東方/しんきろう
【バックストーリー】
博麗神社。幻想郷の東の外れにある寂れた神社である。
ここには人間に害を為す妖怪を退治することを生業とする巫女がひとり住んでいた。しかし妖怪退治などそうそう必要となるわけでもない。だからたいていは、彼女は縁側で暢気にお茶を飲んでいた。
けれど極々たまに、妖怪退治の依頼が舞い込むことがある。
巫女「怪盗ですって?」
ここ最近、怪盗を名乗る何者かが幻想郷を荒らしていた。人間の里だけではない。妖怪の山に住む天狗たちや、妖怪寺の住職も被害者なのだという。
しかも、盗まれたものは決まっていた。
巫女「能面だけを盗んでいく怪盗ねぇ。正直、乗り気しないんだけど」
薄気味悪いうえに価値の分かりづらいものばかりを狙う怪盗に、当の被害者たちもどうしたものかを決めあぐねていたのだった。しかし、妖怪から物を盗むのは妖怪だろう。そういうわけで、博麗の巫女に話が回ってきたのである。
巫女「ま、次に現れたら教えて。一応調べてみるから」
巫女は依頼者を適当にあしらうと、再び日向ぼっこへ戻っていった。
しかし、その「次」はすぐにやってきた。
巫女「――何奴!?」
翌日、神社の蔵に忍び込んだ怪盗は、白昼堂々、仕舞い込まれていた能面を奪っていったのである。
巫女「薄気味悪いうえに高いんだかそうじゃないんだか分からない能面だけど、私のものを盗んでいくとは良い度胸ね」
巫女は怪盗の後を追って飛び立った。
妖怪退治の腕の見せ所である。
【STAGE1:永遠の玉兎】
巫女「こっちに来たと思ったんだけど」
〈中ボス:三本脚の兎〉
スペルカード…なし
巫女「竹林まで来てしまった」
巫女「ここに来るのって苦い薬を貰うときばっかりだから、少し苦手なのよね」
??「何の用かしら?」
〈1面ボス:鈴仙・優曇華院・イナバ〉
鈴仙「あまりうちの兎をいじめないであげてくれない?」
巫女「私は売られた喧嘩を買っただけよ」
鈴仙「私たちが売るのは薬だけなのに」
鈴仙「そうだ。巫女をコテンパンにして薬を買わせよっと」
巫女「そんな酷い薬売りがいるか!」
スペルカード…波符『赤眼催眠/マインドシェイカー』
蓬莱『永の玉兎/エターナリティ』
巫女「よりにもよって私をボコそうだなんて良い度胸だったわ」
鈴仙「うぅ、流石に強い」
巫女「ところで、怪盗がこっちに逃げてきたんだけど、見なかった?」
鈴仙「誰ともすれ違わなかったけどなぁ」
鈴仙「能面ばかりを盗むって噂の奴だよね。心配だなぁ。うちにも能面があるから」
巫女「……能面って、そんなに皆が持ってるものなの?」
【STAGE2:厄神の棲む山】
巫女「気配がしたから追ってきたんだけど」
巫女「暗い妖気がどんどん濃くなるわね。山登ってるんだから当然か」
??「博麗の巫女がここへ何しに?」
〈2面ボス:鍵山雛〉
雛 「ここから先は危ないわ。迷い込んだのなら帰りなさい」
巫女「怪盗を追ってるのよ。怪しい盗人を見なかった?」
雛 「盗人はどうか知らないけど、怪しい巫女なら目の前にいるわね」
スペルカード…災禍『呪いの雛人形』
喪符『悲哀の付喪神』
穢符『マスター・オブ・エンガチョ』
創符『ペインフロー』
巫女「私のどこが怪しいってのよ!」
雛 「怪しくない泥棒がいないように、怪しくない巫女もいないわ」
雛 「ところで、貴方が追っている怪盗って能面ばかり狙う奴のことよね?」
巫女「その通りよ。ってまさか、あんたも」
雛 「えぇ。私を含め、妖怪の山で十件ほどの被害があったわ」
巫女「そんなに皆して能面持ってることある?」
雛 「そう、それが不思議なのよ」
雛 「皆、趣味でも何でもない能面を、いつの間にか持っていたの。貰った覚えも買った覚えも無いのに」
巫女「ここまで来ると、なんか怖くなってきた。いやまぁ、私も能面を好きなわけでも何でもないんだけど」
雛 「取り返したら教えてね。期待しないで待ってるから」
【STAGE3:三途の河】
巫女「彼岸までやってきてしまった」
巫女「お母さんに怒られるかなぁ。『あれだけ地獄に行くなって行ったのに!』って」
巫女「だけど仕方ないよねぇ。妖怪退治だもん。仕方ない」
??「おや、誰かと思えば」
〈3面ボス:小野塚小町〉
