第五話 赤い魔戦機
「ロイ様」
「……」
「ロイ様、なにか言い訳は?」
「世界一って言われたらそりゃ止めに入らないと」
「ハー、もう仕方ないですねぇ」
「まあ、その負けん気もロイ様ではありますかね」
「わかってもらえたか!」
「わかってはいません、妥協です」
「はい」
「そうだアイ。前にレベル上限が60って聞いたんだがなにか知ってるか?」
「いえ、99じゃないんですか」
「らしい」
ふむ、ここらはこっそり調べていくか。
「しかし」
「そうですね」
大々的な罠があるかと思いきやぱっと見数体程度。
「まだ油断はできません」
「そうだな」
「ファティアって子が乗ってるのはあの魔戦機か」
平原ど真ん中に堂々と鎮座する魔戦機が一体。全体的に真っ赤の塗装。大きめのボディ、6本脚。燃え上がる炎のようなヘッドに両肩には魔法を撃ち出すであろう砲が二門。それと大きな剣と大きな盾。マントもついている。
「装備盛々だな。あのボディの大きさからいって内蔵魔法バッテリーも一つや二つじゃ無さそうだ」
「しかしあれではサイファーについてこれないのでは?」
「はなからこちらを追いかけるつもりはないかも」
「と言いますと?」
「俺が攻めるのを待つってことさ。俺は剣のみ。そして挑発に乗ってくるくらいのやつだ。バンバン攻めてくると予想しての装備なんじゃないかな。相手さんとしては地に足をつけて勝つってところか」
「なんとなくは分かりました」
「ふはぁー、その知性を先に出してくだされば。そもそも戦うこともなかったかと」
「反省してます」
「ズワン」
赤い魔戦機の前に着陸。
「ハッハッハ、やはり来た。賭けは私の勝ちだね、ナーラ」
「フフフ、初めて負けたかも」
「しかし、聞いていたより禍々しい。見ただけでも足がすくむ人がいるだろうね」
サイファーの外見は恐怖をモチーフとして作られているとのこと。見るものを不安にさせるとよく言われたな。
「……」
「対話は不可能か」
「この機体はカルミヌスて言うんだ。覚えておいて」
「では。勝負!」
剣を上に突き上げると頭上に炎の塊が。その塊が高温の熱を発しているようだ。
「カルミヌスの周りに高熱反応あり。近づけばダメージを受けます」
「ふむ、では」
炎を眺める。
「……」
「……」
「くうー、来ないか」
魔法を引っ込めるファティア。
「そうですね。近づけばダメージを受けるのなら近づかなければいいだけです」
「大丈夫だとは思うけど機動性に極振りの機体だからな。無理に突っ込むのは流石に」
「これで」
「はい、彼女は魔法剣士ですね」
クラス「魔法剣士」。剣技と魔法を扱えるクラス。
「さて、コレなら突っ込めるかな」
「いくぞ」
バースト点火、ファティアに突っ込む。
「むむ! 貰った!」
先程の魔法をもう一度。それを見てすぐに下がった。
「うそぅ! 魔法効果が広がる速さより速いなんて」
「ははは。色々やってくるな」
「く! 来い!」
再度突撃。今度は魔法はなしか。
「まずは前脚から」
6本足のため通常の脚より狙いやすい。
「だけど罠があるだろうな。ならば」
「フルバースト」
前脚に向けてマジックバーストを放つ。前脚が大爆発。だが、フルバースでそのまま逃げた俺は無傷。
「げげ! ばれてる!?」
「なるほど。あの脚はダメージを与えると自爆してこちらにもダメージをという仕様のようですね。剣ではダメージを受けてましたね、さすがです」
「超接近フルバーストは一応飛び道具扱いだからノーダメで逃げられるというわけさ」
話をしながら再度接近。
「脚は放っておいて腕からか」
「ズバン、ガキン」
盾を真っ二つ、剣を腕ごと叩き切る。
「まだだ!」
盾を持っていた手で拳を握るファティマ。
「ドリルフィストミサイル!」
回転する拳が撃ち出された。難なく避ける。が。
「追尾弾か」
かわした後も追ってくる。フルブ-ストで拳から逃げ続ける。
「シュバン、シュバン」
同時に肩の砲二門で俺を撃ってくる。問題なくかわす。
「コレをコントロールしているのはヘッドかな」
逃げながらヘッドを破壊。
「ゴトン、ゴロゴロ」
ミサイルは地面に落ち、どこかへ転がっていった。
「ビンゴ」
「……まいった」
「ウソ、ファティアが負けるなんて……」
「ふー、これで俺が世界ナンバーワンかな」
「二人の中では、ですけどね」
「狭い世界だ」
「ナーラ様、どうします?」
「入念に準備をしたファティアが負けたのよ? 今の私がいっても勝てないわ」
「ナーラ様……」
「他の魔戦機は来そうにないな」
「帰ろうか」
「はい」
「レフトレス!」
飛び立とうとした時ファティアから呼びかけられた。
「私はリンデ王国第一王女ファティア。いつでも遊びに来て!」
「……」
「ふふ、長い付き合いになりそうだ」
「残念だが今日でお別れかな」
「そうですね。あまり人前には出ないほうが」
ファティアを背に俺達は平原から飛び去った。