あなたが眩しい
車内では、間違ったナビ表示に笑いが抑えきれず、笑うツボまで同じなのかと、本気で生き別れの姉弟疑惑すら持ち上がった。相手を「異性」として見なければ、私たちは互いの言葉の真意を最低限の文字数で理解し合える。
空が白んできたから少し焦った。そのせいか私はごく自然に口走っていた。
「麻美は知ってるの?」
健吾は表情を一切変えず、
「なにが?」
と言った。
「前回と今回、ご飯一緒にしてるの」
健吾は「さすがに知らないね」と、少しだけ頰を緩ませ、冗談めかした口調で続けた。
「だってこれ、普通に考えたら何もないわけないよね?ご飯食べて、家行って、朝車で送ってるって、どう言ったって信じてもらえないでしょ」
「だね……」
麻美の話ははそこで終わった。
健吾の肩越し。そびえ立つ高層マンションの隙間から朝陽が容赦なく交互に差し込んでくる。健吾の存在の眩しさと相まって、眩暈がするのだ。次第に、二人はようやく互いの「今の気持ち」を言葉にすることなく理解した。
湖のある公園横に、健吾は何も言わずに車を停めた。鳥のさえずりとせせらぎに包まれていると、釣りをしている老人たちが視界に入った。
「うちら、なにしてんだろうね」
思わず笑ってしまう。
「ちょっと外出てみよっか」
健吾に連れられ車から出ると、夏の朝の、懐かしい空気が全身を包み込んだ。例えるなら、夏休み中のラジオ体操に向かう朝の空気。
私たちは湖畔に続く公園に足を向かわせた。明らかに昨日より近い二人の距離。ふと健吾の服についた洗剤の香りが、我が家と同じものだと気づく。麻美が毎日洗濯してくれているシャツ。
老人たちの釣り風景をひたすら見つめているのは、顔から火が出るほど恥ずかしくて健吾の顔が見えないからだなんて、彼はわかっているのだろうか。決して老人たちが何釣りに嵩じているかに興味があるわけではない。
ふと携帯の時計を見る。もうすぐ私たちの今日が終わる。家に帰っても、子供は両親の家に預けているし、夫は出張でいない。それでも始発までには帰ろうとする帰巣本能については、うまく説明がつかない。もしかしたら夫が始発で帰ってくるかもしれないし、子供が熱を出して母が家に連れてくるかもしれない、などという不測の事態に備えて、私はいつだってあの家を守っていなければいけない存在。身勝手に家庭を大事にする女。
木の下を歩くと、鳥のさえずりはボリュームを増す。私は健吾の袖を引っ張った。
「ちょっと」
彼はおっと、と言って引っ張られた方向にバランスを崩しかけた。青々と生い茂る木の下で、向かい合う形になった私たちはしばらく無言で見つめ合った。朝日に照らされる健吾の顔は、今まで見た健吾の中でいちばん美しかった。私は今、目の前の異性に恋をしている。そしてこの男性は今、私の口から出る言葉を待っているのだ。絶対に自分からは言わない。それを互いがわかっている。スタートさせるのは私。
「…好きなんですけど」
さじを投げた。どうにでもなれ。




