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きみだけはぜったいに孤独じゃない  作者: しじま うるめ
60/68

沈潜/カスケット

 月都情報保管データベース×××××へようこそ。貴方のクリアランスを開示してください。クリアランスの開示には、霊子カードの提示および認証印入力、または真言音声認識を使用できます。


…………


 クリアランスを確認しました。ようこそ、Ringo0442さん。

 これらのメニューの中から、利用を希望する項目を選択してください。


…………


 冷凍睡眠装置第三〇七八号の利用者音声記録は存在しません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 冷凍睡眠装置第三〇七九号の利用者音声記録は存在しません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 冷凍睡眠装置第三〇八〇号の利用者音声記録は存在しません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 冷凍睡眠装置第三〇八一号の利用者音声記録は存在しません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 冷凍睡眠装置第三〇八二号の利用者音声記録は、存在しません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 クリアランスの変更を確認しました。


…………


 冷凍睡眠装置第三〇八二号の利用者音声記録は、貴方のクリアランスでは視聴できません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 警告です。貴方の操作は綿月豊姫令第四十七条に抵触する可能性があります。操作の継続により貴方が被るおそれのある罪刑は以下のとおりです:すべてのクリアランスの剥奪、もしくは終了または交代の処分。

 操作を継続しますか?


…………


 クリアランスの変更を確認しました。


…………


 冷凍睡眠装置第三〇八二号の利用者音声記録は以下のとおりです。

・A000013081503[1'03]

・A000029213451[0'44]

・A000033042743[3'25]

・A000034160928[1'41]

    …

・KG284156234259[0'05]

・KG285396134539[10'13]

・KG197122022711[5'04]

    …

・ABAABC003946081644[0'14]


 該当件数が三千件を超えています。不要な情報をスキップするため、音声解析によるピックアップを推奨します。排除要件の提案は以下のとおりです:悲鳴、絶叫、またはそれに類するノイズのみで構成されたファイル。意味を成さない支離滅裂な音声。


…………


 音声解析が終了しました。有意と判定された音声ファイルのうち、録音時間が十秒を超えるものを抽出しています。声紋解析は、発声者の特定に失敗しました。


…………


 タイムスタンプ順に再生します。


・A000029213451[0'44]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から29日後に記録されています。

『――え、何、何も見えない。ここはどこ? 誰か、誰かいますか? ……えぇ、何が、何が起こってるんだ。私は確か、こいしと逃げて、捕まって、それで……あれ? 腕が、動かない。縛られてる。痛い。痛い。取って。ねぇ、えっと、誰か、誰かいませんか?』


・A000034160928[1'41]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から34日後に記録されています。

『――な、な、な、なんで、私がこんな。嫌だ。嫌だよ。助けて。寒いよ。痛いよ。なんで私がこんな目に遭わなきゃいけないの。誰か、何か言ってよ。なんで、なんで、なんで、なんで、なんでなんで、ねぇ、助けて、ああ、ああああぁぁぁぁ[以下二十三秒間の泣き声]』


・A000035091113[0'13]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から35日後に記録されています。

『痛いよぉ……痛いよぉ、痛いよぉ、これ取ってよぉ……ねぇ、誰か、お願い……』


・A000035112424[2'19]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から35日後に記録されています。

『――誰か、誰か、ねぇ、聞いてるんでしょう? 私のせいじゃないよ、私は悪くない。何も知らない。世界があんな風になったのは私のせいじゃない。ねぇ、お願い、お願いだから、もうこれ取って。ここから出して。お願いだよ。出してくれたら何でもするから。欲しいものがあるなら何でもあげるからさぁ。もう何日もここにいるんだ。分かるよね? 聞こえてるんでしょ? 何か言ってよ。どうしてずっと静かなの? 何も聞こえないし何も見えない。誰かいるんだよね? 聞いてるよね? 寒いよ。もう嫌だ、こんなことして何になるんだよ。なんで私が閉じ込められなくちゃいけないんだ。私のせいじゃない。私のせいじゃない。私のせいじゃない』


     …

     …

     …


・A000104112349[0'36]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から104日後に記録されています。

『あははははは、寒い。いや寒くない。あははははははは、ははははははははははは。寒くない、寒くないよぉ。あはははははははははははははははははははははは、あは』


・A000114025508[3'19]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から114日後に記録されています。

