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きみだけはぜったいに孤独じゃない  作者: しじま うるめ
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恩寵/バタフライエフェクト

 旧地獄の奥底、光射さぬ岩窟。

 怨霊のひしめくその場所は、普通の生物は生きていけない。虫けらのような小さな命や精神に依る妖怪は、生命力を瞬く間に奪われるだけでなく、存在そのものを書き換えられてしまう。だから彼らにとっては、怨霊以上に恐ろしいものは無い。健全な精神状態にある中型以上の動物であれば、怨霊にはなんとか打ち克つことができる。けれど、餌となるものが何も無いこの場所で、何の備えもなく長居してしまえば、飢えて衰弱するうちに帰れなくなり、結局は怨霊に憑り殺されてしまうだろう。

 だからここに入るために必要なのは、怨霊を操る力だった。

「よーし、よし。いい子だ」

 火焔猫燐は、自分の気配を察知して出てきた怨霊を、妖気の放射と口笛で宥めた。彼らはあっという間に敵意を喪失し、ふよふよと揺れる二本の尾にじゃれつき始める。

「よーし、よしよし……。それじゃあこいし様、ここでちょっと待っててくださいね」

「はーい」

 主人の妹が間の抜けた返事をする。岩窟の周囲も怨霊に溢れていて危険だけれど、彼女ならば大丈夫だろう。地霊殿の古明地姉妹は、世にも珍しい「怨霊に嫌われる妖怪」なのだから。流石に闇の洞窟内ではぐれたら取り返しがつかないので、中までは連れて行けないけれど。

「本当に、この中に住んでるの? こんな小さな穴倉の中に」

「えぇ。前に降りたときにたまたま見つけまして」

 ふたり(と大量の怨霊)がいる場所は、地底世界には無数にある鍾乳洞のひとつだ。ここはまだ数人が輪になって踊れるくらいのスペースがある。しかし燐の視線の先、深部へ続く穴は急に狭くなっていて、ひとがひとり通れるかどうかといったところだ。

「それで、わざわざ引き上げに行くんだ」

「だって、あんな場所で永遠に過ごすだなんて、あんまりでしょう」

 怨霊の騒めきが収まったことを確認し、燐はそろりと一歩を踏み出した。そして最小限の灯りで闇を照らしながら、体をくねらせて奥へと進んでいく。

 この洞窟の全容は誰も知らない。最奥部まで辿り着いた者はいないし、それを調べようという冒険家もほとんどいない。ほとんど、というのはごく稀にそういう命知らずが現れるという意味だ。そしてそんな愚か者たちが生きて戻ってきたことは無かった。

 火車である燐は死体収集がライフワークであるので、ときおりこの闇の洞窟へ冒険家の死体を探して入ることがあるのだった。ゆえに、この場所にもっとも詳しい生者は彼女ということになる。

「蜘蛛の糸だね、お燐は」

「へっ? 何か言いました?」

「なんでもなーい。いってらっしゃい」

 にへらと手を振る主の妹に笑顔を返し、火車は手を振りながら闇に身を沈めた。

 闇に慣れた瞳は最低限の光源しか必要としない。燐の操る鬼火は、もはや小指の先よりも小さな粒だ。てらてらとした岩の輪郭が反射により浮き上がって、光のトンネルを作り出す。さらにはその中に、ときおり星のような煌めきが混じる。岩の中にトパーズか何かの結晶石が埋まっているのだろう。漣めいた光に囲まれて、中空の闇はまるで質量を持つかのようにそこへ蟠っていた。

 地熱と地下水脈のために、洞穴内は湿気でもうもうとしている。岩肌を滴る水はちょっとした沢となっていた。何の対策も無しに潜った者への、怨霊に次ぐ試練がこの熱気と湿気である。

