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第3話 不気味な屋敷

   

「じゃあね、バイバーイ!」

「合田さん、また明日!」

 友人グループから別れて、一人になる合田さん。

 噂によると合田さんは、学校の帰りに毎日、彼氏の家に立ち寄っているのだという。まるで通い妻のように。

 仲睦まじいカップルの話は、他人事ならば微笑ましいが、自分が好きな女の子の話となると、もう『他人事』では済まされない。当然のように嫉妬してしまうのだが、その気持ちは、努力して押さえつけていた。

 こうして僕が、ストーカーのように彼女の(あと)をつけているのは、やきもちからではないのだ。あの奇妙なヘアピンが気になって、その送り主の顔を一目見てやろう、と思ったからだ。

 ……というのは、自分に対する言い訳なのだろう。横恋慕ストーカーであることを薄々自覚しながら、彼女の後ろ数メートルを、こっそり歩いていくのだった。


「今日もお邪魔しまーす!」

 無邪気に叫びながら、合田さんはその家に駆け込んでいく。

 彼女の姿が完全に見えなくなってから、僕も門の前に立ってみたが……。

「これ……。『恋は盲目』ってレベルじゃないよな?」

 冷や汗と共に、僕の口からは独り言が漏れていた。

 クラスの女子に対して、合田さんが『立派なお屋敷』と言っていた邸宅。確かに敷地面識は広いようだが、間違っても『立派』ではなかった。

 すっかり錆び付いた門扉は、少し手を触れただけでギイッと軋むし、既に錠前も壊れている。庭に足を踏み入れると、手入れする者もいないらしく、雑草が伸び放題。屋敷の建物自体も、ところどころ壁が崩れ落ちていた。

 どう見ても、恋人と愛を語らい合う、という雰囲気ではない。むしろ肝試しの舞台に相応しい、朽ち果てた屋敷だった。

「合田さん……!」

 彼女のことが心配になって、僕も廃墟のような建物へ入っていく。


 玄関ホールに敷かれていた絨毯は、かつては鮮やかな赤色だったのだろう。でも今では薄汚れて、くすんだ色合いに変わっていた。

 廊下も酷い有様だ。崩れ落ちた壁とか、天井板の破片とか、瓦礫が散乱している中を、注意しながら進んでいく。

 すると、合田さんの声が聞こえてきた。

「えっ、いいの? そうだよね、もう高校生なんだから、手を繋ぐ程度のスキンシップなら……」

 少し先にある、右側の部屋からだった。

 足元を気にするのも忘れて、僕は走り出す。

「ダメだ、合田さん!」

 叫びながら駆け込んだ部屋の中。

 見えてきた光景は……。


 広々とした室内に、二つの椅子。少しだけ距離をおいて、向かい合う形で置かれている。

 その片方に座っているのが、この屋敷の(あるじ)なのだろう。合田さんは彼の方へ歩み寄り、肘掛けの上の(あるじ)の右手に、自分の両手を重ねようとしていた。

 それだけならば、初々しい恋人同士の、微笑ましい逢瀬の一場面かもしれないが……。

 問題は、屋敷の(あるじ)の姿だった。生きた人間ではなく、完全に骸骨と化した、物言わぬ死体だったのだ!


 彼女が骸骨に触れるのを阻止するため、僕は合田さんに体当たりする。

「目を覚ませ、合田さん!」

「きゃあっ!」

 突き飛ばされて、倒れ込む合田さん。悲鳴を上げた後、すぐに立ちがり、怒りの形相を僕に向けた。

「何するの!」

 思わず気圧(けお)されそうになるほどの迫力だったが、ここで負けるわけにはいかない。僕は彼女の頭に手を伸ばし、蕾のヘアピンをむしり取った。

「どうせ、原因はこれだろう!」

 手にしたヘアピンに目を向けると、もはや『蕾』らしさは皆無だった。完全に開花しており、色も鮮やかな薄桃色ではなく、毒々しいピンクに変わっていた。

「こんなもの!」

 ヘアピンを床に叩きつけて、僕は激しく踏みつける。ガシャッと音がして、花飾りの部分が壊れると同時に、

「……あっ」

 小さく呻きながら、合田さんがその場に崩れ落ちる。

 慌てて手を伸ばして抱き止めると、僕の腕の中で彼女は、完全に意識を失っていた。ぐったりと全身から力が抜けているものの、その表情だけは晴れやかだった。ちょうど、憑き物が落ちたかのように。

   

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