商業ギルド③
「えっ?」
「だってそれほどの物よ。今までヴォルグが旅して来た地の貴族たちだって欲しがらないわけないわ。それでも奪われなかったのは、そもそも奪えない物だからよね?」
ラーニャとコシカが俺を見るので、俺は「そっ、そうだよ」とうなずく。
「俺が持っている魔法道具はどれも爺ちゃんが封印を施しているから穢れし者しか扱えないんだ」
「やっぱり魔力を持つ者は触ることさえできないという呪われた道具『アナテマ』なのね」
ラーニャがそう言ったので、コシカは「じゃあ、諦めてくれたのね」と言う。
「いや、私はそう簡単に諦めたりしないわよ」
「なんでよ」
「だって私に『アナテマ』を扱うのが無理なら、扱える者ごと手に入れればいいじゃない」
「ダメ!」
コシカが勢いよく俺に抱きついて、俺が戸惑うと俺たちを見てラーニャがニヤニヤと笑う。
「えっと……」
俺がそう言いながらコシカを見るとコシカは「あっ」と小さく言って「わっ、私の友達なんだからダメよ」と顔を赤くした。
「友達ねぇ」
「なっ、なによ」
「まあいいわ。私としてはコシカごと手に入れればいいんだもの」
ラーニャがまたニヤニヤと笑うので、俺は「だけど」と言った。
「俺はスペラビルにも長くは居られないと思うよ」
「「なんでよ!?」」
ラーニャとコシカが勢いよく俺を見て、コシカは抱きついたままだったから俺とおでこがぶつかる。
「ごめん」
涙目になったコシカが自分のおでこをさすりながら謝るので、俺は「うん、大丈夫」と答えた。
「それで? どうして長く居られないの?」
「ズロン様って人が迷惑はかけるなって」
俺がそう答えると、ラーニャは「ほぉ」と悪い顔をした。
「あの馬鹿は、自分が領主にでもなったつもりかしら?」
ラーニャは「ズロンのことは気にしなくていいわ」と続ける。
「それよりもエブルはなんて言ってるの?」
「エブルさん?」
「そうよ」
「うん『俺はお前を認めている』って言ってくれてるよ。ブラックリザードを狩ってくるからだけどね」
「そう、なら大丈夫よ。あのおっさんが認めていれば素材の買取に困ることはないわ」
ラーニャは「それに」と続ける。
「門番のウィアも『気に入ってる』って言ってたから大丈夫よ」
「ウィアさん?」
「そうよ。ウィアは門番の隊長だから、領主命令でも出ないかぎり問題ないわ」
「でも俺は穢れし者だよ」
「だからどうしたのよ」
「街は穢れし者の定住を認めない。民は穢れし者を受け入れない。天は穢れし者を愛さない」
俺がそう言うと、ラーニャは「神を語る愚か者たちの言葉ね」と笑った。
「でも、英雄ギロイ様はあなたを愛したわ。そうでしょ?」
「爺ちゃんは……」
「自らの偉業を悔いていた」
ラーニャが「違う?」と首をかしげる。
「わからないけど、たぶんそうだと思う」
「そうね」
「各地をまわり廃れてしまった教会に寝泊まりして、爺ちゃんは女神像に祈りを捧げながら泣いてた」
ラーニャは「そう」と言って小さくうなずく。
「人はそうやって自分のした行いを悔いながら生きていくものなのよ」
「そうなの?」
「そうよ。良いことも、悪いことも、すべてのことに意味なんてないもの。過ぎていけば忘れ去られる。人にできることは正しくありたいと自分を律して今日を過ごすことだけ、でもそれにすら意味はないから、人には自分がした行いを悔いて生きていくことしかできないの」
「それじゃあ……」
「そうね、さみしいわね。だからギロイ様はあなたを愛したの。一緒に笑い、一緒に泣き、食べて、飲んで、話して、寝る。そんな意味のない日常こそが生きる意味だからよ」
ラーニャはほほえんだ。
「きっと、ギロイ様は幸せだったと思うわ」
「そうかなぁ。爺ちゃんの旅は巡礼みたいだったよ」
「そうでしょうね。それでもギロイ様はあなたに生きる道を残すことができた」
ラーニャは「それはすごいことなのよ」と言う。
「ギロイ様がいなければ、あなたは生きていないでしょ?」
「うん」
「だからヴォルグ、あなたも笑いなさい、泣きなさい。食べて、飲んで、話して、愛しなさい。それこそが生きる意味なのよ」
ラーニャはそう言ってテーブルに身を乗り出すと、俺の胸を指先でトントンと叩いた。
「ちゃんと生きるのよ」
ラーニャはほほえんで座りなおすと「では」と言いながら金貨1枚と銀貨5枚をコシカの前のテーブルに置く。
「これが、今回のポーション50本の代金ね」
「ありがとう。それでラーニャさん、出来たら金貨を銀貨10枚にしてもらいたいんだけど」
「そうね、買い物するにも金貨では物騒だものね」
「うん、それもあるんだけど、ヴォルグに素材のお金を払いたいから……」
「そう、わかったわ」
ラーニャが金貨をしまい、銀貨10枚を並べるとコシカは布袋にそれをしまって俺に渡す。
「とりあえずヴォルグが待っててくれる? 大金すぎて落とすのが怖いし」
「うん、預かるのはかまわないけど、俺に騙し取られるかもよ」
コシカは「フフッ」と笑う。
「ヴォルグは私を騙したりしないでしょ?」
「それはどうかな、もう騙されているかもしれないよ」
「そうね。確かに騙されているかも」
「えっ?」
「だって、ヴォルグに会ってからいい事ばかりなんだもん」
コシカがあんまりにも可愛らしくほほえむので「そっ、そんな事ないだろ?」と言ったが、ラーニャがニヤニヤと笑うから顔が熱い。




