ポーション③
5日後、俺がコシカの家の戸をノックすると戸の向こうから「はい、どなた?」とコシカの声が聞こえる。
「ヴォルグだけど」
「ヴォルグ、いらっしゃい!」
俺が用件を言う前に目の前の戸が勢いよく開いて、嬉しそうに笑ったコシカが迎えてくれた。
「約束の日になったから来たんだけど」
「うん、待ってたよ」
コシカがニッコリと笑うので、俺は「そっか」と言う。
「なに? 会えてうれしくないの?」
「それはうれしいよ」
俺がそう言うとコシカは「えっ?」と驚いた。
「うん?」
「いや、なっ、なんでもないよ」
コシカは顔を赤くしながら慌ててそう言って「さっさと入ったら?」と言う。
「うん、おじゃまします」
俺はそう言うと家の中に入った。
アルカが「いらっしゃい」と迎えてくれたが、やはりその声は弱々しい。だけど、横になっているその顔色はこの前よりいくぶん良いように感じる。
「ヴォルグが持ってきてくれた素材のおかげでポーションを使えるから少し楽になったわ。それにおいしく飲ませてもらっている泉の水が良いような気がするの」
「そうか、それは良かった。また汲んで来たから飲んでね」
俺がストレージキューブから取り出した水筒をアルカの枕元に置くと、アルカが「ありがとね」と笑う。
コシカが「ヴォルグ、ポーションはそれね」と作業台の横にあった木箱を指さした。
「わかった。それから新しい澄んだ泉の水と薬草、それからブラックリザードの骨はどこに置く?」
「えっ? もう用意出来てるの?」
「うん、だって新しく作るだろ?」
「そうだけどさ」
コシカが言うので俺は「今日ポーションが売れたらコシカは金持ちになるだろ?」と聞いた。
「そうね」
「なら妥当な値段で買い取ってくれればいいから」
「なっ、そこは友情割引してよ」
「まぁ、いいけど、そういうの嫌なんじゃなかったけ?」
俺が聞くとコシカは「それは……」と言ってコシカがふくれる。
「そういう細かいことを言う男はモテないよ」
「えっ? そうなの?」
「そうよ」
コシカが胸を張るので俺が「なんか、ごめん」と謝ると、アルカが「プフッ」と笑う。
「うん?」
「あぁ、ごめんなさいね。コシカがあんまりにも楽しそうだからうれしくて」
「母さん?!」
慌てたコシカが「やめてよ」と止めたけど、アルカは「フフッ」と笑った。
「ヴォルグは見てないで、例のキューブにポーションとかしまって」
「うん、わかったよ。それでなんだけどさ、キューブのことは商業ギルドで話さないでほしい」
俺がそう言うとコシカもアルカも真面目な顔になった。
「わかった、話さない」
「そうね、それがいいわ」
アルカがそう言って「ラーニャに個室で対応してもらいなさい。その量のポーションなら充分対応してもらえると思うわ」と続けたので、コシカが「わかった」とうなずく
作業台の横に置かれていた木箱の中には丁寧に仕切りを使って詰められたポーションが10本の5段で50本もあった。
「確かにこれでは重いね」
俺はそのままで『ストレージキューブ』に入れる。木箱はすーっと消えるとコシカが「本当にありえないわね、それ」と苦笑いを浮かべた。
それから部屋の隅に置いてあった樽を澄んだ泉の水が入った物に交換して、その横にブラックリザードの骨と薬草の入った布袋も置く。
「よし、準備できたよ。行こうか?」
「そっ、そうね」
コシカはそううなずいてそれから俺を見て真剣な顔になった。
「無理言ってごめんね」
「コシカ?」
「この前、母さんに怒られたの」
「えっ?」
俺がアルカを見るとベッドに横になっているアルカは小さくうなずく。
「ヴォルグは商業ギルドに行きたくないのに、私の都合で付き合わせるから……」
コシカが少しうつむいてから俺の顔を見る。
「本当に嫌なら」
「いいよ」
「えっ?」
「だからいいって」
俺はそう言って笑ってみせた。
「正直、ストレージキューブのことがあるからあんまり商業ギルドには行きたくなかったけど、人を頼むとお金がかかるだろ?」
俺が言うとコシカは「それもそうなんだけど」と言ってアルカを見た。
「うちは私と母さんだけだから、荷運びの男の人を家に入れたくないのよ」
あっ、そうか。荷運びの仕事を請け負うのは冒険者ギルドの冒険者か、商業ギルドの傭兵、しかもどちらも男の人が多いんだよね。
「なるほどね、だけど俺はいいの?」
「なに言ってんの?」
「だってほら、俺も男だし」
俺が少し手を広げて見せるとコシカは「そうだったね」と笑う。
「はぁ?」
「ヴォルグは大丈夫よ。お尻とか触ってこないし」
「それは触ったら追い出されるってこと?」
「えっ? 触りたいの?」
「いっ、いや、そういうわけじゃないけど、じっ、事故とかもあるだろ?」
俺が慌てるとアルカが「プフッ」と笑う。
「アルカさん?」
「あぁ、ごめんなさいね。なんか、ヴォルグがかわいくてついね。つい」
アルカがまだ「フフッ」と抑えながら笑っているので、なんか恥ずかしくなって顔が熱い。
「まあ、事故なら仕方ないし、あんたなら大丈夫よ」
「大丈夫?」
俺が首をかしげると、アルカが再び「プフッ」と笑う。
「あぁ、もういいから! さっさと行くわよ」
コシカがそう言って「母さん、行ってくるね」と声をかけると、アルカは「気をつけてね」と言う。俺もアルカに挨拶して、コシカの家を出た。




