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きみだけはぜったいに孤独じゃない  作者: しじま うるめ
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嵐山/オーケストラルヒット

演目「嵐山」


※これは博麗霊夢の婚姻の祝宴にて、秦こころが披露した演目を現代語訳し書き起こしたものである。原典は金春禅鳳であるが、秦こころが演舞にあたり改稿したものと思われる。


【開幕。壇上へワキの巫女(小面)、同じくワキの魔女(邯鄲男)が現れる。華やかな音楽とともに、ふたりは浮かれ調子で舞い踊る】


巫女

 私は博麗神社の巫女です。さてさて、この神社の桜は見事だけれど、人の里から遠いことばかりが難点。里にもっと近いところに、嵐山という山桜の育ったところがあるそうだから、その様子を見にいこうと、こうして魔女とふたりで急いでいるわけです。


魔女

 博麗神社にも負けないほどの見事な桜。


巫女

 博麗神社にも負けないほどの見事な桜。


巫女と魔女

 何某が育てたという、その見事な嵐山の桜を見に行こう。いざいざいざ、急いで行こう。


巫女

 いざいざいざ、


魔女

 急いで行こう。


巫女と魔女

 里の人間が手塩にかけて面倒を見てきた桜だというのだから、今まさに訪ねてみようではないか。神社の桜は何度も見てきたけれど、あの遠くに見える雲のような美しい花は、なんとまぁ、負けないほどの見事な桜。ああ、美しい花の景色だよ。美しい花の景色だよ。


巫女

 急いで参りましたので、もう桜のもとに着きました。それでは、心静かに花を眺めることといたしましょう。


魔女

 そういたしましょう。


【巫女と魔女の前に、シテの花守の娘(増女)とツレの花守の娘(小姫)が現れ、花を賛美する】


花守の増女

 この花守の守る嵐山の桜は、この上なく美しく、梢は花の雲を天上に届かせるようだよ。


花守の小姫

 吉野の千本桜から種を貰ったものだから。


増女と小姫

 いつまでも栄える春の景色を広げているよ。


増女

 私たちは、嵐山の桜を世話する花守です。


小姫

 有名な吉野の千本桜をこの場所に育てて、人々が桜を愛でられるようにと、仏も神も取り計らってくださったのです。語り継がれるに相応しい天の恵みですよ。


増女と小姫

 仏心も神徳も、まこと山のように高く、泰平の世の春空も麗しいことだよ。その麗しい空の下、花見の人々が行き交っているよ。東から西へ巡る日も、山から谷へ流れる川も、山桜を美しく映えさせる。永久の栄えをあらわす景色だよ。永久の栄えをあらわす景色だよ。


増女

 さあさあ、掃き清めて礼拝しよう。


小姫

 さあさあ、掃き清めて礼拝しよう。


巫女

 これは不思議なことだ。古くもない山桜に、あの花守たちは丁寧に礼拝している。


魔女

 わけを尋ねてみるとよいでしょう。


巫女

 そちらのふたりにお尋ねしたいことがございます。


増女と小姫

 おや、博麗の巫女様ではありませんか。何を尋ねたいと仰るのです。


巫女

 拝見しますと、古いわけでもない山桜を丁寧に掃き清め、花に向かって礼拝なさっています。これはいったいどういうわけでしょうか。


増女

 不審に思われるのも、もっともなことです。ここ嵐山の桜は、御神木なのです。ですからこうして掃き清め、礼拝するのです。


巫女

 不思議なことを仰いますね。ここの山桜が御神木であるという謂れがなにかあるのですか。


増女

 嵐山の桜は、吉野の千本桜から種を貰ったものですから、木守の神と勝手の神が惜しみ給われ、いまも人知れずこの山桜に御姿を現わされるのですよ。


巫女

 そういうことですか。しかし嵐山とは、桜の名所としては縁起が悪い名前ではないですか。


増女

 それこそが、嵐の中に素晴らしい桜を咲かせるという不思議を現わして、神徳を示そうという神のお恵みなのです。


増女と小姫

 まったく頼もしい神の力。仏心と神徳により泰平の広がるこの地では、名前は嵐山であろうとも、


 花は散ることはあるまい。風にも勝つだろう。木守の神と勝手の神というのは、実はこの私たち、増女と小姫である。声高に言ってしまったが、人にはお知らせなさいませぬように。


増女と小姫

 さあさあ花を守ろうよ。さあさあ花を守ろうよ。


増女

 春の風が空に満ちて、庭木をへし折ることがありましょうとも、神風を吹き返せば、雲を神徳が晴らすように、晴れ晴れとなるに違いありません。この山桜は、嵐山の風が吹いても、枝も鳴らず、長閑なものです。


増女と小姫

 さあさあ花を守ろうよ。さあさあ花を守ろうよ。


増女

 日も既に暮れてまいりました。どうか夜をお待ちなさい。また明日もお会いいたしましょう。


 そう言って、吉野の山桜のような雲に乗って、娘たちは夕陽の残る山を経て、南の方へ行ってしまった。南の方へ行ってしまった。


【中入り。多数の猿面が現れ、キャアキャア、キャアキャアと騒いで回る。これは吉野の猿が嵐山の猿に婿入したので、猿たちが賑やかに祝っている様子を表現しているのである】


【夜になり、巫女と魔女の前に木守の神(増女)と勝手の神(小姫)が現れ、寿ぎの舞を舞う】


 三吉野の、三吉野の千本桜の種を植えて、嵐山の地で、あらたかに神が来臨して神遊びなさるのは、めでたいことだ、この神遊びはめでたいことだ。


木守と勝手

 いろいろの花こそ入り混じっているけれど、一面の白雪のような花盛りだ。


 これは木守、勝手の神の恵みだろうよ。


木守と勝手

 吉野の山々が、あたかもここにあるかのようだよ。君が代の万歳を祝い、「よろづ代、よろづ代」と囃せよ、囃せよ、神遊びの舞を舞おう。千早降る。


地 神楽の鼓の音色は澄んで、神楽の鼓の音色は澄んで、羅綾の袂を翻しては翻す。舞楽の秘曲がいくつも舞われて、巫女と魔女が深く感銘を受けているところに、不思議なことに、南の方から吹いてくる風に、素晴らしい香りが漂い、めでたい雲がたなびき、金色の光が輝きを放つ。こちらに吉野金峰山寺の本尊、蔵王権現が来られるのか。


【演奏はより煌びやかになっていく。激しさを増す太鼓と笛の囃子に乗って、蔵王権現(大飛出)が舞台に現れる】


 和光利物の御姿、和光利物の御姿だよ。


蔵王権現

 私は仏の住む都を出て、悪業に嵌った衆生の苦しみを助け、苦しみに満ちたこの世の煩悩を払い、悪魔を調伏する。青蓮のまなざしより光を放ち、国土を照らし、衆生を守る誓いを顕にする。そして、木守の神、勝手の神、蔵王権現は一体である。分身が異なる名で呼ばれているのである。それぞれがその姿を示し、嵐の山によじ登り、花に戯れ、梢を駆けていく。それによりこの嵐山も、さながら吉野金峰山であるかのように光輝く。光輝く千本の桜が咲く春は、永久に栄えることだよ。


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