商業ギルド②
商業ギルドの応接間の立派なソファにラーニャは座り、俺たちにも「座って」と促す、それに答えるようにコシカがソファに座って、俺は戸惑ってしまった。
「これは俺が座っても、大丈夫?」
「いいわよ、気にせずに座って」
「わかっ、わかりました」
俺は頭を下げてからソファに浅く腰掛ける。
「それじゃあ、さっそくで悪いけどポーションを見せてくれる?」
「うん」
俺は『ストレージキューブ』からテーブルに木箱を出す。するとラーニャは驚いたあとで「それは」と目を細めた。
「ストレージね」
「うん」
「そう、ストレージは英雄ギロイの魔法だと言われていたけど、魔法道具があったのね……」
ラーニャはしばらく腕を組んで空を見てから、俺を見た。
「英雄ギロイが残した遺産。あなたは他にもまだ持っているのかしら?」
「えっと……」
「あなたの年で腕のいい冒険者なんているわけないもんね。ギロイが残した遺産を使って狩りをしているんじゃないの?」
ラーニャはそう言って「あなたは穢れし者だから魔法も使えないのでしょ?」と首をかしげた。すると、コシカが「さっさとポーションの鑑定をして」と言った。
「えっ?」
「そういう詮索をされたくないから、わざわざあなたに頼んでいるの」
コシカがラーニャをにらむとラーニャは驚いた顔をして「そうね」とうなずいた。
「じゃあ、見せてもらうわ」
ラーニャは丁寧な手つきで木箱からポーションを取り出すと、日の光に透かして見たりしながらポーション1つ1つ確認した後で「うん」と1つ頷く。
「良いわね。1本あたり銅貨3枚でどうかしら?」
ラーニャがそう言うと、コシカが「えっ?」と小さく声をもらした。
「高すぎる」
「そう? 今はポーションが品薄なの、だからこの品質なら銀貨1枚で売れる。うちとしては人件費やその他もろもろを引いても利益が出るわよ」
「だけど、母さんがたぶん銅貨1枚ぐらいだろうからって、ラーニャがそれ以上で買うと言い出したら裏を疑いなさいと言ってた」
コシカがそういうとラーニャは驚いた顔をして「なるほどね」と言う。
「アルカさんの予想通り、銅貨3枚での買取には裏があるわ。まずはコシカの囲い込み防止ね」
ラーニャはそういうとポーションを1本手に取った。
「今、ポーションはとても品薄なの。この品質のポーションを作れる職人でしかも素材の調達も自分で行えるコシカは商会ならどこだって喉から手が出るほどに欲しい。だから、下手な商会に囲い込まれるまえにギルドとして手を打っておきたかったの」
「だけど、素材はヴォルグが集めて来てくれるだけで私は何もしてないわよ」
「それは違うわ。ヴォルグが命がけで素材を取って来てくれるのは相手がコシカだからよ。それはつまりあなたの力なの、コシカ」
ラーニャが「ねぇ、ヴォルグ?」というので、俺は「うん」と答えた。
「そして、2つ目はこれからしばらくのあいだ、ポーションの安定供給を頼みたいからよ」
「安定供給?」
「そう、出来ればこの量を1週間に1回、無理なら2週間に1回、定期的にうちに納めてくれない? もちろん向こう半年の600本〜1200本は何があろうと1本あたり銅貨3枚で買い取るわ。悪い話じゃないでしょ?」
「私にとっては願ってもない話だけど、ヴォルグが……」
「素材を取りに行くのはかまわないけど、この件もアルカさんに相談した方がいいんじゃない?」
「そうだね、ヴォルグ。ラーニャさん、返事は今度でもいい?」
「もちろんよ。それで最後はこの破格の条件を私がコシカに提示するのはヴォルグにお願いがあるからよ」
ラーニャがそう言うとコシカが「お願い?!」と顔をしかめた。
「そうよ、ちょっとしたお願い」
「ダメよ」
コシカがそう言い切るのでラーニャが「なんでよ」と言って、コシカが俺の手をつかむ。
「ヴォルグ、ポーションをしまって帰ろう。少しずつどこかの商会に買い取ってもらえばいいから」
「えっと、でも……」
俺がコシカとラーニャを交互に見ると、コシカが「どうせろくなお願いじゃない」と言う。
「断るにしても話を聞いてからでもいいんじゃない?」
「嫌よ、私のせいでヴォルグが困るのは嫌なのよ」
コシカがギュッと手に力を入れながら俺の顔を覗き込むと、ラーニャは「アハハ」と笑う。
うん?
「大丈夫よ、なにも取って食ったりしないし、ヴォルグが困る話でもないわ」
そう言ったラーニャは指を3本立てた。
「ヴォルグには私が指定する3つの素材を手に入れてほしいの」
「3つの素材を手に入れてくればいいだけですか?」
「そうよ」
ラーニャがうなずくがコシカが「本当にぃ?」とラーニャの顔を覗き込む。
「本当よ」
「怪しいわ」
「怪しくないわよ。あんた、私をなんだと思ってんの?」
「油断も隙もない女の人」
コシカがそう言うとラーニャは「なんでよ」と聞いた。
「だって、ヴォルグのキューブを狙ってたじゃない」
コシカが頬をふくらますと、ラーニャは「そうね」と素直に首肯する。
「だけど、そのキューブはヴォルグにしか扱えないんじゃないの?」




