プロローグ
「桐生芽衣子、君には柳の相棒としてここで働いてもらう」
書類が乱雑に積み重なった少し大きめのデスクの向こう側から、クリスが芽衣子にブルーの瞳を向けて言った。
芽衣子はその発言の内容にもイラついていたが、それよりもなんだかその言い方が鼻についた。金髪碧眼ではっきりとした目鼻立ちのクリスではあったが、たとえ外国人であっても自分とそう歳の変わらない女に上から目線で話されるのは嫌いだった。
「なんでだよ?」
故に、煽るように睨みつけながらそう答えた。
それでもクリスの瞳は揺らぐことなく静かに芽衣子の顔を見つめている。
「君の能力が危険だからだ」
その言葉は冗談などではなく真剣に発されていて、どことなく叱咤するようであり、煽っていた芽衣子がわずかにひるんでしまうほどであった。
「その能力は使い方次第で人を傷つけたり、命を奪うこともできるだろう」
「そんなことッ……!」
しない。と言いたかったが、ほんの数時間前のことを思い出し言葉に詰まる芽衣子。
その出来事について柳から事情を聞いていたクリスはそんな反応の芽衣子を見て、ハァと小さく息をこぼす。会って一時間も経ってはいないがクリスは芽衣子の性格を理解し始めていた。
一言で表すなら『愚直』。いい意味でも悪い意味でもだ。
そんな彼女の反省や後悔、その出来事に対する怒りや自分の行いを正当化したい思いがクリスには伝わっていた。
「だからこそここで働き、学べ。愚かな行いをしたが、君は愚か者ではないと私は思っている」
彼女のしたことは決して褒められたことではないが、クリスの嫌いな人間のすることではなかった。
だからクリスは賭けたのだ。この桐生芽衣子という女子高校生に。そして彼女に対して責任を持つと言った自分の部下、柳善一郎に。
「その『金属を操る』能力の正しい使い方を君はここで見つけるんだ」