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化け物

 体が熱い。熱が底の方から湧き上がり、体が沸騰しそうだ。ウガリが俺を押さえ込もうとしたけど、俺に払われて吹き飛んだ。


 ドスン!


 着地したウガリがすぐに突進して来たが、俺はそれを軽々と受け止めた。


「嘘?!」


 ウガリがそう呟いて目を見開く。ズロンが「ウガリ、離れろ!」と叫んだが、俺はつかんでいたウガリの肩の肉を握力だけで引き裂いた。


「ウガァァァァァァ」


 ウガリは吠えながら左手で殴ってきたけど、俺には効かない。もう一度殴ろうとした手を受け止めて、今度は中指を握りつぶした。


「ガァァァァァァ」


 ウガリが痛がる。


 体の奥が熱い。筋肉が隆起して体が少し膨れ上がった。


「化け物が!」


 ズロンが自慢の爪で俺の手を切り落として、ウガリを助けた。俺が切り落とされた切り口を見ていると、中から細胞が膨れ上がり、手が再生した。


「くそ、くそ、クソガァァァァァァ」


 そこからズロンが爪で何度も、何度も俺を切りつけたが、俺はズロンを殴る。顔がグニュと変形して、そこから吹っ飛ばされたズロンをウガリが受け止めた。


 受け止めたが、止まらずに吹っ飛ばされた2人が山肌にめり込む。

 

 体が熱い。ズロンがつけて傷が治り、筋肉の隆起が終わると全身から毛が生えた。銀色に輝く毛並みが月明かりに照らされてキラキラと光った。


 犬歯が伸びて、顔が長くなった。耳が頭の上に移動して、爪が鋭く伸びた。それから、尻尾が生える。


 俺は月を見上げて「ワォォォォォォ」と吠えた。


 ウガリがまた突進してきた。


 俺はそれを受け止めてウガリにかぶりつく「グッ」と声をもらしたウガリがギッを歯を食いしばると、ズロンが手にした銀の杭が俺とウガリに刺さった。


「ガァァァァァァ」


 ウガリが叫ぶと、ズロンが「我は、思い、望み、祈り、願う。女神よ、信仰なき輩に、裁きの鉄槌を、聖なる輝きを持って邪悪なる者を焼き尽くしたまえ」と言った。


 ウガリは聖なる火に焼かれたが、俺は焼かれない。


 それを見て俺たちから離れたズロンが「なっ、なぜだ」と呟く。俺は銀の杭を引き抜くと苦しむウガリを引き離した。


 聖なる火で焼かれたウガリが、地面をゴロゴロとのたうたまわる。そして、最後に「ズロン……」と呟きながら手を伸ばして指先から灰となって消えた。


「なぜだ! なぜお前は焼かれない!?」


 銀の杭で火傷した自分の手を見ながら、ズロンはそう呟いて「アハハ」と笑う。


「ライカンスロープ、これが魔王となった我が祖父を倒した化け物。まさに、化け物だな」


 ズロンは「くそがぁ、不完全でも儀式を早めて魔王になるしか……」と言ったが、俺の手がズロンの胸を貫いた。


「ふん、そんなものは効かぬ、効かぬぞ。私もヴァンパイアだからな」


 高笑いしたズロンの頭を俺はガブリと食べた。


 ズロンの体が灰となって消える。俺は空を見上げて、月を見上げて、もう一度「ワォォォォォォ」と吠えた。


 振り返るとコシカが、小さく震えながら俺を見ていた。


 仕方ないよな。


 ギュッとまた胸が痛くなった。


 だけど……コシカを救えてよかった。


 ゆっくりと歩み寄り、傷つけないように指だけでコシカを優しくなでた。


 そして、精一杯笑ってみせる。


 コシカにとって怖いだろうけど、ちゃんとお別れをしたかった。


「ヴォルグ? ヴォルグなの?」


 コシカがそう言うので、俺はうなずく。


 するとコシカはギュッと俺に抱きついた。


 俺は爪で摘んで、カバンから『ストレージキューブ』を出した。


「これは?」


 俺はうなずく。


「だってこれ、ヴォルグにしか使えないって」


 俺は首を横に振る。


「えっ? 嘘なの?」


 俺がうなずくとコシカは「嘘はダメなんだよ」と膨れてそれから「私にくれるの?」と聞いたので、俺はまたうなずく。


 もう俺には使えない。中には商業ギルドのラーニャに頼まれた素材も入っている。これでコシカは生きていけるはずだ。


 コシカの手に『ストレージキューブ』を乗せた。


「ヴォルグは……どうするの?」


 片手で俺にしがみついているコシカが俺の顔を覗き込んだけど、俺は首をかしげる。


 どうなるのかな。


「嫌よ、こんなの……ぜったい……」


 コシカが泣いたので、俺も泣きたくなった。


 でも……涙は出なかった。


 俺は化け物だもんね。


 俺は代わりにもう一度コシカをなでた。そして、傷つけないように注意しながらゆっくりと押して、離す。


「ヴォルグ?」


 俺がコシカにうなずくと、コシカが「嫌よ」とまた抱きついた。落ち着くまで待って、再び引き剥がそうとしたら「待ちなさい!」と声がかかった。


 見ると、ラーニャとクルテル、それから冒険者ギルドのエブルと門番のウィアがいた。


「ヴォルグ、どこにいくつもりなの? 逃がさないわよ」


「そうだ。私との決着がまだではないか!?」


「それは盛大に負けたんだろ? クルテル」


「まあ、何にしても俺はヴォルグを気に入っているんだ。どっかに行かれては困る」


 4人はそう言ってから俺のところまで歩いてきた。


「全部聞いていたし、見ていたわ。まずはズロンの企みを止めてくれてありがとね」


 ラーニャがそう言うとクルテルは「君にしてはよくやったな」と笑い、エブルとウィアも「よくやった」と笑う。


「でも、私を騙してたなんてひどいわ」


 ラーニャはそう言うとコシカの手にある『ストレージキューブ』を見てから、自分のカバンから首輪を出した。


「これをコシカにつけてもらいなさい。あなたのお爺さんであるギロイさんは魔王を倒したあとで、当時聖女と呼ばれていたあなたの祖母に首輪をつけてもらったそうなの」


 ラーニャはそう言ってコシカを見ながらニヤニヤする。


「愛の力があればライカンスロープの力を抑えることができるそうなのよ」


 するとコシカが「愛の力……」と呟いてギギギッと音が出そうな動きで俺の顔を見た。


「大丈夫? 私がやろうか?」


「ダメ! 私がやります!」


「はいはい、よろしくね」


 ラーニャはそう言ってコシカに渡す。


「それと、封印してしまうとコシカが亡くなるまでは解くことができないんだけどかまわないわよね?」


 ラーニャがそう聞いたので俺はうなずいた。コシカもうなずくので俺は頭を下げた。


 そして、コシカがゴクリと唾を飲み込んだあとで、俺の首に首輪を付けた。

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