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ポーション②

 俺が街に入ると西日が最後の力で城壁の狭間を赤くして、コシカの家はすっぽりと影の中に包まれていた。


 コシカの家の戸をトントンと叩くと、コシカがすごい勢いで出てきた。


「おかえり、ヴォルグ」


「うん? ただいま」


「大丈夫だった?」


「大丈夫だよ」


 そう答えた俺が首をかしげるとコシカは「遅かったから……」と眉間にシワを寄せる。


「うん、ごめんね」


「べっ、別に無事ならいいけど」


 コシカが「入って」と言うので、俺が「ありがとう」とコシカの家に入った。


「いらっしゃい、ヴォルグ」


「おじゃまします、アルカさん」


 アルカが優しくほほえむので、俺はそれに応えた。


「泉の水はそっちに、それから薬草はその台に置いてくれる?」


「うん、わかった」


 泉の水を入れた樽をコシカの指示に従って作業台の横に置いて、薬草の入った布袋は作業台の上に、それと水筒も2つだしてリビングテーブルにおいた。


「コシカ、泉の水を水筒にも汲んで来たからアルカさんと飲んでね」


「えっ? いいの?」


「いいよ。とてもおいしかったから」


「そう、ありがとう」


 そう言ったコシカに続いてアルカも「ありがとう」と言ってくれたけど、その顔色は良くない。


「ヴォルグ、ここに座ってて」


「すぐに作ってくれるの?」


「うん、作ってみるから」


 コシカはそう言って腕まくりすると作業台についた。


 俺がリビングテーブルの椅子に座ると、作業台の上の魔法道具のランタンに照らされたコシカは小さなナイフで薬草をきざむ。


 そのきざんだ薬草を乳鉢に入れて乳棒でグリグリとすり潰し、それから練金釜に澄んだ泉の水とブラックリザードの骨の粉末を入れてグルグルと混ぜながらコシカは魔力を込める。


「全ての物は虚であり、虚でありながら存在する。求めよ。我に必要な物は世界の中に存在し、世界に足りない物は我が祈りの中に存在する。火は空気となり、空気は水となり、水は大地に戻り、大地から火は蘇る。大いなる業をここに」


 さらに先ほどすり潰しておいた薬草をそこに加えてグルグルと混ぜると、ほんのりと練金釜の中が光った。そして、緑色の少し澄んだ液体ができた。


「えっ?」


 コシカが小さな声をあげて、アルカを見た。


「母さん、なんか澄んでいるんだけど……」


 コシカは練金釜からその液体を小ビンにうつして、アルカのところに持っていく。


「母さん、どう?」


「コシカ、すごいわ。品質が『良』のポーションができているわよ」


「本当?」


 コシカがうれしそうにそのポーションを抱えながらほほえんで、お母さんは「本当よ」とやさしくほほえみ返した。


 コシカは練金釜の中に残ったポーションをすべて小ビンに移すと、俺の前にできあがった5本のポーションを置いた。


「とりあえず、ヴォルグの取り分ね」


「こんなにいいの?」


「いいわよ。もらった素材でまだまだ作れるし、少ないぐらいよ」


「そうか、ありがとう」


 俺はわけてもらったポーションを1本だけ残して全て『ストレージキューブ』に入れておく。


「コシカ、ポーションでアルカさんの病気は治せないの?」


「うん、使えば一時的に痛みが和らぐけど治らない」


「なるほど、でも和らぐのか」


 俺はコシカの手を取って『ストレージキューブ』に入れなかったポーションをコシカの手にのせる。


「とりあえず、これはアルカさんに使ってあげて」


「えっ?」


 コシカは驚いて、自分の手の中にあるポーションを見た。


「でもこれはヴォルグの取り分よ」


「そうだね。だから俺の使いたいように使うさ」


「でも……」


「それにまたコシカが作ってくれればいいだろ? 素材は俺が獲ってくる」


 するとコシカは「はぁ」と息を吐いた。


「ヴォルグはさ、ただでさえ何かにつけて税を取られるんでしょ?」


 首をかしげたコシカが「大丈夫なの?」と上目遣いで見てくる。


「大丈夫だよ、今日もレッドボアが狩れたから、あとで解体して売ればいいお金になるし」


「あとで?」


 俺が「うん」とうなずくとコシカが「あのキューブね」と笑う。


「そうだよ。このストレージキューブは中に入れた物の劣化を防いでくれるんだ」


「嘘でしょ?」


 コシカが目を見開くと、アルカが「ストレージキューブ?」と呟いて、それから俺を見た。


「ヴォルグのお爺さんってギロイ様って名前じゃない?」


「うん、そうだけど。アルカさんはギロイ爺ちゃんのことを知ってるの?」


 俺がそう聞き返すと、アルカは驚いた顔をして「知ってるわ」と言ってから「誰でも知ってるわよ。ギロイ様は世界を救った英雄だもの……」と言った。


 俺は「そっか」とうなずく。


「だけど、爺ちゃんはその呼びかた嫌いだったみたいだよ」


「えっ?」


「昔訪れた街で、そう呼ばれて悲しそうな顔してたから……」


 俺が言い淀むとアルカは「そう」と呟いた。


「まあ、どちらにしてもお金は大丈夫だよ。今日はキノコや木の実もたくさん拾って来たし、それにお金が必要ならまた明日からブラックリザードを狩りに行けばいい」


 コシカは「だからってね」と言ってから小さく「はぁ」と息を吐いた。


「これ以上言っても無駄ね。ありがとう、ヴォルグ」


「うん」


「だけど、無理はしないで。こんなことをしてくれなくても私はあなたの友達だし、施されるばかりは嫌なのよ」


 俺が「そっか、わかった」と言うとコシカは「わかってくれればいいのよ」とほほえむ。それからアルカもベッドに横になったままで「ありがとね、ヴォルグ」と小さくほほえんだ。


「ヴォルグ、また5日に来てくれる?」


「うん」


「その日までにポーションを作っておくから」


「やっぱり俺が商業ギルドに持っていかないとダメ?」


「うん、ダメ。私たちは友達でしょ? 諦めて」


 俺は「わかったよ」とうなずく。


 あんまり商業ギルドには行きたくなかったけど、まあ仕方ないね。

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