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きみだけはぜったいに孤独じゃない  作者: しじま うるめ
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情報/インタールード#3

是非曲直庁インタビューログアーカイブ

ち‐〇三一七‐一

インタビュー対象:豊聡耳神子

インタビュアー:四季映姫ヤマザナドゥ


「お時間を頂き、感謝します」

「まったくです。私の時間は高価値なのでね。もっとも、それは貴方とて同じことでありましょう。であれば、さっさと本題に入るべきかと」

「……彼岸からの訪問者を前に、ここまで堂々とされると却って気が引けますね」

「閻魔様は我々を裁くのが職務であり、それは死神に敗北したその後の話。私はまだ負けてなどいないのだから、貴方を恐れる道理などありますまい」

「結構なことです。事実、本題は貴方自身のことではありませんしね」

「面霊気の話でしたか」

「はい。貴方は彼女のことを、いったい何だと考えていますか?」

「その質問にお答えするのは、わりと難しいのです。業腹なことに、私にすら分かっていない問題が幾つか存在する。とりあえず世間的には、あれは付喪神ということになっています。私の作った面が、長い時を経て妖怪と化したのだと。それは一見、筋が通った説に思える。他ならぬ私が作った面、能面の祖となった逸品。魂が宿ったとしてもなんら不思議は無いのですから」

「しかし創造者たる貴方は、そうではないと考えている?」

「その通りです。そして貴方がわざわざ調査に出向いていることで、疑念はもはや確信となりました」

「では、彼女の正体は何なのでしょう」

「……浄玻璃の鏡に、映らなかったそうですね」

「…………なぜ、それを」

「おや、鎌をかけただけなんですが、図星でしたか。そりゃあこれだけ是非曲直庁と丁々発止を繰り返していればね、そちらの行動原理は分かります。貴方がたが動くのは、生と死の原則に従っていない者のためだ。我々は死を遠ざけようとするがために、貴方がたと利害が衝突する。しかし、あの娘は違う。普通に生きているだけです。あぁいや、在り方としては普通だなんてとても言えないが、まぁとにかく死から逃れようと外法を用いているわけではない。それならば、彼女の存在そのものが世界にとってのエラーであるという、何らかの不備が是非曲直庁で見つかったと、そう推察したまでのこと」

「流石に、人中の天才筆頭が相手ともなれば、誤魔化せませんか。こうなればぶっちゃけましょう。その代わり、今後貴方の元に現れる死神は一切の手心を加えないことになると思いますがね」

「怖い怖い。用心するといたしましょう」

「秦こころが浄玻璃の鏡に映らないというバグを発見したのは、本当に偶然でした。たまたま私が、幻想郷へ出向いていたときに発覚したのです。鏡が故障するなんてことはあり得ません。だからまず最初に自分の眼を疑ったくらいですが、何度試しても結果は変わりませんでした。他の閻魔の鏡でも同様だったため、問題があるのは彼女自身だという結論が導かれました。しかし、未だかつてこんな事態は起こったことがなかった。幻想郷だけでなく、この世界に存在するあらゆる魂を、浄玻璃の鏡は参照できます。妖怪と人間どころか、亡霊や動物、微生物に至るまでのあらゆる生命をです。魂は、生命は、常に彼岸と鎖で繋がれています。その鎖に従って、死者は三途の川へ集うのです。そして浄玻璃の鏡は、その鎖を遡って閻魔帳の情報を参照し、個人の行いを映し出す道具。それが機能しないということは――」

「鎖が無いか、あるいは辿れないか、もしくはそもそも閻魔帳が不完全か。そのいずれかということになりますね」

「はい。いずれにしても由々しき事態です。さらに言えば、我々はその鎖を検査する術を、それどころか確認する方法すら確立できていない。鏡が作動する理屈、概念上の存在を鎖と捉えているだけなのです。だからそこに不備があるかどうかを調査することができない。すなわち我々にできることは、閻魔帳を隅々まで確認することしかなかった」

「閻魔帳を隅々まで、って……。その労力を考えたくもないんですが」

「稗田が現世にいる周期だったのが祟りましたね。そりゃもう大騒ぎでした。これまでに生きた魂と、いま生きている魂。その総数が幾つになるか、数える日が来るだなんて思ってもみませんでしたよ。死神に鬼たち、地獄上層の模範囚だけでなく、他の冥界からも応援を総動員して、数万人体制でまるまる二年間、ひたすら頁をめくり続けました。私も少しだけ手伝いましたが、指紋がなくなるかと思いましたよ」

「そしてその結果、面霊気の存在が欠落していることが判明した、と」

「その通りです。となると次の疑問が生じる。全生命を網羅しているはずの閻魔帳に載っていない。そんなイレギュラーな存在が、どうやって誕生したのか。どうしてこの世界に存在しているのか」

「ふむ、ならばぶっちゃけついでにひとつ伺いたい。浄玻璃の鏡で天人を参照できることは存じ上げています。では、月の民は?」

「月に住まう者たちの名前はありません。これについては不思議ではありません。彼女たちはそもそも生きていませんから、死ぬこともない。彼岸の管轄外です。ただし永遠亭のふたりについては記載されています。蓬莱人は生きていますからね」

「やはり。私も月まで出張る死神だなんて聞いたことがない」

「まさか、面霊気は月から来た、と?」

「素直にそうとも思えませんが、しかし置かれている状況は似ていると言えるでしょう。生と死の理から外れた位置で存在しているのなら、話は単純なのかもしれない。つまり彼女は、この星の生まれではない」

「……話が飛躍したようです。切り口を変えましょうか。貴方にとって、面霊気はどのような存在なのですか」

「私にとって、ですか」

「えぇ。彼女は貴方によく懐いているようですし」

「懐いている、というのは語弊があるでしょう。創造主たる私を、面の修理屋として便利に使っているに過ぎない。まったく不敬な。……けれどまぁ、感慨が無いかと言われれば、無いことはないのですよ。入滅する前に創ったものが、長い時を経ても私を慕ってくれているというのは、けっして悪い気はしない」

「おや、驚きました。貴方にもそんな人間らしい感傷があったとは」

「子のために慈愛を示す親代わりの私。悪くない設定じゃないですか。人間からの支持を集めるには、こういったアピールも大切なのです」

「前言撤回します。貴方は少し政に気を入れすぎている」

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