 なるべく乾いた壁を見つけては、燐は掌を擦り付けた。自分の匂いを付け、帰途の目印とするためだ。

 さらには、人の身体ではとても通れない細さの場所もある。そういったときには猫の身体へくるりと転じ、ひげで安全を確認しながらすり抜けるのだ。人と獣、ふたつの身体を使い分けられる彼女だからこそ可能な探検技である。

――いや、別にあたいは探検家じゃあないんだけどさ。

 独り言ちて笑う。蒐集家業も、高じれば意外なところで役立つものである。

 怨霊の密度はどんどん濃くなっていくけれど、目指す場所はまだまだ先だ。

 このありふれた洞窟もしかし、旧が付くとはいえ地獄の一部である。地上に口を開ける生易しい洞窟とは勝手が異なり、地獄ならではの怪現象が発生する。

 深く深く、潜っていくと、ある地点で。

 闇が、ほんとうに質量を持ち始めるのだ。

「……そろそろか」

 怨霊が急に数を減らす。それを見逃す燐ではない。

 彼女は目指す場所に近づきつつあった。一旦立ち止まり、鬼火で辺りを探る。

 湿った岩肌の一部、ある一点が光を反射しない。近寄ると、なんとそれは翼を広げ、威嚇した。手を伸ばすと、逃げるように奥へと飛び去っていく。

 あれは地獄の烏だ。闇より生まれ出づる、闇そのものが形を成した妖怪。

 怨霊は妖怪の天敵だけれど、燐もそうであるように、それに対応できる妖怪はいる。そして怨霊の群の中で生まれた妖怪は、天敵のはずのそれを餌にしてしまう。地獄烏とはそんな特異な存在だった。

 それ以外に特筆すべき強みはない。闇そのものが凝り固まって生まれた儚い妖怪は、洞窟の中でじっと身を潜めて、ときおり怨霊を吸収してはまた岩肌に貼り付く。そうやって一生を闇の中で過ごすのだ。形は鳥みたいなくせに、植物みたいな性質をしていた。まれに洞窟の外まで飛び出してくるけれど、燐の配下のゾンビフェアリーにだって撃退できてしまうほど、か弱い連中だ。

 下りの傾斜がどんどんきつくなり、もはやほとんど垂直だ。燐だからこそ、さしたる障害もなく進んでいけるけれど、普通の探検家ならばここで御陀仏だろう。

 そして唐突に、天の川の中心へ出た。

 そこは漏斗を逆さにしたような、大きな地下空洞だった。しかしそう説明されなければ、誰もが夜空に放り出されたと錯覚するだろう。四方八方が満天の星空、極彩色の宇宙だ。赤い星が、青い星が、眩い星が、昏い星が、ひしめくように煌めいている。

 燐も、初めて来たときは仰天したものだ。すわ神の悪戯か、とも思ったけれど、岩壁に近づいてみたらその仕組みは理解できた。そこにはこれまでとは比べものにならないくらい大量の結晶石が混じっていて、燐の持ち込んだ鬼火の光をきらきらと反射しているのだ。そして光の差し込む角度や、来訪者に驚いて飛び惑う地獄烏たちのために、ほんとうの星のように瞬いて見えるという訳である。

「何度見ても、凄いねぇ」

 感嘆の溜息は、広大な闇へあっという間に溶けていく。ここは、巨大な地獄烏の巣でもあった。

 そろりと着地して、見上げると元来た穴はもはやどこだか分からない。鬼火の出力を上げると、光にまみれた闇がいっそう濃くなった。

 前回に訪れたときに自分が残した目印を見つけた。もうすぐそこだ。大きな岩をいくつも乗り越えて、燐は目的の場所へと急ぐ。

 かまくらのような構造になっている岩を覗くと、そこに彼女はいた。燐が初めて見つけたときと同じ格好だ。黒い髪が小柄な少女をコートのように包み込んで、一糸纏わぬ白い肌を少しでも闇に紛れ込ませようとしている。その隙間から、紅い瞳がおそるおそる燐を見た。それに、にかっと笑い返してやる。

