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傭兵

「クルテルさん、なんの用?」


「わかっているのだろ? ヴォルグ」


「ううん、わかんない」


 俺が首を横に振ると、クルテルは「ヘッ」と笑った。


「その抱えている姫様をこちらに渡してもらおうか?」


「それはできないよ」


 俺がそう言うとクルテルは「私はどちらでもいいんだよ」と言った。


「だが、痛い目にあう前に大人しく渡したほうが君の身のためだとは思わないかい?」


「全然」


 クルテルが「そうか」と言って腰の鞘から剣を引き抜くので、俺も腰に下げているダガーに手をかけた。


「おっと、このまま戦って姫様が傷つくのは互いにとって得策ではない。そうだろ?」


「じゃあ、見逃してよ」


「それは無理な相談だね。私も仕事で来ているんだ」


 クルテルが少し額をかいて、ニヤリと笑う。


「姫様は離して私と決闘と行こうじゃないか? 勝った方が姫様を手に入れる。どうだい?」


 クルテルは首をかしげたが、俺は「ダメだよ」と言う。


「コシカは物じゃないんだ、そんなふうに扱うのは失礼じゃない?」


 クルテルは「確かにそうだね」とうなずく。


「それにクルテルさんの仲間が、コシカに手を出さない保証もないでしょ?」


 俺が聞くとクルテルは「フフッ」と笑った。


「彼らは仲間じゃないさ、同じ依頼人から依頼されたってだけの仲だよ」


「よくわからないけど、そういうのを仲間っていうんじゃないの?」


「いや、違う! 仲間とは互いに信頼し、背中を預けられる存在だ。そして、ときにぶつかり合っても互いを認め、高めあえる存在だ」


 クルテルは「それこそが仲間!」と言いながら大きく両手を開いた。


「彼は違う」


「そうなんだ。じゃあ、なおさらクルテルさんが決闘って言ってもあの人たちは従ってくれないんじゃないの?」


 俺が首をかしげるとクルテルは目を見開いて「君は天才か?!」と聞いてきた。


「えっと……」


「確かにその通りだな」


 クククッと笑ったクルテルは俺たちを囲むように剣の鞘の先を使って地面に大きな円を書いた。


「退けよ、退けよ、我の意に沿わぬ者どもをことごとく退けよ。火には思いを、大空には望みを、水には祈りを、大地には願いを。聖なる女神の輝きを持って厄災を払い、この地に精霊の加護を」


 クルテルがそう唱えると円は淡い光を放った。


 そして、追いかけて来ていた男の人たちが弾かれた。


「なんのつもりだ、クルテル?」


「これは私とヴォルグの決闘だ。君たちはそこで黙って見ていたまえ」


 クルテルはそう言うと俺を見た。


「さて、カゴの鳥になった気分はいかがかな?」


「クルテルさんを倒して出るから問題ないよ」


「勝てると思っているのかい?」


「勝つよ」


 俺がそう言ってコシカを地面に下ろそうとしたけど、コシカは俺の首に手をまわして抵抗した。


「コシカ?」


「ダメだよ」


「うん?」


「クルテルさんは強いんでしょ?」


 コシカが首をかしげるので、俺は「そうだね」と笑う。


「だけど、負けないよ」


「本当に?」


「本当さ」


 俺が笑ってみせるとコシカは小さく「うん」とうなずいて手を離した。俺は丁寧にコシカを地面に下ろすと、クルテルを見た。


 クルテルは構えを取らずに、左手でクイッと手招きをする。


 俺は腰から下げているダガーを引き抜いた。


「覚悟はできたかい?」


「うん」


「そうか、だけど普段は魔物の相手をしている君に人を殺せるかな」


 クルテルがそう言ってニヤリと笑うと斬りかかってきた。迷いのない一線。俺はそれをダガーでいなしながら横に避ける。


 キィーン、ガッ、カキン、ガッ、ガッ、キィィィィィィ、カッ、ガッ、ガチッ。


 剣とダガーで打ち合うたびに、火花が飛ぶ。


 ドゴッ!


 クルテルの腹を蹴らながら下がると、クルテルはニヤリと笑った。


「やるじゃないか、なるほど。では、これならどうかな?」


 クルテルは剣先をクルクルと回す。


「風よ、風よ、大空を吹き荒ぶ風よ。吠え狂う刃となりて、我が敵をことごとく切り倒せ」


 クルテルがブォン! と剣を振る。俺はそれをダガーで受けたけどズサッと肩から腰まで風の刃で斬られた。


「ヴォルグ!?」


 少し血が飛んだので、コシカが悲鳴のような声を上げる。


「大丈夫だよ、ちょっと油断しただけ」


 俺は笑って見せたけど、コシカが顔をゆがめた。


「だけど……」


 するとクルテルが「降参したらどうだい?」と聞いてきた。


「強がりはやめたまえよ、わかっているのだろ?」


「なにを?」


「魔法を使えない君では私には敵わないってことをさ」


 クルテルは自分の肩に剣を乗せる。


「魔物が相手なら君の類稀なる身体能力は強い武器となるだろうけど、魔法を使う相手は身体能力だけではどうにもならないだろ?」


 俺は「そうだね」とうなずいて腰に下げているカバンから小さい球体の魔法道具を出した。


 それをクルテルの足元に転がす。


「これは?」


 クルテルが首をかしげるとジジッと閃光がクルテルに伸びて、体がビビッと震えるとクルテルはそのまま横倒しに倒れた。


 地面でまだビリビリと震えている。


「なにそれ?」


 コシカが言うので、俺は「対魔法使い用の魔法道具だよ」と答えた。


「うん?」


「魔法を使っている人に向かって雷が飛ぶんだ。魔法を使う魔物ってあんまりいないから出番は少ないし、一度使うとしばらくは冷やさないと使えないんだけどね」


「クルテルさん、大丈夫なの?」


「うん、死んではいないよ。しびれてしばらくは動けないだろうけどね」


「しばらく……」


 コシカが寄ってきて一緒にクルテルを見下ろす。


「どうする?」


「そうね」


 俺たち2人が並んで見下ろしながらうなずくと、クルテルはなにか言いたそうにこちらを見ていたが、舌が痺れて話せないみたいだ。


「そいつを許してもらえないかしら?」


 そう呼びかけられて俺とコシカが振り返るとラーニャが笑った。

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