第二話 専用機の力
「使えるのか、サイファーを」
(はい)
俺の専用機、サイファー。対戦で常に一位だった俺に「ご褒美」として運営が特別に作ってくれた魔戦機。
その機体はとにかく機動力を追求。特殊装置「マジックバースト」、魔力を推進剤として使い、それを勢いよく噴射する事によってその反動で推力を得る装置(小型のロケットエンジンのようなもの)が背中、左腕、後頭部についている。脚部は飛んだり跳ねたりする事が多いため逆関節タイプ。武器は右腕に握られた剣のみ。
元々機動性を重視する戦い方だったため非常に相性がよく、一体多数のハンデ戦で試合をよくしていたがこの世界に飛ばされるまでは無敗の強さを誇っていた。
「次々とライバル達を倒していくのはとても爽快だったな」
(そうですね)
おっと、思い出に浸っている場合じゃないか。さてどうするか。周りは魔戦機を馬車に乗せているところか。とりあえず俺も真戦記を乗せてっと。
「人間様は向こうの馬車乗り場だ」
ここだな。みんなに気付かれないようにこっそりと抜け出した。
街から少し出る。
「ここならいいか。あ、服は脱いだほうが良いのかな?」
(いえ、大丈夫です。ロイ様の身体以外はどこか別のところに送られ、魔戦機から降りた時また戻ってくるようになっています)
「そうか」
(ではサイファーを召喚します。魔核を握って前に突き出してください)
「わかった」
アイが言った通りの行動をとる。
(猛り荒ぶる魔戦機の王よ。我が主の前にその姿を見せよ)
(出でよ サイファー)
呪文を唱え終えると眩しくて見ていられないほどに魔核が光りだした。
「まぶっ。ん、ここは」
気づいたらコックピットに。見覚えがある、サイファーのコックピットだ。
「おお、サイファーか」
「はい、ロイ様」
モニターにアイがうつっている。
「久しぶりだな、アイ」
「お久しぶりです」
「あれ? でも普通に会話できないんじゃなかったっけ?」
ゲームでは会話ができない。結果やチュートリアルで喋ってくれるくらいだった。
「それがこの世界に来たら会話ができるようになったようで」
「そいやしばらく石だったよね、魔核」
「データの転送に時間がかかったようです」
「データ?」
「レベル99のロイ様の力です」
「確かに前の魔力を感じる」
「さらにこの世界で鍛えた魔力も上乗せされます」
「マジか」
んおっと、まだまだ聞きたいことはあるが現在は緊急事態中。そろそろ動くか。
「敵機の位置を捕捉する。飛ぶぞ」
「はい」
マジックバーストを使い上空へ。
「ぬおぉ」
「パシュ」
前より出力が上がっているせいでコントロールミス。少々バランスを崩し木に激突しそうになった。
「あっぶねー。確かに魔力が上がっているな」
「簡単に言えばレベル103です」
「はは、なるほど」
気を取り直しもう一度上空へ。
「お、いたいた。まだ結構遠いな。数はかなり、1000はいるか」
「では向かう」
空から直接向かった。
「隊長、街までもう少しです」
「ようやくかー、結構遠かったな。まあ街に着いたらこの鬱憤を存分に晴らしてやろうぜ、破壊しまくってやれ!」
「おー!」
「グエッヘッヘ、話がわかる上司って最高だな」
「とにかく暴れまくってやるぜ」
「た、隊長ー!」
「どうした?」
「空から魔戦機が!」
「は?」
「ズワン」
バーストをうまく使い着地。だいぶ慣れてきたな。
「な、何だ。真っ黒な機体……。貴様はいったい!」
ふむ? 見た目が他の魔戦機と違う機体から声が。あれは隊長機かな。その後ろにはいるわいるわ、1000機の魔戦機。
「……」
黙って剣を構える俺。喋ったら誰かバレる可能性があるからな。おっと、拡声器オフにしておけばいいか。
「くそ! やってしまえ!」
後方から多数の矢や魔法が放たれ、俺を襲う。が、遅い。俺は悠々と避けた。
「アイ、フルバーストでどのくらい動ける?」
「計算します」
「約5分です」
マジックバーストは凄まじい量の魔力を消費する。そして魔力が尽きれば機体が動かせなくなる。しかし今回は。
「2分あればいいから問題なしか」
狙いは皆殺し、ではなく戦闘不能に追い込むこと。基本腕と脚を破壊しておしまいかな。
「悪いな、どこかの魔戦機乗りさん達。恨みはないがこれも街を守るため」
「嘘だろ? 動きが全く見えなかった……」
「皆ここに転がってもらおう」
バースト噴射。敵へ突っ込む。
「綺麗に並んでるから腕をちょん切りやすい」
綺麗に整列しているところへツッコミ前から後方へ突き抜ける。その際敵機の腕を剣でぶった切る。
「今度は戻って」
戻りながら反対の腕を。一気に100体の両腕を切り離した。その間約1秒。
「!? 散開しろ! はやく!」
今の動きで整列しているのは危険と気づいたか。
だが遅い。最初の斬撃から部下たちが動くまでに10秒以上かかった。
「そ、そんな馬鹿な」
900体くらいかな? その全ての両腕を胴体から切り離した。