「元気にしてたかい、空」

「……うん」

 その頭を撫でてやるけれど、空はただされるがままで、その首がぐらぐらと揺れた。まるで迷子のように、小さな少女は闇の中で震えている。いや、迷子よりもなお酷いだろう。彼女には帰りを待つ親もいないのだから。

 燐が空をここで見つけたのは、たまたま死体を探しに降りてきたからだった。こんなところに住んでいるのは地獄烏くらいなものだから、彼女もきっとそうなのだろう。しかし地獄烏とは、本来は脆く弱い存在である。少女の身体を持つほど強力な地獄烏など見たことも聞いたことも無い。たまたま人型になるほどの力を持って生まれたか、あるいは怨霊を喰らううちに成長したかのどちらかだ。

 驚いた燐だったが、地獄だしこういうこともあるのだろうと思考を切り替えた。何があってもおかしくないのが地獄だ。そもそも自分だって、何の因果か覚妖怪のペットなんぞやっている。孤高を気取っていた、かつての自分が見たら反吐を出すに違いない。しかし、独りと独りが出会って、いつの間にか燐はすっかり変わっていた。

 だから、少女と友達になろうと考えて、手始めに名前を付けてやることにした。

 夜空みたいな空間で生まれたから、空だ。

 彼女をいつまでも穴蔵暮らしに置いておくわけにはいかない。面倒見の良い燐は、ここぞとばかりに奮起した。自分の飼い主である古明地さとりに、地霊殿へ空を受け入れることを了承させ、少女ひとりを引き上げる装備も手早く整えたのだ。

「ほら、出ておいで」

 穴蔵から空を連れだそうと手を伸ばす。その手を掴んだ少女だったが、瞼はぎゅっと閉じたままだ。濡れぼそった身体を拭いてやる間も、目を開けようとしない。首を捻る燐だったが、やがてその原因に気が付いた。空は鬼火の眩しさを嫌がっていたのだ。

「あぁ、ごめんごめん」

 すでに最低限まで出力を絞っていたけれど、可能な限り光を弱めて、加えてなるべく遠ざける。なるほど、こんな場所で長く暮らしていたのだから、光とは無縁だったに決まっている。おそらくは燐と出会うまで、空は視覚を使ったことすらなかったのだろう。周囲にこんな美しい星空があることだって、知る由も無かった。

 骨と皮ばかりの身体を抱き締めると、小刻みな震えが少しだけ収まった。

「よし、美味しいものをあげよう」

 腰のポーチから燐はそれを取り出した。小さい欠片を選んで、空の口に含ませてやる。幼子はばたばたと少しだけ暴れたけれど、その味に気付くと紅い眼を丸くした。

「……なに、これ」

 絞るように発せられた言葉は、不器用に踊っていた。

「こいつは氷砂糖だ。お前さんが何を好むか分からなかったから、何を持ってきたもんか迷ったんだけど。まぁ、甘いもんが嫌いな奴はそうそういないだろうってね」

 もうひと粒を差し出してやると、空は奪うようにそれを食べた。微笑ましく、そして悲しい光景だった。

 怨霊を喰らい続けているといっても、少女の身体を維持するのにはそれだけでは足りない。普通の妖怪や人間のような、身体も心も満たす美味しい食事だって必要だ。そういった知識を、この子は何も知らない。ここではけっして、必要なものは得られない。

「そんなに慌てなくても、逃げやしないよ」

「……ほんとに?」

「心配することないさ。お前さんが満足するまでここにいてやる」

 頭を撫でてやる。水分を含んでじとりと重い毛の束が、燐の指の間を力なくのたうつ。

 満天のイミテーションの夜は、地獄と呼ぶには少し美しすぎた。この星々は巡らない。だからここでは時間は流れない。この天球は自力では光れない。だからここでは指先程の光が太陽よりも眩しい。