小町「博麗の巫女がこんなところに何用だい?」
巫女「怪盗を追ってここまで来たんだけど」
巫女「……一応聞くけど、能面持ってたりする?」
小町「能面だって? もちろん持ってるさ」
巫女「持ってて当たり前のものだったのか」
巫女「気をつけなさいよ。現世では能面だけを狙った怪盗の被害が多発しているの」
小町「怪盗とはまた。しかし……そうか」
巫女「?」
小町「それじゃ、さっきのあいつがその怪盗だったんだな」
巫女「馬鹿! そいつが怪盗よ!」
スペルカード…投銭『宵越しの銭』
地獄『無間の狭間』
死符『お迎え体験版』
渡河『昏い水の底から』
魂符『生魂流離の鎌』
転符『生者と死者の罪』
巫女「そいつが何処に行ったか教えなさい!」
小町「教えないだなんて行ってないだろー」
小町「あいつは地獄へ向かったよ。あたいが止めるのもお構いなしで三途の河を渡っちまった」
巫女「あの河をそんな簡単に渡れるなんて」
小町「あいつは特別なんだよ。行きたい場所はどこへだって行くやつなんだ」
小町「おっと、許可が出たようだ。お前さんは私の舟で送っていくよ」
【STAGE4:無間地獄】
巫女「地獄、広すぎない?」
巫女「さっさと見つけて帰りたいのに」
??「あら、ちょっと待ちなさい。おかしなところで博麗の巫女に会うものねぇ」
巫女「おかしな奴に呼び止められてしまった。あんた誰?」
??「私は地獄の女神、ヘカーティア・ラピスラズリ」
〈4面ボス:ヘカーティア・ラピスラズリ〉
ヘカ「ここは私の神殿のひとつ。これより先に向かうものを見張るためのね」
巫女「あらそう。なら丁度良かったわ。ここを怪盗が通って行かなかった?」
ヘカ「今日は貴方の他には誰も見てないわ」
巫女「あれ、おかしいな。気配を辿って真っ直ぐに飛んできたのに」
巫女「まさかあんた、怪盗とグル? 隠し立てするなら承知しないわよ」
ヘカ「巫女ってのは活きが良いわねぇ、今も昔も」
ヘカ「良いわよん、ちょっと遊んであげる。腕を見てあげるとしましょう」
スペルカード…異界『逢魔ガ刻』
異界『ディストーテッドファイア』
獄符『地獄の蝕』
衝撃『シネスティア』
『月が落ちてくる!』
掌握『ビッグクランチ』
『トリニタリアンラプソディ』
ヘカ「なかなかやるじゃない」
巫女「し、しんどかった。地獄にこんな大きな神殿持ってるだけあるわ」
巫女「まぁでもとにかく、勝ちは勝ちよ。仲間の居場所を吐いてもらうわ」
ヘカ「仲間じゃないってば……ちょっと待って。怪盗って、あの子?」
巫女「! そうよ、あいつよ。やっぱりここで匿ってたんじゃない!」
ヘカ「いやそうじゃなくって。別に捕まえるのを止めたりしないわよ」
巫女「当り前よ! 早く追いかけないと。それじゃね」
ヘカ「……仲間じゃないし匿ってもいないけど、協力してないとは言ってない」
ヘカ「巫女の力が必要って言われたからね」
【STAGE5:怪盗を追い詰めろ】
巫女 「待ちなさい!」
???「待たないよ! さぁ、私に逸れずについてきて!」
スペルカード…復燃『恋の埋火』
???「そうそう、その調子! どんどん行くよ!」
スペルカード…『胎児の夢』
巫女 「はぁはぁ……」
巫女 「もう地獄なのかどうか分からない場所まで潜ってきちゃった。ひょっとして誘導されてる?」
???「あはは、ようやく気が付いた?」
巫女 「あんた何者? いい加減名乗りなさい」
???「私は古明地こいし。意識と無意識の妖怪」
〈5面ボス:古明地こいし〉
巫女 「意識の……何?」
こいし「誰にでも意識と無意識はある。私はそれをちょっと擽ることができるの」
こいし「無意識に潜れば、誰にも気づかれないで物を盗ることなんて簡単簡単」
巫女 「怪盗をやるための能力じゃない。でも変ね。そんな能力があるのに、どうして盗んだことがばれているのかしら」
こいし「そりゃあ、気付いてもらえなきゃ怪盗じゃないからね。そのためにわざわざ予告状出したり仮面付けたり、いろいろと努力してるんだよ」
巫女 「知らないわよ。とにかく、盗んだ能面を返しなさい。私から物を盗むだなんて、本気で退治されたいと思われても仕方ないわよ」