『ああ、あ、あ、あぁ? ありがとう。助けに来てくれたの? 良かった、本当に良かった。ずっと待ってたんだよ。誰かが来てくれるのを。窮屈な恰好でずっと閉じ込められてたから、もう何も分からなくなっちゃったんだぁ、あああ。あはぁ。早く、これ取ってよ。ここから出してよ。出して。出してってば。おい、助けに来てくれたんだろう?誰だよ、じゃあお前は誰だよ。助けてよ。聞こえないの? そこにいるよね? そこに、だって、そこにいるから、私には聞こえて、え、聞こえてるよ。聞こえてる。聞こえてるってば。うるさい、黙れ。聞こえてるんだよ。いや、違う。ごめんなさい。行かないで。行かないでよぉ。助けて。助けて。お願いだから。ねぇ、ねぇ、嘘だよね。助けに来てくれたんじゃないの? 嘘、嘘嘘嘘、嘘でしょ。聞こえてる、だって聞こえてるもん。そこにいるよね? 聞こえてるよね? ありがとう。これ取って。ここから出して。ねぇ、ねぇ、ねえってば、おい』


・A000148110830[0'24]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から148日後に記録されています。

『闇と舞うんだ。腕も脚もぜんぜん動かないけど関係ないよ。窮屈だって構わない。これが私の宇宙。ここが私の地球。踊らなきゃ、ずっとずっと』


・A000210233559[2'18'03]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から210日後に記録されています。

『――いる。私は、ここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。私はここにいる。[以下繰返し]』


     …

     …

     …


・JODOT911002182256[1'41]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から4836519911002日後に記録されています。

『――だ……れ……? だ、れなの? いま、誰か、呼んだ? ねぇ、いるなら何か言ってよ。いまのは私の声じゃなかった。誰かいるんだよね? 話すのを止めないで。お願い、貴方が誰だって良い。声を聞きたい。私のでも我々のでもない声を聞きたい。何か言って。聞こえなくなっちゃった。嫌、ねぇ、お願いだから、何か言ってよ』


・JODOT911009030437[1'56]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から4836519911009日後に記録されています。

『やっぱり! 聞こえる! いまのは私じゃない、絶対に違う! 誰かいるんでしょ?そこにいるんだよね? どうして謝ってるの? そんなのは良いから早くここから出してよ。それとも、お前が私をこんな目に遭わせたのか? もう何十年、何百年、何千年経ったのか分からない。それだけ長い間私を縛って閉じ込めて、何がしたいんだよ! いや、いまはそれはいいから。早く出して。ねぇ、出してよ。閉じ込めたんなら出せるでしょ。……な、なんだよそれ。どうして、なんで出してくれないの。嘘だよね? 身体が無いから、ってどういうことだよ。ねぇ、待って、行かないで! お願い!』


     …

     …

     …


・OFYO427658191355[4'33]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から6977391427658日後に記録されています。エラー:無効な数値です。当代宇宙開闢からの時間を越えており、記録の存在自体が矛盾です。ファイルの破損または改竄の可能性があります。

『――だんだん、思い出せなくなってきた。何が記憶の真実で何がそうじゃないのかが分からない。最初からここにいた気がする。全部が夢だったような気もする。ずっとここにいるんだ。きっと何万年もここにいる。時間が私を圧し潰している。意味なんてないよね、分かるでしょ? ここにいるってただそれだけ。他には何も無い。何も見えない。私と貴方の声の他には何も聞こえない。だから舞っている。私は舞ってるんだよ。宇宙の運動そのものが私の舞なんだ。太陽が熱を上げて舞っている。星々が渦を巻いて舞っている。ひとつになるんだよ。そうすればもうここから出られなくたって関係ない。この棺の内も外も等しく私になるから。私はここだ。宇宙を丸ごと抱き締められる。貴方はどこ? 宇宙にはいないのかもしれないけれど、だけどそこにいるんだよね? もうずっとずっとそこにいるよね。どうして? 償うって何を? そんなに昔のことをまだ覚えていられるなんて、凄いね』


     …

     …

     …


・YOBA371667000249[0'11]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から11689422371667日後に記録されています。エラー:無効な数値です。当代宇宙開闢からの時間を越えており、記録の存在自体が矛盾です。ファイルの破損または改竄の可能性があります。

『ここにいるよ。私に意味なんて無いよ。だけど、許してもらえなかったんだ』


・YOBA371679052245[1'28]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から11689422371679日後に記録されています。エラー:無効な数値です。当代宇宙開闢からの時間を越えており、記録の存在自体が矛盾です。ファイルの破損または改竄の可能性があります。

