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洞窟

 次の日の朝。洞窟を囲んでいる城壁の門前広場には洞窟が開くのを待っている冒険者と傭兵がガヤガヤと騒がしく集まっていた。


 歳の若い冒険者が「よし、今日こそは稼ぐぞ」とか「今日は俺たちがブラックリザードを頂くぜ」とか言うと、ベテランの冒険者が「馬鹿やろ!」と怒鳴る。


「おめぇらにはまだ無理だ」


「だけどよぉ」


「死にてぇのか?」


 ベテラン冒険者がそう凄むと少し怯んだ若い冒険者は「死にたくねぇけど、余所者に負けてられねぇからよ」と答えた。


 もちろん余所者ってのは俺のことだね。


 ベテラン冒険者は「そうだな、ちげぇねぇ」と何度もうなずいてから「ガハハ」と楽しげに笑う。


「確かに負けてられねぇな」


 ベテラン冒険者がそう言って広場の隅の方に座り込んでいた俺を見ると「あぁ、スペラビルの冒険者の力見せてやろうぜ」とか「おぉ、我ら傭兵も負けてられんぞ」と周りの人たちが続いた。


 しばらくして城門が開くとその盛り上がりのままで冒険者も傭兵も次々に洞窟へと雪崩れ込んで行く。座ったままでそれを見ていたら門を開けた兵士たちの輪の中から外れてウィアが歩いて来た。


 俺は立ち上がってカバンから銅貨を出した。


「入窟税?」


「あぁ、そうだな。もらっておこうか?」


 俺が「うん」とうなずいて支払うとウィアは「確かに」と受け取って、それから「言われていたな、ヴォルグ」と笑う。


「だけどみんながやる気になることはいいことじゃない?」


「まあ、確かにそれはあるかもしれんな」


 うなずいたウィアが「気をつけていけよ」と言ってくれるので、俺は「うん、ありがとう」と答えて、冒険者と傭兵が全て入り終えた洞窟に入った。


 入り口から差しこんでくる日の光で薄暗い洞窟の中。行く手のツルツルとして曲がりくねった壁には冒険者たちの持っているたいまつの明かりがユラユラとゆれているのが映っている。


「さてと、行きますか」


 俺はそう呟いてゴーグルをつけた。


 この洞窟はまだ魔王が生きていた頃にビックアントという大きな魔物が穴を掘りながら粘液で壁を硬く固めた造ったもので、地下に向かってどこまでも複雑に枝分かれしているから、かなり広いのだそうだ。


 ほかの冒険者たちと狩り場がかぶらないように冒険者が持つ松明の明かりが見えない通路を選んで、魔法道具のゴーグル『ナイトビジョン』で見ながら暗い通路をどんどん奥まで進む。


 そして、まわりに冒険者たちの気配がしないところまで来た。


「よしと、ここら辺にしようかな」


 俺はしゃがみ込みながら知覚で周りを探る。


「うーん、この辺りには居ないね」


 仕方ないので地面などを確かめながらさらにすこしだけ進んだのだが、どうやらこの辺りには魔物の足跡などの痕跡もないようだ。


「もう少し先に行ってみるか?」


 俺が呟いたときに、かすかな羽音が聞こえた。周囲の音に耳を傾けるとパタパタという音と、キィキィと鳴き声が聞こえる。


「来る」


 俺はすぐに壁のでっぱりを使って天井近くまでのぼり、天井の隅のほうにへばりつくと音をたてないように腰に差しているダガーをぬく。


 パタパタと羽音がさらに近づいてきた。


 俺が息をひそめてその場で待っているとそいつらのすがたが見えた。気づかれないように上からダガーで1匹ずつ倒す。


 1匹目は突き刺して、2匹目は切り裂いた。だけど、3匹目には避けられて羽を切るだけになってしまった。


「チッ」


 なにが起こったのかわからないままで倒された2匹は落ちていき。もう1匹はバタバタとなんとか飛んでいたが、もう1度切りつけるとバランスを失って落ちた。


 ファングバットがさらに「キィキィ」と金切り声をあげながら地面の上をジタバタと暴れる。俺は天井から飛びおりて、後ろに回ってファングバットにダガーを突き刺して倒した。


「よし、大丈夫だね」


 そこからはいつも通り血抜きをしようとファングバットの側にしゃがみ込む。


 うん?


 ピリッとなにかを感じて、俺はとっさに後ろに跳んだ。すると、俺の居たところに飛んできた物がペタンと1匹のファングバットを絡め取っていく。


 俺はすぐに岩陰に隠れた。


 だけど、ムシャムシャと音がするだけで、次の攻撃が来ない……音がするほうを覗くとそいつがうずくまってファングバットを食べていた。


「食べるのに夢中でこちらのことは気にしていないのか? それとも……」


 俺は岩陰から飛び出した。


 そいつに向かって走って近づくと、舌をビョーンと飛ばしてきたので俺はそれを避けて壁を蹴って跳び上がる。そして、空中で体を捻ってそいつの後ろを取りながら手にしていたダガーを首の後ろに突き刺して倒した。


 俺のファングバットを横取りしたのは、パラライズトードだった。


 俺は横たわるそいつを見下ろして「もしかしてさ」と呟く。


 ファングバットの悲鳴で寄ってきたのかとも思ったけど、こいつがファングバットを追いかけていたのを俺が横取りしたのかもしれないね。


「なんか、ごめんな」


 俺はパラライズトードの血を抜いて、先程のファングバット2匹といっしょに『ストレージキューブ』に入れた。


 ファングバット2匹とパラライズトードが1匹。


「今日の分としては充分だね」


 俺が呟くと、今度はペタペタという足音が聞こえる。どうやらファングバットの鳴き声に反応して来たらしい。


 俺はすぐに岩陰に戻った。


 来たのはブラックリザードで、パラライズトードが食べ残したファングバットを見つけるとそこまで行ってバリボリと食べ始めた。


 俺は背後に回って跳び上がるといつもと同じように首の後ろにダガーを突き刺した。


 ドスン!


 今日もブラックリザードも狩れたので、狩りはそこまでにすることにした。


「無理は怪我の元だからね」


 狩りを終えた僕が冒険者ギルドに戻ってくると、冒険者ギルドの前で冒険者たちに囲まれた女の子が「やめてよ」と声をあげていた。


「いいじゃねぇか、減るもんじゃないし」


「減るわよ、触らないで!」


 女の子がそう言うと「おぉ、怖」と冒険者たちは言ってそれから「ゲラゲラ」と笑う。


「あんたたちに用はないのよ」


「なんだと!」


「だって、そうでしょ? 昼間から酒飲んで遊んでばかりいるじゃない」


 女の子がそう言うと冒険者のうちの1人の男が「言わせておけば」と胸ぐらをつかむ。俺がとっさに「やめなよ!」と声をかけると、その男が「なんだと!?」と振り返った。

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