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黒獅子と弟子  作者: 熊田
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魔法講座

フランシール視点です。

今回の話から、貴族が通う学校の名称を「ウェルディア王立学園」に変更しています。

それに伴いこれまでの話も改稿いたしました。

 剣術の指導をしてもらうようになってから早2年。私とレオンは相変わらず先生に剣を教えてもらっていた。

 お父様はそろそろやめてほしいと思っているみたいだけれど、私はまだまだ先生から教わりたいから気づいていないフリをしている。



 指導の合間の休憩時間。12歳になった事で魔法学が解禁された事を先生に報告した。


 剣術も魔法もずっと教わりたいとお父様に言い続けていたのだけれど、魔法は魔力の形が定まらない内から使うと危険らしく、魔力の形が整う12歳になるまでは一切触れる事を禁止されていた。理論がわかれば使ってしまうかもしれないからという理由で。


 ほとんどの人は王立学園で学べるから家庭教師を呼んでまで学ぶ必要がないと考えているらしく、学園に通う前から魔法について学ぶのはよほど魔法に興味があるか学園で優秀な成績を収める為に予習したい人だけなんだとか。

 私の場合はどちらかというと後者の理由で家庭教師が呼ばれていて、私より先に12歳になったレオンも今の時点から魔法を学び始めている。


 レオンと一緒になって学んだ知識をあれこれと話している内に、ふと気になった事があった。


「…………先生って、魔法を使えるんですか?」


 魔法を学ぶには今の私達のように家庭教師を雇うか、王立学園か士官学校に通う必要がある。王立学園には貴族しか通えないからそちらの選択肢はほとんど間違いなく除外されるし、先生の年齢から逆算すれば士官学校に通っていたとは考えられない。そうなると、家庭教師を雇うしかないわけだけれど……。

 そう考えて問えば、先生は何でもない事のように「使えないな」と言ってのけた。


「えっ、もう一切使えないんですか? 騎士団で指導されたりは? それもまったくですか?」

「落ち着けフラン。先生が魔法を使えないのは別におかしい事じゃないだろ。騎士団の人が忙しい先生に教えるような時間があったとも思えないし」

「でも魔法がまったく使えないって事は、先生は本当に剣だけで生きてきたって事でしょう? 純粋な剣技だけで……それってすごい事じゃない?」

「……そうやって強調されると不思議な気がしてくるな……先生、魔法を使う相手に対してはどんな対処をしてきたんですか?」

「魔法って、あれか。風の刃が飛んできたり、ドラゴンの形をした炎が襲ってきたりする」

「まあ……そういう事もあるでしょうね……私達はまだそんな魔法は使えませんが……」

「斬れる物は全部斬ってきたぞ。目に見える物は大抵斬れる」


 それはつまり、戦場で飛び交う魔法を斬ってきたという事ですか……?

 淡々と告げられた言葉に唖然としながらレオンの方に目を向ければ、レオンも同じように私の方を見ていた。

 私達は先生の実力をまだまだ知らないんだという事を思い知らされた気分だった。



 魔法を使う際、もっとも重要なのが「精霊の気分」だ。魔法を放つには精霊達の協力が必須なのだけれど、彼らは気まぐれな存在だからこちらから語りかける時には非常に気を遣わなければならない。

 精霊に語りかける部分を担うのが、私達が構築する「魔法陣」。そこに魔力を流して「これだけの魔力をお渡しするので、この術を発動させるべくご協力願います」という風にお願いをしなければならない。人間の魔力だけでできるのは防護魔法……精霊の力を借りて放たれた魔法、精霊魔法を防御する魔法だけ。それ以外は精霊魔法という呼び名の通り、全て精霊との共同作業になる。


 魔力を支払う事で精霊が協力してくれるのは、精霊もまた人間の魔力から力を得る事ができるからなのだそう。それでも気分が乗らなかったり人間のお願いの仕方が気に入らなければ協力してくれないのだから、精霊は本当に難しい存在だと思う。



 精霊魔法に攻撃された時、身を守る方法はふたつ。ひとつはもちろん防護魔法。もうひとつは、同じかそれ以上の威力の精霊魔法を放って相殺する方法。

 防護魔法は個人の魔力量に応じて強度が変わる。元々の魔力量が多ければ多いほど強い威力の魔法からでも身を守る事ができるという事だから、自分の魔力量に応じて臨機応変に前者と後者の方法を使い分けなければならない。


 けれど先生の言う「魔法を斬る」という方法はそのどちらでもない。守るでもなく相殺するでもなく、斬って魔法を消滅させるらしい。そんな方法があるなんて、魔法を教えてくれる先生は一言も言わなかった。



 先生が実戦で使う剣を見せてもらったり実際に小さな火の玉を出して斬ってもらったりしたら、ますますわからなくなった。レオンも隣で頭を抱えている。当の先生は涼しい顔をしているのに、私達の心は困惑に満ちていた。


「な、なんで斬れるの……? もしかしてずっとそういう戦い方をしてきたんですか?」

「ああ。向こうは魔法を斬られるとは思ってなかったみたいで、正面突破したら驚かれた」

「そりゃ驚きますよ! だって精霊の力に対抗する唯一の術が防護魔法だって言われてるのに……こんな……。俺は先生について結構知ってるつもりだったんですが、認識を改めた方がいいですね……」

「…………でも、先生と同じ事ができたら便利だよね……」

「目標がどんどん高くなっていく……! 先生の事を知れば知るほど山が高くなっていくんですけど、どうすればいいんですかね!?」

「お前達の気が済むまでとことん付き合おう」

「それはありがたいですけども!!」


 防護魔法も知らずに戦場に立った先生。それは本当に大変だったと思う。だって魔法が使えないって事は、最初に教えられる治癒魔法も使えないって事だ。怪我をしても癒やす事ができないっていうのはかなり不利なんじゃないかな?


 何故魔法を斬るという発想に至ったのかと尋ねてみれば「斬るしかないと思って斬ったら斬れた」と返された。もうわけがわからない。でも、斬るという発想は防護魔法を知らない先生だからこそ出たんだと思う。防護魔法さえ使えれば完全に守り切る事はできなくても軽減くらいはできるから、普通なら危険を犯して魔法に突っ込んで斬るなんてしない。




 その後、先生から剣を借りてレオンと交代で火の玉を出し合って魔法を斬ってみる事になった。

 結局私もレオンも全然斬る事ができなかったから、これは今後の課題だ。要研究。


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