 燐は目を閉じてみた。そして、やはりここは地獄だったと思い出した。感覚できるのは、ただ果ての無い暗闇と、広大でありながら閉鎖された巨大な空間だけだ。こんな場所で、地獄烏は何を思って生きているのだろう。いや、単純な妖怪である烏たちは、何も考えてなどいないのかもしれない。けれど、この娘は、空はそうではない。

 氷砂糖を噛み砕くことに必死になる空に、燐は本題を切り出した。

「お前さんを、この洞窟の外へ連れて行こうと思う」

「え……?」

 紅い瞳が困惑とともに瞬く。

 ここから出ていくこと。暗くない場所へ行くこと。

 そんなことを、考えてみたことも無かったのだろう。

「私と一緒に、あの天井を越えて、外の世界に出よう」

「い、いやだよ。怖いよ」

 烏の少女は身を縮めて、固い拒否を示した。

「あの変な光だって眩しいのに、もっと眩しいところになんて、行けないよ」

「慣れちまえばどうってことないさ。外にはお前さんやあたいみたいな妖怪がいっぱいいるんだ。いろいろ頼ることもできるし、きっと友達もできる」

「うぅ……」

「地霊殿に来れば、さとり様が面倒をみてくださるよ。獣たちが言いたいことを、覚の能力で何でも見通しちまう。妖怪や怨霊からは嫌われ者だけど、あたいたちは心を読まれることなんて気にしないからね。口下手なお前さんのことも、しっかりと理解してくださるはずさ」

 顔を寄せて、正面からその瞳を覗き込む。そこにあるのは怯懦の色だ。何もかもを恐れ、脅える感情。

 小さな身体を、燐はしっかりと胸に抱き締めてやった。

「大丈夫。お前さんはもう手に入れたんだ。自由を掴むための手と、自分で立ち上がるための足を。心配することなんてないよ。あたいが傍についていてやる。空を虐めるやつはあたいがとっちめてやる。それとも、あたいが怖いかい?」

「そんなこと……ないけど」

「なら、決まりだ」

 頭をぽんと叩いてから、燐は持ってきたシャツとズボンを着せた。地霊殿の誰かが着ていたお古だ。

 身体に括り付けながら抱き上げると、その身体のあまりの軽さがあらためて思い知らされる。空を抱えて来た道を登る分には楽だけれど、少女の今までの暮らしを思うと胸が痛い。燐が偶然出会わなかったら、空はどんな運命を辿っていたのだろうか。

 ふたりは地下空洞を上昇していく。鬼火の煌めきが移動するのに合わせて、岩壁の星々もその色を虹のように変える。光を強めると、瞬きは激しさを増した。なんとも荘厳な光景だ。

「ほら、見てごらんよ。すっごく綺麗だよ」

 燐は笑い出したいくらいに興奮したけれど、しかし空はやっぱり目を眩しそうに細めて言った。

「止めてよ、皆が光を嫌がってるよ」

「お、おう……」

 確かに地獄烏たちは、光を避けるようにこちらから距離を取っている。しかしけっして逃げようとはしない。一定の距離を保ちながら空のことを見守っているような、そんな挙動だ。

「付いてきてくれる子も、いるみたい」

 光を嫌がりながらも、それでも空は地下空洞の光景を目に焼き付けていた。自分が生まれた場所、そして、たぶんもう二度とは戻ってこない場所。

 洞穴へ戻ると、途端に熱気を感じた。空洞では広かった分だけ熱は対流していたのかもしれないが、狭い洞穴に熱の逃げ場は無い。噎せ返るほどの蒸気の中、たくさんの地獄烏たちを引き連れながら、ふたりは少しずつ登っていく。

