日曜日の礼廃堂(短編版)
こんにちは。竜也です。今作品が処女作になります。このストーリーに一人でも刺さってくれる方が現れたらいいなーと思います。みなさんどうぞよろしくお願いします。質問、感想はいつでも受け付けています。ツイッターもやってるのでそちらにDMで送ってくださっても結構です。
教会の朝は早い。それはこの少しさびれた教会でも同様だ。
「ふんふふんふふーん」
この教会のシスター、ジル・ノワールは鼻歌を歌いながら農園の野菜の収穫をしていた。太陽が少しずつ昇ってゆき、徐々に明るくなってゆくにつれて、今すぐにでも踊りだすのではないかというほど体をどんどん大きく揺らしていく。旬となった野菜をハサミで切るたびにカチッ、カチッ、と心地よいリズムが誰もいない農園に響きわたった。
やがて収穫が終わり、他の野菜に水をやるとジルはお寝坊さんのルームメイトを起こしに教会内の自室に向かった。
階段を登り、ドアを開けるとジルは大きく息を吸い込む。
そして、
「クーリースーちゃん!朝ですよ!お姉ちゃんが起こしに来ましたよ!早く起きないとこちょこちょしちゃいますよー!」
となりの部屋どころか一番奥の部屋まで聞こえるのではないかというほど大きな声がひびいた。しかし当のクリス、クリスタ・ブランからは返事がない。それはいつも彼女を起こしているジルには分かっていたようで、はあー、またかあー、とおおげさにやれやれというポーズをとってからスタートダッシュの構えに移る。
「さあ、ジル選手、準備が整ったようです。ではいきますよ?位置について!よーい!どん!」
そして大きくジャンプしてクリスタのベッドに飛び込む。その姿はさながら水泳の飛び込み選手のようだ。かわいらしい少女が飛び込むその光景は見る人が見れば感嘆のため息をこぼすだろうが受け止める側にとってはそれどころではないようで、
「ぐふぇっ」
とカエルの潰れたような、それでいてこれもまたかわいらしい声がくぐもって聞こえる。しかし、そんな少女の悲鳴も意に介さずジルは第二段階のくすぐり攻撃へとシフトする。
「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!ギブ!ギブ!こーさん!もう私起きた、起きたから!あひゃひゃひゃ!」
その数十秒後、クリスタがベッドに座ってふんぞり返り、ジルがそのかたわらに跪くといういつも通りの風景が待っていた。
「だーかーらー!毎週毎週この起こし方しないで、って言ってるよね!というかジルねぇ私がくすぐりに弱いの知っててやってるよね!?ひどいよ!」
「まあまあ、怒るとしわができちゃうよー。ほら、外はこんなに晴れやかなんだから今日くらいはおおらかな心をもとーではないかね?」
とジルはおもむろに立ち上がり、カーテンを開けた。太陽がいつの間にか昇り切った空は明るく、うす雲が少しかかっているだけで解放感にあふれている。起きたてのクリスタには眩しかったようでうっと目を細めるがすぐにキッと眼光をジルにやり、不満をまくしたてた。
「ジルねぇが反省しないから怒ってるんでしょ!もうちょっと体を揺らしてみるとか他のやり方あるでしょ!そもそも…」
クリスタの説教は思ったより早く終わった。というより、ジルが手をたたいて強制的に終わらせた。
「クリスちゃん、今日はいつもよりお寝坊さんだったからもうそろそろ日曜礼拝の時間ですよ。毎週来てくれる信徒さん達を待たせるのはいけないでしょ?」
「えっ、もうそんな時間?ジルねぇ先にそれを言ってよ!早く着替えないと!ジルねぇは先に準備しといて」
「はいはい、クリスちゃんも早くきてね」
「分かってるって」
