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あれから少し経って夕飯の時間。
部屋に入るとセナお兄様が悲しそうな顔をして迎えてくれた。
「ティナ、もう大丈夫なのかい?」
「ええ、お兄様。ご心配おかけしました。」
「いいんだよ。僕こそごめんね、怖かっただろう?」
「もう大丈夫ですわ。本当に少しびっくりしただけですの。」
「でも…」
「セナお兄様!私は大丈夫です!それにあれくらいで倒れていてはダメですわ。強くならないと。」
「ティナ…。」
「だから、ね?気にしないで。」
「分かったよ。」
そう言ってお兄様は私の頭を撫でた。
私はいつものようにお兄様を見ることが出来なかった。
多分、セナお兄様は火事を見ただけでとは思ってないはず。けどもセナお兄様は私の過去を知らない。誰も火事で両親を亡くしたなんて知らない。
だから大丈夫。
「…」
セナお兄様は私がいつもと違う態度、それでも不自然でない態度の変化だったがそれに気がついていた。
いろいろ考えてお兄様を見ていなかった私はお兄様がどんな表情をしていたかなんて知らなかった。
**
あの日から僕の妹は少しずつそれでも確実に変わっていった。
あの家事を見た日からティナは笑わなくなった。
いや、正確には前のように無邪気にだ。年相応で愛らしい笑みが無くなり、今は淑女としては完璧の笑顔で対応する。
僕にだってそうだった。
あの時のティナは様子がおかしかった。火事を見て、震え始めたんだ。そして「いや」などボソボソと呟いていて僕のかける声にも気づかない。
そして最後に大きな声を上げてティナは気絶してしまった。
その後は直ぐに火事を消火して屋敷に戻ってきた。後始末は他のものに任せた。
目を覚ましたティナはとてもつらそうな顔をしていた。最初は火事の件でだと思っていた。けどそれも違う。その日の夕食もティナはいつもとは違っていた。
その時からあの笑顔を見なくなった。
何故変わってしまったのかは分からない。1つ可能性があるとしたらあの件で昔の記憶が戻ったということ。
もし家族が火事で亡くしてそのショックで記憶がなくなってしまったのなら悲しそうな辛そうな表情をするのはわかる。
それでもそれよりも長い間過ごしてきた兄でティナと一番仲のいいはずの僕が避けられる理由にはならないはずなんだ。
だけどティナは僕との距離をあけた。僕が学園に行っているのでそれも利用してかもしれない。
ティナとのお茶会は前よりも短くなった。
本当は今すぐ問いただして理由を聞きたい。ティナには嫌われたくないから。でも嘘をついていたのは僕達だ。ああ、そうか、ティナは僕達が嘘をついてたことが嫌いなのか。
でも聞けるわけが無い。また家族との思い出を思い出させてしまって悲しませたくないから。
だから、僕はティナが前のように笑ってくれるように努力するしかない。
幸い、2年後には学園で少なくとも今より会える機会が増えるはずだ。
ティナ、僕を嫌わないでくれ。
家族の誰よりも愛おしい大切な僕の妹______