「地霊殿、ってところには、誰が住んでいるの?」

 退屈に耐えかねたのか、空が燐に尋ねる。

 抱え紐の位置を直して、燐は笑いかけてやった。

「まずはさとり様。何といっても一番偉いお方だ。地獄どころか地上まで行っても、さとり様のお名前を出せば誰だって怯む。けど天涯孤独のお方だから、やっぱり寂しいのか、地霊殿に寄ってくる動物たちをどんどん受け入れていなさるんだ。おかげであたい達はご飯にありつけるって訳だけど」

「ひとりぼっちなんだ……」

「そうそう。心を読む能力をお持ちだから、裏表のある連中は皆近づきたがらない。それに家族もいらっしゃらないし」

「それで燐みたいな動物が大勢住んでいるの?」

「言葉を持たない動物たちにとって、気持ちの通じるさとり様ほど良い飼い主はいないからね。食べたいものも住みたい環境も、手に取るように理解してくださる。地獄の野犬たちはもう皆さとり様の信奉者さ。地霊殿の敷地に住んでいる奴だけでも百匹は下らないけど、野良だったころとは比べものにならないくらい従順になったよ。それに外の世界から逃げ込んできた奴もいる。クロヒョウの弥彦とか、ハシビロコウの銀次とか。……と言っても、空にはどんな連中かは想像もできないかな」

 再び身を固くした空に、燐は頬をすり寄せる。上がってきた気温のせいで滴った汗粒が、ふたりの間で潰れる。

「空を苛める奴はあたいがとっちめるって、約束したろ」

「……うん」

 帯同する地獄烏も、だんだんと少なくなってきた。洞穴の外の環境に適応できるのは、それなりの強さを備えた個体だけなのだろう。それでも空に付いてこようとするということは、彼女も仲間から相当に慕われているということらしい。まるでお姫様を攫う悪の魔王みたいじゃないか、と燐は苦笑した。

 そしてついに、洞窟の出口へ辿り着いた。燐は大きく息を吸った。やはり洞窟の中の空気はどこか籠もっていて、美味しいとは言い難い。

「あ、お帰りー」

 こいしは燐と別れたときと同じ場所で、同じ座り方で待っていた。

「その娘がそうなの?」

「そうですよ。いやぁ、子供とは言え、ここまで引き上げるのはやっぱり骨が折れますねぇ」

「わぁ、小っちゃいねー。私よりも小っちゃいよ。可愛いー」

 もみくちゃに抱き締められた空は、困惑げに燐を見上げた。

「え、あの、このひとは?」

「こいし様だよ。さとり様の妹様の。あれ、さっき言わなかったっけ?」

「ちぇー。もうお姉ちゃんのペットに決まってるんだ。私もこういう可愛いペット欲しいんだけどなー」

「あんまり触れないであげてくださいよ。すっかり脅えちゃってるじゃないですか」

「お燐はあんなに抱き締めてたくせにー」

 目を白黒させた空をこいしから引き剥がして、燐は残っていた氷砂糖を舐めさせてやった。僅かに残った地獄烏たちが、少女の周囲に纏わりつくように舞っている。

 ひと仕事を済ませた燐は大きく身体を伸ばした。空をこの旧地獄へ慣らすため、やらなければいけないことはまだまだあるけれど、とりあえずはひと段落だ。

「……あ、こいし様。勝手に帰らないでくださいよー」

「だって待ってて疲れたし、お腹空いたんだもん」

 慌てて小さな手を取る。

 その手は戸惑いながらも握り返してくる。






 後に霊烏路の姓を主人より賜る少女は、火車に手を引かれながらも、その足でようやっと歩き出した。背に残る漆黒の翼はまだ縮こまったままで、瞼は薄くしか開けられなかったけれど、それでも。

 あの地下空間から引き上げられたことが、空を幸福にしたのかどうかは、ついぞ燐には分からなかった。

 地獄烏が光と熱に魅入られ、そしてその身を焼き尽くされてしまうまで、火車がそのほんとうの心を知ることは無かったからである。

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