魔女の家 【月夜譚No.73】
この町には、腕の良い薬師がいる。町の者は皆彼女を頼り、彼女に助けられてきた。町にとってなくてはならない大切な存在だ。
彼女は、町の外れにある小さな家に住んでいた。そこは森の近くで、その方が薬草を採りに行くのが便利だという理由で。自らの手でも薬草を育てているから、家の周囲は様々な形をした鉢植えが沢山あって、森の一歩手前の小さな森のような様相だった。
そんな外観であるものだから、町の子ども達は彼女の家のことを「魔女の家」と呼んでいた。彼女自身を「魔女」と呼ぶこともしばしばあった。
だが、お伽噺の敵役の魔女のように彼女を怖がる者はおらず、子ども達は皆、彼女のことを慕っていた。彼女の家に毎日のように遊びに訪れる者も多かった。彼女もまた、子ども達が遊びにくるのを楽しみにしていた。
今日はどんな楽しいことがあるだろう。朝陽の差し込む窓を開けながら、彼女は口元に笑みを浮かべた。