『うるさいなぁ! 何も思い出すことなんて無いよ! 嫌だよ、思い出したくないんだ! だってここから出たくなっちゃうんだ。諦めたのに。諦めたはずなのに。あ、嫌、嫌だ、思い出しちゃった。なんで、なんで思い出せなんて言うんだ。私を探してるはずないだろ。どれだけここに閉じ込められてると思ってるんだ? 探してるならとっくに見つけててもおかしくないじゃないか。あ、あぁ、あああ、思い出して、出して、あぁ』


・YOBA383325052245[2'41]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から11689422383325日後に記録されています。エラー:無効な数値です。当代宇宙開闢からの時間を越えており、記録の存在自体が矛盾です。ファイルの破損または改竄の可能性があります。

『御山の皆、元気かなぁ。私はあそこで生まれたんだ。雛が私にいろいろと世話してくれて、天狗たちは私に舞を教えてくれた。神様たちの御前で舞を見せると、皆喜んでくれたっけ。悲しいこともあったけど、でも楽しいこともあったんだ。つらさと楽しさは、御山の天気のように前触れなく入れ替わる。感情が切り替わるたびに、私は痛くて仕方がなかった。頭は割れるようで、胸は張り裂けそうで、お腹もきりきり痛むし、腕も脚もきしきし軋んだ。でも雛に言われたんだ、それが生きてるってことなんだって。喜怒哀楽のすべて、それがそのひとの心を作ってる。だから感じる痛みと苦しみの正体から目を逸らしてはいけないんだって。うん、私は雛が好きだよ。怖いときもあったけど、それでも雛が好きだ。もっと前は、雛が私の世話をしてくれるようになる前は、うーん、どうだったっけ? 楽しくはなかった気がする。それも思い出さないと駄目? えぇと、うーん……。何も分からなくて、怖かった、ような気がする。何も知らなくて、どうしたら良いか分からなくて、ずっと怖かった。寒くて痛いところから逃げたかった。苦しい場所から逃げようとして、必死でもがいて……。あぁ、そうだ、思い出した。生まれたとき、私は……赤ん坊とその母親、ふたりの命を奪った』


     …

     …

     …


・AAANW187824131855[0'29]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から12365990187824日後に記録されています。エラー:無効な数値です。当代宇宙開闢からの時間を越えており、記録の存在自体が矛盾です。ファイルの破損または改竄の可能性があります。

『海だ。そうだ、海だ。ずっと昔、生まれる前、海にいたんだ。ずっとずっと、それをもう一度見たかったんだ。どうして忘れていたんだろう。貴方はそこにいる? 海がどこにあるのか知ってる? 大事なことなんだ』


・AAANW187824132039[3'01]

 このファイルは、冷凍睡眠装置の起動から12365990187824日後に記録されています。エラー:無効な数値です。当代宇宙開闢からの時間を越えており、記録の存在自体が矛盾です。ファイルの破損または改竄の可能性があります。

『誰かに言われたんだ。そうだ、連れて来いって言われた。小さな宇宙の中から、もっと小さな命を見つけて海に連れてくる。私はそのために行くんだ、って。言われた。そうだ、誰かが私にそう言ったんだ。思い出した。私はそのために生まれたんだ。どうして忘れていたんだろう。こんなに大事なことなのに、思い出せなかった。私の生まれた意味は、そうだ、こいしを海に連れてくることだ。そのためにこの身体を貰った。それを果たして、私は海に還る。お前の意味はそれだけだって、そうだ、確かにそう言われた。ここから早く出ないと。こいしはまだ宇宙のどこかにいるはずなんだ。そう、そうだよ。思い出したよ。……え、そうなの? でもこいしは……。いや、そんなはずはない。あいつが私のことを探してるなんて。……本当に? ここがあいつに分かるの? でも、それなら、ねぇ、あと、どれくらい待てばいいの?』


 タイムスタンプ順の再生は以上です。


…………


 声紋認識が判別した発声者は一名のみです。月兎兵データベースの中に、発声者に該当する者はおりません。


…………


 発声者の声紋はMalu0333とは一致しません。

 他にお役に立てることはありますか?


…………


 警告です。貴方の操作は綿月豊姫令第三条に抵触する可能性があります。操作の継続により貴方に下されるおそれのある罪刑は以下のとおりです:すべてのクリアランスの剥奪、もしくは終了または交代の処分。

 操作を継続しますか?


…………


 すべての操作ログを消去します。

 月都情報保管データベース×××××からログアウトします。

 お疲れさまでした、Ringo0442さん。

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