その言葉を背に受けながらジルは部屋を出て、階段をかけ足で降り、礼拝堂に入って蝋燭の灯をともす。少し遅れて着替え終わったクリスタも到着し、席につく。ジルも席について、朝ご飯のサンドウィッチをクリスタに渡した。
「おお!今日は卵サンドか!もぐもぐ…やっぱりジルねぇの卵サンドは格別だね!」
「誉められるとお姉ちゃん照れちゃうわー。というかクリスちゃん、他の人が作ったの食べたことないから比較しようがないんじゃ…」
「いいの!それくらい美味しいってこと!」
「ありがと!クリスちゃんも私くらい人生経験積んだらできると思うよ?」
「お姉さんぶりたいのは知ってるけど…私と背が同じくらいの人に言われるとやっぱり違和感があるよね。私のび盛りだからあっという間に抜いちゃうよ?」
「クリスちゃん、口を慎んでちょうだいね?」
自分のコンプレックスを口にだされたジルからクリスにかけられた圧を表現するならまさしく鬼、だろう。彼女のことをよく知るクリスはこれ以上この話題を出すのはこの世に鬼神を降臨させるのと同義だと直感し、手をわたわたと動かしながら慌てて話題を転換した。
「そ、そういえば神父さんや他のシスター達は?」
ジルはなんでもないように答える。
「クリスちゃん、露骨に話題逸らしすぎ!…まあいいけど。あの人達のことはクリスちゃんも知ってるでしょ?今ごろ信徒さん達といっしょにここに向かってるわよ」
「う、うん…そうだね。じゃあ私教本取ってくるね!」
クリスタはこの重い空気から逃れるように出ていった。残されたジルはため息をついて呟く。
「あの子も成長したなー。あの子を引き取って何年になるっけ?この体じゃ時間の問題だよね」
ジルが自分の体を見下ろすと、十二才くらいの小さな体が待っている。目に見えてクリスタに勝っていると分かる部分といえば胸だけだろうか。それももし抜かれてもジルねぇと呼んでくれるかどうか…つまらないことかもしれないけど本人にとっては死活問題だ。
「おーい、ジルねぇ?なんか考え事?ジルねぇらしくない」
「あっ、クリスちゃん。とりあえず教本、配ろっか」
クリスタが台車で持ってきた教本は二人の分をあわせて61人。この人数はクリスタが来てからずっと変わっていない。そして半分ほど配り終えたその時、礼拝堂の入り口のドアがドンドン、と鳴った。
「はい、皆さん入っていいですよ。後ろの人は教本自分で取ってくださいね」
ジルの声に連れられてドアがギィーー、と開いていく。そして入ってきた者達は…人間ではなかった。
異形。異形。異形。異形。異形。
黒いもやのよう、しかし実体は確かにある。亡霊をさらに黒塗りして、凶暴性を増したような、そんな異形。数は五十をこえているだろうか。そのような集団が少女二人の前に続々とやってくる。まさに地獄のような風景。
ジルが口を開いた。
「皆さん、今週もこのバシリカ教会へようこそ。では祈りの時間なので席についてください。神父さん、シスターさん達は前の方へどうぞ。」
「アーーーウーーー」
ジルに答えるかのように礼拝堂に響きわたる化け物の大合唱。
そう、これはジル、クリスタ、それと異形達の日常。
「神父さんはいつも通り話すことができないため、今日も私が講壇で話をしようと思います。さて、教本175ページ、第4の書、6章22節を開けてください。心の中で復唱してくださいね?ではいきます。その翌日、湖の向こう岸に残っていた群衆は…」
神父の代わりにジルがいつも話をしてくれる。その間は異形はまるで存在を薄めているかのように席に座っている。クリスタにも異形に対する抵抗感はなく、おとなしく姉のような存在の話を聞いていた。クリスタ、異形共、そしてジル。これが当たり前の光景だといわんばかりのような雰囲気だ。
やがて、講話が終わった。
「はい、今日の話はここまで。では最後に主に祈りの言葉を捧げましょう。ブエナ・スエルテ」
