表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/24

出会い②

 冒険者ギルドでの用事を済ませた俺が女の子のところに戻ると、女の子は頬をふくらます。


「遅い、女の子を待たせるなんて最低よ」


「はぁ? そんな早く解体できるわけないよね?」


「解体?」


「そうだよ。素材が欲しいって言ってたから解体をして来たんだ。もしいないっていうならギルドに売ってくるよ。俺はどっちでもいいからね」


 俺がそう言うと女の子は「なっ」と目を見開いて「あんた、素材を持ってるの?」と俺の体を見た。


 うん、確かに『ストレージキューブ』を知らなければ、その反応になるよね。


「あぁ、持ってるよ」


「ごめんね。持っているなんて知らなかったから、これから取りに洞窟に行ってくれるのかと思ったのよ」


 女の子が謝ったので、俺は「はぁ」と息を吐いてから「わかった、手を出して」と言う。


 女の子が「うん」と両手でお皿を作るので、その手にストレージキューブから出した布ぶくろを乗せた。


「まずはパラライズトードの舌」


「うん」


「それからこっちがファングバットの牙で」


 そう言ってから本命の袋を女の子の足下におく。


「えっと? なにそれ?」


「うん?」


「そのキューブよ」


「あぁ、これは秘密」


 俺がそう言うと女の子はカッと俺をにらむ。


「なんで教えてくれないのよ」


「あのさ、初対面だよね? 俺たち」


「なんでよ。一緒に冒険者に喧嘩を売った仲間じゃない」


 女の子が驚いたという顔をするので、俺は「馬鹿なのか?」と聞く。


「喧嘩を売ったのは君でしょ?」


 女の子が「えっ?」と固まるので、俺はもう一度「はぁ」とため息をついた。


「さっきのは完全に君をにらんでたし、俺には敵わないって言って引いたのだから、今度から冒険者ギルドに近づくときは気をつけたほうがいいと思うよ」


「嘘でしょ? どうしよう」


 そう言って女の子が自分の体を抱きしめるので、俺は「仕方がないから」と言う。


「しばらく素材は僕が売ってあげるよ」


「本当に?」


「うん、だから冒険者ギルドには近づかないこと」


「わかった」


 女の子はうなずいて、ニコニコと笑いながら足下の布袋の中身を確認した。そして、固まってギギギッと音が鳴りそうなぎこちない動きで俺を見る。


「あのさ、これって?」


「うん」

 

「もしかして、ブラックリザードの骨?」


「そうだよ」


「嘘でしょ? みんな足りなくて困っているのよ」


 女の子が俺の両肩をつかむので、俺は「だから、半分は冒険者ギルドが買い取るってさ」と言う。


「だけど……」


 女の子の顔が曇った。


「悪いんだけど、すべて買い取るお金はないわ。少しだけ売ってもらえる?」


「そう、どれぐらいなら買い取れるの?」


「うーん、高くなっているから、頑張って半分ね」


 女の子がそう言って腕を組むので、俺は「わかった」と言う。


「それなら残りの半分はできた物を少しわけてくれればいいよ」


「はぁ? ダメよ、そんなの。そんなことをして、私が逃げたらどうするの?」


「君は逃げたりしないでしょ? それにしばらくは冒険者ギルドに近づけないんだから、この先も素材が欲しいならそんな馬鹿なことをするわけないよね?」


 俺がそう聞くと女の子は「そうだけどさ」と苦笑いを浮かべた。


「本当にいいの?」


「いいよ。これでポーションが出来るんでしょ?」


 ポーションは高級品だ。だけどこの先、怪我するときが来るかもしれない。なるべく怪我しないように慎重に狩りをしているけど、絶対はない。


 いつかは怪我をしてしまうだろうからね。それなら回復できるポーションは欲しい。


 俺がそう思うと女の子は「うん」とうなずく。


「これを粉末にして薬草と合わせるとポーションになるの」


「そうなんだ」


「だけど、澄んだ泉の水も必要だから私は骨を粉末にした物を商業ギルドに売ってる」


「うん? だけどさ、それだと買い取りはかなり安いんじゃないの?」


「そうだけど、素材がなければそもそも作れないのだから仕方ないわ」


 女の子がそう言うので、俺は「つまりは素材がそろえば作れるってこと?」と聞く。


「うん、作れることは作れるわ。だけどね、錬金術は使う者の腕前で品物のできが変わるから、私が作ると質の悪いポーションしかできないと思うわよ」


「でもさ、俺は骨の粉末なんてもらっても使い道がないから、少し質が悪くてもポーションでもらうほうが助かるんだよ」


「そうだよね」


 女の子はすこし迷ってから「やってみる」と答えた。


「私はコシカ、あんた名前は?」


「俺はヴォルグ」


「そう、ヴォルグ。これからしばらくよろしくね」


「うん、よろしく」


 コシカが差し出した手を俺が握ると、コシカは「フフッ」と笑った。


「どうしたの?」


「うん、ポーションを作れる嬉しさと困惑、そこに不安が混じって正直に言ってわけわかんない」


 そう言ったコシカが苦笑いを浮かべるので、俺は「そうだろうね」と笑う。


「まあ、いきなり状況が変われば、頭でわかっても心がついて来ないからね」


 コシカが「そうなの?」と聞く。


「あぁ、目や耳から入ってきた事象をそのまま受け取る頭がすぐに状況を理解しても、心は少し複雑だからついて来れなくなることがあるって爺ちゃんが言ってた。コシカは今の状況に心が追いついてないんだよ」


 俺の言葉にコシカは「そっか」と笑って、それから自分の胸に手を置くと「大丈夫だよ」とほほえむ。


 それからブラックリザードの骨はコシカが運ぶには重いので、とりあえずコシカの家の前まで俺が運ぶことになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