第七話 弱みを握られました
「何の話かな?」
とりあえずとぼけてみる。
「正体を隠さないでいいよ。もうわかってるから」
「ふむ?」
まだまだとぼける。
「ふふ、それじゃあ」
彼女は立ち上がりベンチの後ろ側へ。
「果たし状読んでる時、日時と時間、言ったよね? あれ場所によってちょっとずつずらしてあったんだ」
マジか! いや、それだけでは。
「それだけじゃ確定させるのは無理だから、エージェントや協力者にその時聞いていた人をできるだけ覚えてもらっていたんだ」
「それから時間になったらその人間がいるか確認。もちろん全員は不可能だからある程度絞ってね。そして」
「あなたは当時どこにも見当たらなかった」
ま、まだそれだけでは。
「決定的だったのは先週。あなたが街の外に出て」
ファティアが俺の耳元に口を近づけ小さい声で。
「レフトレスを呼び出したとき」
完全な証拠を掴まれてる。こりゃだめか。
(こんなことになってしまうとは)
(すまなかったアイ)
(今後の状況次第では二人で逃げようか)
(ふ、二人で逃亡! やぶさかでは……、いや、仕方ないですね! ふんす)
「ぬふふ、どうしてくれようか! ぐへへ!」
肩に手を回し俺の耳に吐息を吹きつけるファティア。そしてときおり当たるおっぱい。でかい。
(く! この女、ロイ様に色目を使って!)
少し離れて真面目な口調に。
「今まで様子をうかがっていたけど特に悪さをするでもなし。むしろ人助けしてるし。そこでバレたわけだし」
「アナタの目的を教えて」
「……」
ここはそのまま答えるべきか。
「普通に暮らしたい、それだけだ」
「そう」
「その言葉を信じる」
「一応私の保護下に入ってもらう。その上で基本自由だ.監視はつくと思うが」
「わかった」
「俺がレフトレスだってことは秘密にしておいてくれ」
「当然」
「こんなところかな。またね、ロイ」
手を振り去っていくファティア。と同時にベンチの人達もこちらにお辞儀をしてファティアについていった。仕込んでたわけか。
(良い方向へ持っていってくれたみたいだ、助かった)
(まだ、油断はできません。利用されるとも考えられます)
(そこは注意か)
(ただ悪いことばかりでもないかもしれません)
(と言うと?)
(パトロンになってもらうんですよ)
(つまり、金づるか)
(もう少し言い方を。まあそうですけど。今後お金で苦労するのは目に見えているじゃないですか)
(まあな)
鉄ベースから銀ベースには非常にお金がかかる。銅なら討伐しているだけで済んだが、銀では別に金策をしないと年単位の時間がかかる。ベテランさんの話だとそのくらいのタイミングで冒険者を辞める人が多いらしい。
ゲームならイベント、レイド等でお金に困ることはなかったが。
(最後の手段だな)
(一応あてはある)
次の日、朝食後ギルドへ。
「いい依頼はあるかな」
やはり金策重視か。となるとここじゃ結局いつもの魔獣パーティ狩りになっちまうな。
「コロシアムへ行ってみるか」
コロシアム。ここでは対人、対獣など様々なバトル系のイベントをしている。
「うおーぶっころせー!
「俺の全財産がー!!」
盛り上がってるな。大きな都市にはあるというコロシアム。国民のストレス解消、国の小遣い稼ぎ等良いことだらけの施設。それなりの規模が必要ではあるけど。
選手として出た場合、ファイトマネーが出る。勝てばそこに上乗せ。機体が壊れても運営側が出してくれる。基本損はないが壊れたら当然修理に時間がかかる。負けた場合はギルドで稼いだほうが良い。とりあえず負けるまでやっとけとベテランさんにアドバイスを貰っていた。
「えーと、俺が見たいのは試合じゃなくて出場者の情報だ。こっちかな?」
しばらく迷って登録者選手の情報を得られる場所に。
「ここだな。総勢312人。オール鉄は、80人。お、結構いるな」
「挑戦してみるか。うまくいけば250位くらいにはなれるかも」
案内板を見て選手登録受付へ。
「こんにちは。ここは冒険者専用の選手登録受付所です」
「はい、冒険者です。選手登録したいのですが」
「ではご登録の前にここの説明をいたします」
受つけの人が色々教えてくれた。
「では水晶を」
受付の人は何やら読み取りの機械のようなものを俺の水晶に近づけた。
「ピッ」
「ロイさんですね。登録終わりました」
「これでいつでも対人戦をおこなえます。試合関係の受付は向こうになります」
その後細かい手続きを済ませて明日コロシアムで戦えることになった。
「明日の朝8時です。よろしくおねがいします」