「ブエナ・スエルテ!」
「アーーーウーーー!」
朝の礼拝が終わると異形達はあたりに散らばってゆく。次にくるのは夜、食事の時間だ。異形達は何も食べることができないくせに、二人が食べているのを律儀に待ってくれるのだ。そして食べ終わるとまた祈りの時間。そしてまた異形達は外へ散ってゆく。ジルとクリスタは歯みがきをすませ、就寝前にまた祈り。祈りの時間は昼ご飯後も含めて四回あるが、二人は苦痛に感じていなかった。
((この日常が好き。もしこの日常を壊す敵が現れたら…))
((絶対にそいつをユルサナイ…))
これが二人の共通認識。そして二人の一日が終わりを告げる。
目が覚める。知らない部屋。そのことを認識したとたん、ジルの頭は急激に冷えた。慌ててクリスタを起こしにかかった。
「クリス!クリス!」
「ぐぅ…」
「…敵」
「…!」
クリスタは飛び起き、あたりを見渡し、その顔を青く染める。そして二人は顔を見合わせた。
「盗賊かな?ジルねぇ」
「なわけないでしょ。盗賊があの寂れた教会にくるとは思えないわ。となると…傭兵ね」
「その通り。にしてもやけに落ち着いてるね、君たち」
突然男の声が降ってきた。ドアの方を見れば男が二人。
「アンノウンの大規模集団に会ってね。別に負ける気はしなかったけど何故かアンノウンが弱すぎてあっさり終わっちゃったよ。で、近くにあった教会を覗いてみたら君たちがいたって訳」
「俺達二人の他にあと八人いる十人で行動してるんだよ。ここはもう誰もすんでいない集落でね、休める場所があって助かったよ」
「それにしても君たちは一体どういう体質なんだい?もう助け出してから三日が経っているんだよ?全く起きないなんてまるでおとぎ話の眠り姫だな」
「…あの、ひとつだけいいですか?」
ここでジルが最も聞きたかったことを質問した。
「…なんで敵意のないアンノウンまで殺すんですか?」
「?アンノウンは人を喰らうだろ?何を言ってるんだい?」
「それはないよ!あの子達はジルねぇの言いつけは絶対守る!人は絶対に殺さないよ!」
「そ、そうか…でもアンノウンが敵であることに変わらないんだ。さあ、アンノウンの核もゲットしたことだし都市に戻ろう?」
まだ何か言いたげそうなクリスタを制し、ジルは問う。
「…もし私がさっきのアンノウンといっしょに暮らしたいと言ったらどうします?」
そう言ったジルの体のまわりに異変が生じ始めた。殺されたアンノウンの核、それがジルのまわりにまるで瞬間移動したかのように次々へと集まってくる。そして、
「アンノウンが、再生しているだと?君は一体…?」
そう、通常なら核を傷つけると活動を停止するはずのアンノウンが再びもやを出して体を再構築している。すなわち、再生している。
「総員、戦闘態勢!この女の子、やばすぎるぞ!」
「悪いな、こんな能力持ってるやつを野放しにはできねえ」
それに、呼応して伝わってくる足跡。しかしそんなものは関係ないとばかりにジルは言葉をもらす。
「そう、奪うんだ、私達の日常を」
「そんなことするやつは」
いつの間にかクリスタにも異変が生じている。右腕から黒いもやのようなものが出てくる。それはまるでアンノウンと呼ばれている異形の腕。絶句しながらも戦闘意識の衰えない傭兵達へ死刑宣告をする。
「「絶対に許さない」」
そしてジルから火が飛び散り、クリスタの右腕が大きくなり、傭兵達に襲いかかる。
「うーん、よく寝た!今日もいいことがありそうな日曜日だね!まずクリスちゃんを起こして、信徒さん達とお祈りをして、久しぶりに信徒さん達と遊ぼ!何して遊ぼうかなーエヘヘ」
かつてこの世界を襲った災厄、通称「黒の粛清」による異変は大陸全土に及んだ。これは、その災厄に運命を狂わされたとある少女達二人の物語。