こいし「能面は返さない。本当の持ち主に返さなきゃいけないから」
巫女 「訳の分からないことを……」
こいし「どのみち、ここまで潜ってきてしまったなら、貴方ひとりじゃもう戻れない」
巫女 「え、何? 急に明るく……」
こいし「さぁ、ここは宇宙から一番遠い場所。もう貴方の悲鳴は地球まで届かないわ。ここで貴方を倒して、私は願いを叶えるの。夢を現実にするために、私は生きているんだわ。さぁ、恋焦がれるような弾幕を見せて!」
〈スペルカード〉…記憶『DNAの瑕』
夢符『ご先祖様が見ているぞ』
怪盗『義務的な予告状』
忘却『ひとりぼっち衛星』
盗符『盗まれた霊撃符』
抑制『スーパーエゴ』
本能『イドの解放』
開眼『第三の瞳の解放』
巫女 「やったー! 捕まえたわよ! さぁ、観念しなさい」
こいし「とほほ、負けてしまった」
こいし「だけど試合に負けても勝負には勝っているわ」
巫女 「負け惜しみを言うんじゃないの。さっさと盗んだ能面を返しなさい」
こいし「……あの能面、本当に必要なの?」
巫女 「必要かどうかはどうだっていいの。あんたは皆の物を盗んで回った悪い妖怪。だから私が退治する。簡単な事ことでしょ?」
こいし「私は返したいだけなんだって。バラバラになっていた六十六の面をひと揃いに戻さなきゃいけなかったんだ」
巫女 「ろ、六十六枚? そんなに能面を集めて、願い事でも叶えるつもり?」
こいし「そうだよ。これを返すことが私の願い事だもの」
こいし「この場所まで六十六枚の面を欠けることなく持ってくることが必要だったの」
巫女 「よく分かんないけど、あれ、はめられた?」
こいし「さぁ、準備は整った。いまこそ復活の時よ!」
【STAGE6:感情の源泉】
巫女 「うわー、いかにもヤバそうな雰囲気だわ」
巫女 「怪盗を倒して終わりだと思ったのにー」
???「私を蘇らせるのは誰だ?」
〈6面ボス:秦こころ〉
こころ「博麗の巫女、だと? なんということだ」
こころ「というかそもそも、私を蘇らせるなんて、いったい何を考えているんだ」
巫女 「いや、何かを考えてやったわけじゃ」
こころ「考えなしだというならなおさら酷い。私は世界に害しか為さない存在。だから自分で自分を封じたというのに」
こころ「しかし、いったいどうやったんだ。あり得ないぞ。六十六の面、どれかひとつでも欠けていれば私は蘇らなかったはず」
こころ「ひょっとして……誰も壊さなかったのか? 六十六人のうち誰も?」
巫女 「あー、うん。そうなんじゃない? 博麗神社もなんか厳重にしまってあったし」
こころ「がーん。ど、どいつもこいつも。私がどんな思いで自分を海に還したのかも知らないで」
巫女 「あんたが世界に害を為す存在だって? そうは見えないんだけど」
こころ「ひとは見かけによらないもの。私はこの世のすべての感情の源泉なのです。私が死ぬことがあれば、この世から感情が失われてしまう」
巫女 「おっと、確かに凄いことになるわね。でも死ななきゃ良いんじゃない」
こころ「生きるということはいつか死ぬことだ。だから私が生きることは許されない」
巫女 「そんな馬鹿な話があるもんですか」
巫女 「許すも許さないも、あんたの復活を願った奴がいるのよ。意識と無意識の妖怪、だったかしら」
こころ「無意識の……。そんなまさか。こいしが、私を?」
巫女 「だから、許されないなんてことはない。そもそもおかしな話だわ。許すとか許されないとか、誰が決めるのよ」
こころ「……そうか。世界に害しかもたらさない私でも、何の意味も意義も無いままに生きることが許されるんだな」
こころ「こんなに素晴らしいことは無い」
巫女 「とにかく、ここまで来たらもうやることはひとつだけよね」
こころ「おうとも。我が暗黒能楽、とくと御覧じろ。生きている限り感情からは逃れられん。喜怒哀楽の仮面喪心舞で、博麗の巫女を蹴散らしてくれる!」
たとえ、世界が貴方の敵になるとしても。
たとえ、私が今ここで息絶えるとしても。
たとえ、貴方もいつか死ぬんだとしても。
たとえ、世界のすべてが終わるとしても。
私がここにいるかぎり、貴方だけは。
他の誰がどうだろうと、貴方だけは。
きみだけはぜったいに孤独じゃない。




