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ヴォルグとコシカ②

 市場の人たちから解放されて、俺とコシカは並んで歩く。荷物は多くなり過ぎたので、市場から少し離れたところで『ストレージキューブ』に入れた。


「ずいぶんと遅くなっちゃったね。アルカさん、心配しているんじゃない?」


「そうだね」


 うなずいたコシカが空を見上げるので、俺も続いて見上げた。薄暗い空に気が早い星がキラキラと光っている。


「だいぶ暗くなったし、困ってないかなぁ」


 俺が呟くとコシカが「それは大丈夫」と笑う。


「なんで?」


「今日からね、商業ギルドからお手伝いの人が来てるから」


「えっ?」


 驚いた俺がコシカを見ると、コシカは肩をすくめて「私はポーション作りに専念させるんだって」と言った。


「本当に?」


「うん」


「じゃあ、なんで買い物に?」


「だって、今日は朝からずーっとポーション作ってたんだよ。息が詰まっちゃうでしょ?」


 コシカが大股でトントン、トンと跳ぶように歩きながらそう言うから俺は「あはは」と笑う。


「強いな、コシカは」


 コシカがクルッと振り返って「どこが?」と聞いたので俺は「うっ」と少し言葉に詰まって、それから「避けられていただろ?」と言った。


「あぁ、あれね。私だって最初は嫌だったよ」


 コシカはそう言うと再び歩き出した。


「でも慣れた。ヴォルグもでしょ?」


「まあ、そうだけど。俺とコシカでは違うだろ?」


「なんで?」


「だって、俺は穢れし者だから……」


 俺が言い淀むと、コシカは「なにも違わないよ」と言う。


「本当はね、商業ギルドから素材を売ってもらえなかったのは私が子供だからじゃないの」


「えっ?」


「母さんはもう3年も洞窟病で寝たきりだし、母さんではなく私が錬金術に使うために素材を買うなら売れないって言われたの」


「なんで? コシカは練金術を使えるじゃないか?」


「私は母さん以外の錬金術師に弟子入りできなかったから商業ギルドから錬金術師と認められてないの」


「はぁ?」


「私もヴォルグと変わらない、洞窟病って穢れに穢されているの」


 コシカがそう言って自分の体を、ギュッと抱きしめた。


 俺はその丸くなった小さい背中を見ながら「そっか」と呟いて「フフッ」と笑った。


「なんで笑うのよ」


「あぁ、ごめん。ラーニャさんはずいぶんと現金な人だなぁって思ってさ」


「そうだね」


「手のひらを返されて嫌じゃないの?」


「わかんない」


 コシカは首を横に振って「素材を売ってくれなかったのはラーニャさんじゃない人だったし」と俺を見た。


「だったし?」


「ヴォルグはどう思う?」


「えっ?」


「昨日まで相手にしてくれなかった人たちが私を認めて受け入れてくれるの」


 コシカが両手を広げてクルクルとまわるから、俺は「そうだね」とうなずく。


「やっぱりうれしいと思うと思うよ」


「うん」


 コシカが立ち止まってほほえんだ。俺もハッとして立ち止まる。


「まったく、コシカは大人気になっちゃったね」


「誰のせいよ、誰の?」


「うん、まずかったかな?」


 俺が聞くとコシカは「うん?」と首をかしげた。


「いや、ラーニャさんが言ってただろ? コシカがポーションを作れると知れば、囲い込もうとする商会が出てくるって」


「そうだね。だけど商業ギルドが先手は打ったし、ポーションを誰が作っているのかなんていずれは知れる話でしょ?」


「そうだけどさ」


 俺がそう言うとコシカは俺のところまで戻ってきて俺の手を取った。


「それにヴォルグが一緒にいてくれれば大丈夫よ」


「うん」


 俺はうなずいてその手をギュッと握り返す。


「だけど、ずっと一緒ってわけじゃないから心配だよ」


「そうだね。じゃあ、ずっと一緒にいてくれたらいいじゃない」


「そういうわけにはいかないだろ?」


 俺が聞くとコシカは「そうだよね」とうなずいて、俺の手を引きながら歩き出した。


「「……」」


 そこからしばらくは2人とも黙って歩いた。


 俺が「コシカ」と小さな声で呼びかける。


「なに?」


「つけられてる」


「えっ?」


 コシカが振り返ろうとするので、俺は「振り返らないで」と言ってから、握っている手をギュッとする。


「間違いないの?」


「わからないけど、2人ついて来てる……それから」


 俺が行く手を見ると、1人の男の人が道を遮るように立っていた。


「こっちだ」


 コシカの手を引いて脇道に入ると、脇道からも2人歩いてきた。


「ちょっとごめんね」


「えっ?」


 俺はコシカをお姫様抱っこして「しっかり捕まっててね」と声をかける。


「なにするの?!」


 コシカの叫びに合わせて、俺は道の端に置かれた木箱を踏み台にして跳び上がる。


 コシカの「キャッ」という声に合わせて、さらに反対側の壁を蹴りながら跳び上がると「なっ?!」と驚いた男の人たちの上を飛び越した。


 俺は着地と同時に走り出す。もちろん男の人たちは「待て」と言いながら追いかけてくる。


「待つわけないよね」


 逃げながら俺がそう言うと俺が抱えているコシカが抱きついている手にギュッと力を入れる。


「大丈夫?」


 走りながら俺が聞くとコシカは「うん、大丈夫」と返事をする。


 路地を抜けて通りに出るとさらに次の路地に入り、路地も思いつくたびに左右に曲がって疾走して、徐々に男の人たちを突き放す。


 だけど、次の通りに出るときに、ビビッと嫌な気配がして俺は止まった。


 振り返るとまだ男たちは追ってきている。


 仕方ないので、俺が警戒しながら通りに出ると待っていた男の人が「ナイトが無能だと楽でいいね」と言ってニヤニヤと笑った。

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