8
いろいろごちゃごちゃしてます…まとまらない
今のお父様に会った時には、もう自分の名前しか覚えていなかったし、この指輪も見えなくなっていた。
私は両親を失ったことを辛いことを思い出さないようにその記憶に蓋をしたのだった。
『君は…?』
『…?私はティナメリア…。』
『歳は?両親はいないのか?』
『4歳。親は分からない。他のことは何も分からないの。ここにいる理由も。』
『そうか。…ちょうどいいな。』
『…?』
『私はジョルジュ・エクセリード。君の父様だ。』
『お父様…?』
『そうだ。さあ、屋敷に帰ろう。』
『…わかった。』
これが、お父様との出会い。お父様は何を思ったのか、私をこの家に連れ帰り、私にお兄様とお母様を紹介した。
『お父様、なぜ妹を?』
『なんだ、セナ。お前は私に逆らうのか?』
『いえ、そういう訳では。』
『何、ジュリアのためだけではない。いずれは王妃として嫁がせる。この家のためでもあるんだ。』
『…。』
『わかったな?セナ。この家のためだ。これは決定事項なんだ。』
『わかりました。』
私はその日の夜、お父様とセナお兄様が会話しているのを聞いた。
この時の私はよく分かってなかったけど、今ならわかる。セナお兄様は私の事本当はあんまり良く思ってかったんだ。
私が選ばれたのは殿下の同い年で、尚且つ髪色がお母様に似ていたから。
そして私は記憶喪失。ちょうどいい子供がいたからさらってきたのだろう。
だから、お兄様の、あのシスコンな優しさだって紛い物なはずなんだ。
きっとそうだもの。だから、あの時お兄様は…
私が罪に問われる場面。私、ティナはお兄様を見た。
セナお兄様は、私を冷たい目で見ていた。いつも優しいお兄様には考えられないくらい冷たい目。
家のために利用した娘でしかなかった私が問題を起こしたもの。それにセナお兄様は、主人公のマリアを好いていたんだ。振られてしまったけど。
だから、仮にもお兄様が愛した人を私は貶してしまった。
そして、今はっきりと思い出したけどあの時お父様も
『国王陛下、この度は大変申し訳ありません!ですが、この娘は私の子では無いのです。拾っただけに過ぎません。拾って貰った礼も忘れこのような仕打ち。勘当の上、国外追放と致しましょう。』
と、そう言った。この時の私はこんなのを娘と思いたくなく嘘をついていたと思っていた。
だけどそれは本当だった。
「私は、この家には、本当は要らない子、利用の為。」
ああ、知りたくなかった。
漫画のようにならなければいいなとずっとお兄様と仲良くいたいと思っていた。
けどお兄様達にとっては私は家のために嫁ぐしかない、ただの、道具。
そんなこと知って、なおかつセナお兄様に至っては主人公に恋をしてしまうことを知っていて、私のことは嫌いで、どうやって今までのように話せばいいの?
私は誰もいなくなった部屋でただ1人、静かに涙を流した。
**
昔の記憶を思い出して、一つ分かったことがある。
ティナがお兄様達とあまり仲良くなかったこと。話もあまりしていなかったこと。
それが前世の記憶を思い出してから疑問だった。
私の性格とティナの性格は似たようなものだった。4歳頃から記憶を思い出す6歳の頃も、今のようにとは言わないが結構仲が良かったから。
だから漫画の中でティナとセナお兄様が仲良くないというのが不思議で仕方なかった。
けど今ならわかる。ティナは今の私のように記憶を取り戻し、そして絶望し、ルナメール家に利用されていることを知ってしまった。
だから、距離を置いたし素っ気ない態度になって、漫画の場面の時にはもう溝ができていたのだろう。
私はどうすればいいのか分からない。もうお兄様の前で上手く笑える気がしない。
けど態度を変えては漫画と同じになってしまう。だからあまり変えないようにしつつ、お兄様から離れなければいけない。
幸い、私の王妃教育とお兄様が漫画の舞台である学園に行くのが重なり会う機会は減ってきている。
それなら大丈夫。
これ以上セナお兄様と仲良くなってはいけない。信じてはいけない。
今のままでいると私はあの結末を迎えた時、大好きなセナお兄様の冷たい目に、とても嫌いそうな表情に耐えられる気がしないのだから。
私はよく見る小説のように、運命を回避する力も方法も考えつかない。ただ少し違うようにするだけ。それでも破滅の未来へ進んでいる。
漫画のストーリー通りに。そんな気がする。
「私は何故ここにいるのかな。」
その言葉に答えてくれる人は誰もいない。