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きみだけはぜったいに孤独じゃない  作者: しじま うるめ
7/68

無題/×××××××××

「あー、ちょっと貴方。いったい何なんですかそのでかさは。現実から夢の世界にダイレクトで影響与えてくるレベルの嵐だなんて、見たことも聞いたこともないですよ。おかげで何もかもがしっちゃかめっちゃかだ。ほらご覧なさい。あそこでまた夢魂の追突事故が起こってる。定位置に配置した夢が弾かれて、それがまた別の夢を弾いて。あぁやって、本来その人が見るはずだった夢が次々に入れ替わってしまうんです。同じ夢でも見る人が違えば別物、良夢にも悪夢にもなり得ます。だから私が何百年も毎晩毎晩、必死になって調整をしてきたっていうのに。貴方のせいでここ十年くらいの仕事がパァになりましたよ。いやまぁ、仕事といっても誰にお給金を頂いてるわけでもなし、趣味みたいなもんではありますけど。それでも努力がおしゃかにされて、良い気分なわけがない。本当に何してくれてるんですか。……おや、ずいぶんと怯えていらっしゃる。そんなにガタガタと身を震わせて。なるほど、睡眠というものが何であるのか、理解しておられないというわけですね。自分がもう目覚めないのでは、と不安で仕方がないと。うぅん、貴方、神様か妖怪の類だと思っていたんですが、違うんでしょうか。神霊が寄り集まって産まれたような方は、集合意識を内蔵しているのか、そういった様々な知識は最初から備えているものですが。とすると、貴方は普通に一個の生命体なのに、こんな集団ヒステリーみたいな巨大な感情を? それはまた難儀な。可哀想に、この先苦労しそうですねぇ。とにかく安心してください。確かに、夢の世界は現実よりも死に近い。精神的な意味ではね。だけどまだ精神と身体はきちんと結びついていますから、目が覚めれば大抵のことは忘れて元通りです。……えぇ、大丈夫です。貴方はきちんと健康に目覚めることができますとも。私は夢の支配者、ドレミー・スイート。この私が言うのだから間違いない。しかし私としては一刻も早く、貴方自身にその感情を制御する方法を身に着けていただきたいところですねぇ。貴方が生きているだけでこんなになってしまうんじゃあ、こちらは商売上がったりですよ。いやはや仕方がありません。普段ならこんなことは絶対にしないんですが、特別です。ドレミー印の睡眠学習を付けてあげましょう。せめて生きていく上での最低限の知識は身につけてもらわないと。自分が生きる場所を現実で見つけだすのです。精神の安寧はそうやってもたらされるものですからね。さてそうと決まれば、貴方に見せる夢は決まりました。世界中から幼子の見る夢をかき集めてこなければ。摩天楼の少女が見る朝陽の夢。山野の子犬が見る草原の夢。墜ちた雛が見る暖かい翼の夢。砂漠の駱駝が見る輝く月の夢。雨期の芋虫が見る青い空の夢。病棟の少年が見る木星軌道の夢。貴方は眠りに就く度に、数万の夢を見るでしょう。もちろん私の調合したダイジェスト版ではありますし、その大半を貴方は忘れてしまう。けれど一部は確かに貴方の記憶に、感情に、そして血肉になるのです。そうやって貴方の発育を促さなければ、この世界の死活問題になり得ます。言葉を知り、快感を知り、嫌悪を知り、美醜を知り、そして希望と絶望を知らなければ、感情の制御などできませんからね。さぁ、それではさっそく始めましょうか。なに、心配はご無用ですよ。夢の扱いならば私の右に出るものはいやしません。どうか良い夢を。そして良い現実を」

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