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商業ギルド①

 俺とコシカはメインストリートに建っている3階建ての白い建物へと来た。


 俺がその豪華な建物を見上げたあとで綺麗な飾りの入った重たい木戸を引いて中に入ると、商業ギルドの中では多くの人たちがガヤガヤと行き交っていた。


 冒険者ギルドとはまた違った活気がある。


 みんなどこか急いているので、俺とコシカが圧倒されて立ち止まると後ろから来た商人風の男の人に押されて、コシカが転びそうになったので、その手をつかんで引き寄せる。


「入り口で止まってんじゃねぇ、邪魔だ」


「なによ、そんな言いかたしなくてもいいでしょ?」


「うるせぇ!」


 商人がそう言うと「怒鳴るなんて穏やかじゃないなぁ」と傭兵風の男の人がギルド内に入ってきた。


「急いでいるのかもしれないが、後ろから女の子を突き飛ばすのはやり過ぎじゃないのかい?」


「いや……」


 商人が言い淀むと、傭兵は「どうなんだ?」と首をかしげる。


「悪かったよ。いきなり止まるからぶつかっただけだ」


「いやいや、謝る相手が違うだろ?」


 商人はギュッと顔を歪めたが、コシカに「悪かったな」と頭を下げて、それからカウンターのほうに歩いていった。


「君、姫の危機にボサッとしているようじゃ、ナイト失格だぞ」


 傭兵が俺にそう言うと「大丈夫だったかい? お嬢さん」と続けてコシカの肩に手をまわそうとしたが、コシカは嫌そうな顔をしてそれを避けて、俺の背後にまわる。


「初対面の女の子に気安く触れようとするのも、ナイト失格なんじゃないの?」


「おっと、これは失礼した」


 傭兵は仰々しい動きで頭を下げて「私は傭兵のクルテル、以後お見知り置きを」と言ったので、コシカは「助けてくれたのは感謝します。ありがとう」と軽く頭を下げた。


「だけど、ヴォルグに失礼なことを言ったあなたと仲良くするつもりはありません。ヴォルグはちゃんと私の手をつかんで倒れないように守ってくれたから」


 クルテルは驚いた顔をしたが「これは」と呟く。


「お嬢さん、お名前を聞いてもいいかな?」


「コシカよ」


「コシカ、いい名前だな。コシカは商業ギルドになんの用だい?」


「ラーニャさんに用があって」


 コシカがそう答えるとクルテルは「そうか」とコシカにうなずいてからカウンターに向けて手を上げて「マイハニー!」と大きな声を出した。


 だけど、カウンターにいる女の人たちは誰もこちらを見ない。俺が首をかしげるとコシカが「みんなこっちを見ないようにしてるね」と言う。


「そうなの?」


「そうよ、あんな大きな声、聞こえないわけないよ」


「確かに」


 俺が首肯するとクルテルは俺たちを見て苦笑いを浮かべてからもう一度カウンターを見て「ラーニャ!」と声をかけた。


 だけどまた誰もこちらを見ない。


 それでもあきらめないクルテルがそこから「ラーニャ!」と3回呼んだところで、カウンターにいた綺麗な女の人がこちらを見た。


 眉間にはすごいシワができている。


「大きな声で気安く名前を呼ばないで、あんたにそんな風に呼ばれるいわれはないし、迷惑よ」


 女の人がそう答えると、クルテルは「ひどいじゃないか、マイハニー」と言う。


「誰が『マイハニー』だって? ふざけたことを言ってると出禁にするわよ」


 ラーニャは「はぁ」とため息を吐くと、カウンターから出て俺たちのところまで歩いてきた。


「結局は来てくれるんじゃないか、恥ずかしかったのかい?」


「口を閉じなさい。本当に追い出すわよ」


「硬いこと言うなよ。俺と君の仲じゃないか?」


 クルテルが肩を組もうとしたがその手はラーニャの手に弾かれて、ラーニャが「これ、うるさいから追い出して」と言うと流れるように職員の男性たちがクルテルを囲む。


「おい、なにをするんだ? ラーニャ? ラーニャ?」


「うるさい! 気安く名前で呼ばないでって言ってるでしょ?」


 ラーニャはそう言うと小さな声で「気持ち悪い」と呟く。それを拾ったコシカは「わかります」と続いた。


「共感ありがとね、うれしいわ。それで、あなたたちはなに?」


 ラーニャはそう言ってから俺たちを見比べて、それからチラッと俺の首の首輪を見た。


「流浪の民の冒険者とスペラビルに住む少女なんておかしな組み合わせだけど、商業ギルドになんの用かしら? ヴォルグ」


「えっと、ポーションを買い取ってもらいに来ました」


「ポーション?」


「はい、コシカが作って俺はそれを運んできただけです」


 ラーニャは「そう」と言ったあとで「ちょっと待って、コシカ?」とコシカを見た。


「もしかして、アルカさんの娘のコシカなの?」


 ラーニャが聞いてコシカは「うん」と答えた。


「なるほど、それでポーションはどこ?」


「えっと、それは……」


 俺が言い淀むとラーニャ「うん?」と首をかしげる。


「母さんから『ラーニャに個室で対応してもらいなさい』と言われて来ました」


 コシカがそう言うと「わかったわ、ついてらっしゃい」とラーニャは言う。


 ラーニャが振り返ると、忙しなく動き回っていた人たちがみんな割れるように避けて道を作った。そして、俺たちは道を作る人たちの好奇の目にさらされながら、ギルドの奥へと通された。

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