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泉の主

 商業ギルドでコシカのポーションを売った翌日、俺は森に来た。


 ラーニャから依頼された3つの素材を手に入れるためだ。


 いつもの泉よりももっと奥、スペラビルの北の山裾にある泉に来ると、深いグリーン色の水が静かに揺れて、そこからゆっくりと迫り上がったあとで、そいつが水の中から出てきた。


「うん?」


 俺は首をかしげてそいつを見上げる。


「思っていたより、かなりでかいな」


 俺がそう呟きながらダガーを引き抜くと、そいつは体をクネクネとくねらせた。


 体を動かすたびにグリーンの鱗がキラキラと光を返して、鎌首をもたげてこちらを見下ろしていた黄色い瞳が大きく見開かれた。


「キシャァァァァァァ」


 そう声を上げて俺を威嚇してから、鋭い動きで飛びかかって来る。俺が後ろに跳んでそれを避けると、俺がいた場所の地面がごっそりと抉り取られた。


 やばいね。


 すぐに土を吐き出したグリーンバイパーは俺を睨みつけて、シャアシャアと舌を出した。


「うん、完全に舐められているね」


 俺が「ヘッ」と笑ってみせると、グリーンバイパーはグッと体を引いてからビュン! と伸びて来る。俺はそれを横に避けたが、グリーンバイパーは器用に体をくねらせて追尾するように俺を襲った。


 カキーン!


 牙をダガーで弾くと、金属音のような甲高い音が鳴った。


「マジか!?」


 再びアゴが迫るので、俺は斜め後ろに跳びながら木の影に隠れたが、グリーンバイパーはひと噛みでその木を粉砕する。


 そして、さらに襲いかかってくるので、俺はもう一度後ろに跳びながら丸薬を出して、それをグリーンバイパーの口に放り込みながらその牙を再びダガーで弾く。


 カキーン!


 顎を上げたグリーンバイパーがゴクリと丸薬を飲んだ。


「よし!」


 俺はそう言ったが、グリーンバイパーは俺を見るとニヤリと笑ったように見えた。


「嘘だろ? 効かないのかよ」


 グリーンバイパーが再び体を少し引いて、それからビュン! と伸びてきた。俺は横に跳んで避けながら、ダガーで体を切りつけるが、鱗に弾かれて傷つけることができない。


「あはは」


 仕方ないので、何度も、何度もグリーンバイパーの攻撃を避けながら、丸薬をその口に放り込んだ。


 そして、泉の周りの木がかなり粉砕されたところでグリーンバイパーの動きが鈍くなってきた。


「やっとか」


「シャァァァァァァ」


 再び伸びて来たところで、ダガーを黄色い瞳に突き刺した。


「ギャァァァァァァ」


 体をくねらせながら暴れるので、俺はすぐに飛び退いて間合いを取る。


 グリーンバイパーはバンバンと体を木や地面に打ち付けたあとで、ヒュッと体を持ち上げてからドシン! と倒れた。


 俺はゆっくりと近づいて、その喉を切り裂く。再びその場を離れてから俺は「ふぅ」と息を吐いた。


「やばかったね。パラライズトードの舌を使った丸薬がなかったら無理だった」


 俺は苦笑いを浮かべながら、カバンの中を確認した。


「もうほとんどないよ。これはまたコシカに作ってもらわないとね」


 血抜きが終わり『ストレージキューブ』にグリーンバイパーを入れてから泉の水を見た。


「この泉の水はやたらと澄んでいるね」


 手で掬ってみて一度止まる。


「でもグリーンバイパーが住んでいたんだよね。飲めるのかな……」


 先ほどまでシャアシャアと言いながら元気だったグリーンバイパーを思い出して、飲むのはやめた。


「うん、なんとなく飲む気になれないし、ここで倒れたら死ねるからね」


 俺はそう言ってからこの泉に流れ込んでいる場所がないのか探る。すると、どうやら山の方から流れて来ているようだ。


 なので、それを辿ってみた。


 しばらく歩いて、その場所があった。


 木のあいだから光が少し差し込んだ薄暗い場所に、水が湧き出ている場所がある。石はくり抜かれたようにくぼみが出来ていて、俺がそこに手を入れると驚くほどに冷たかった。


 掬い上げて飲んでみる。


「うまっ、マジか?」


 グリーンバイパーと戦って喉が渇いていたから何度も、何度も飲んで、それからストレージキューブの中にある樽や水筒に汲んだ。


「これはアルカさんに飲んでもらいたいし、これでポーションを作ったらすごいのできたりするんじゃないか?」


 俺は少し笑って、コシカとアルカを思った。


 俺の初めての友達と、その母親。


 今まで爺ちゃん以外で、あそこまで俺に関わろうとしてくれた人はいなかった。


 穢れし者、神に愛されていない者。


 俺は自分の首にはまった首輪をさする。この首輪が無ければ、俺は穢れを抑えることができない。だから他の人たちが俺を恐れて必要以上に関わらないようにするのは当たり前だと思っていた。


「アルカさんの病気を治してあげられたら良いのに」


 俺はそう呟いて「フフッ」と笑う。


 人のために何かをしたいと思ったのは、生まれて初めてかもしれない。


 それが少しおかしくて、うれしかった。

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