が目の前に出現した。


死ねない…俺はまだ死ねない…!

せめて目の前のこいつだけでも…!

俺に…命を…力を……ッ!!!


その瞬間、一帯に”声”が響き渡る。


《緊急事態。対象の精神が制限を超克、支配からの逸脱を確認》


 瞬く間に瀕死だったヴィクシルの身体が再生し、膨大な魔力が彼の身に宿る。


「むっ、—————様、この者は見事『超克』したようです」

「ふはははは、全然弱いから心配するな!」

「しかし、放置すると問題でしょう。人間にとっては十分脅威です。

 私が今のうちに処理致します」


 アロイスが再び身構え、ヴィクシルも必殺の剣技を披露すべく覇気を集中させていく。

そして、再び放たれる太刀。先程とは比べるのも烏滸がましいほどの魔力が注ぎ込まれたその刀は、見るからに禍々しい覇気を帯びている。

その覇気に思わず体を引いたアロイス。

それを見逃すヴィクシルではない。


「—————ァ!俺の命に賭けて、お前を殺す!!!『炎天終焉斬(フレイムレイ)』ッ!」


 神代の聖剣たる『封魔神剣』(アパラージタ)とも互角に打ち合えるほどの魔力を込めた陽炎を纏った刀はアロイスとその後ろに立つ少女を両断…しなかった。

刀は虚空を斬る。

思わず後ろを振り返ったヴィクシルの目に映るのは、青く輝く魔法陣とその上に立つ二人。

その真上には大穴が空いていた。


「わっはっは!すまぬな坊や!私達は帰らせてもらうぞ〜」

「せっかくの戦いの邪魔をするとは…まあ仕方ありません、わかりました」


 ヴィクシルが状況を飲み込むより早く、二人は消え失せる。転移魔法だ。

ヴィクシルはその場に倒れ伏す。

仲間を侮辱したことは許せないが、アロイスは一応は勝負を受けてくれそうな雰囲気をしていた。

それに比べて…奴は何だよ…!婚約者の敵討ちすら許されないのか…!

ヴィクシルは再び確信する。

 アイツは、やっぱりクズだ。

待ってろ…次は…また…。


 気力を使い果たしたヴィクシルは、倒れるように眠り込む。

——『超克』って何だ?

その疑問を残して。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