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黒獅子と弟子  作者: 熊田
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かくして彼は英雄となった

初めまして、熊田と申します。自分の妄想がちゃんと小説という形になっていれば幸いです。

よろしくお願いします!


 ウェルディア王国とその隣にあるガルス王国は建国当初から仲が悪く、歴史の中で大規模な戦争と小さな諍いを繰り返している。


 4度目に起きた戦争は、それまでの物よりもずっと大規模だった。ガルス王国は突如ウェルディア王国に攻め入り、後手に回った対応をする事しかできなかったウェルディア王国の王都は陥落寸前にまでなった。いや、陥落していたと言っても過言ではない。ここまで一方が追い込まれるのは歴史上初めての事だった。

 国王は混乱の中で暗殺され、次代の王となる事が決定していた国随一の実力者である王弟も前線で指揮を執っていたが、生存は確認できず。ウェルディア王国軍は戦う意義を見失いかけていた。


 戦争が始まってから、およそ1ヶ月が経過した頃。国王を失い、王弟の生存が確認できなくなってからおよそ10日後の事だった。

 投降する他ない――その決定が下されようとしていた正にその時、思ってもみない情報が飛び込んできた。「ガルス王国を率いていた将軍を討ち取った」という知らせと、「友好国テライゼから援軍が来た」という知らせだ。

 その知らせを受けたウェルディア王国軍は奮起した。ガルスなんぞに自分の国を荒らされてたまるかと、農民までもが自主的に武器を手にして戦い始めたのだ。

 勝利を確信していたガルス王国は指揮官が落とされるとは想像もしていなかったらしく、勢いづくウェルディア・テライゼの同盟軍に進軍を許してしまい――ついには敗北を喫した。ガルス王国の王都では国王が自害したという。


 第4次ウェルディア=ガルス戦役。その勝利の立役者となったのは、当時16歳のグレンという名前の青年だった。彼はたったひとりで敵の軍隊を壊滅状態に追い込んだ。ガルス王国軍の指揮官を討ち取ったのは他でもない彼である。

 グレンは単なる傭兵であり正規の軍に所属する印を持っていなかった。だからウェルディア王国側も彼を警戒したが、彼の傍らにいた人物を見てすぐにそれを解いた。

 ――アルフェンディ・ラズ・ウェルディア。国王の唯一の息子、つまりウェルディア王国の王子である。戦争が始まってすぐに彼だけは国王と王弟の判断により逃がされていたのだ。ウェルディア王国と友好関係にある、海を渡った先にあるテライゼ王国を頼れ、と。


 しかし、アルフェンディは船がある港町にたどり着く前に襲撃に遭ってしまう。ウェルディア王国はそれ以降アルフェンディの消息を掴めず、死んだものと思われていたのだが――彼の窮地を救ったのがグレンだった。襲撃者は数多くいたにもかかわらず、グレンは難なく倒してしまったのだ。

 グレンの強さを目の当たりにしたアルフェンディは、彼にこう依頼した。


「私はこの国を守りたい。父上と叔父上をお助けしたい。その為に、どうか力を貸してください」


 アルフェンディは、助けになるどころか足手まといにしかならない自分を強く恥じていた。だからせめて、一刻も早くテライゼ王国に向かい援軍を要請しなくてはならないと考えていた。

 しかしテライゼ王国を頼ろうとしてガルス王国が邪魔をしてこないはずがない。だから、たった今会ったばかりの青年に縋った。アルフェンディの護衛騎士は口を挟もうとしたが、グレンの強さを目の当たりにしている以上何も文句は言えなかった。


「あんたが何者かは知らないが、悪い奴じゃなさそうだ。俺で良ければ手を貸そう」


 それでも、その言葉遣いにだけは物申したかったと護衛騎士は後に語る。



 テライゼ王国から援軍を借り、すぐにアルフェンディとグレンはウェルディア王国に戻った。行きも帰りもガルス王国軍の襲撃に遭ったが、船の上でもグレンは強かった。そして、その勢いのままに――テライゼ王国からの援軍が来たという知らせが味方陣営に届くよりも早く、敵将を討ち取ってしまった。

 ――もしかしたら援軍など必要なかったのではないか。アルフェンディがそう考えてしまうほどに、グレンの強さは常軌を逸していた。



 ウェルディアの勝利で戦争は終わった。グレンは救国の英雄として持ち上げられ、アルフェンディの危機を救った事や将軍を討ち取ったその功績から爵位が与えられる事になった。

 単なる傭兵であったグレンはこの時からリントナー男爵となる。そして、黒い硬質な髪に金の瞳という見た目と戦場での苛烈さから、共に戦場に立った者達から黒獅子(くろじし)と称されるようになり――その呼び名は瞬く間に国中に広がった。


 救国の英雄、グレン・リントナー。少々どころではなく大いに人間の道から外れた強さを持つ彼は、詩人が語る英雄譚とその容貌が相まって絶大な人気を誇る事になる。

 ややつり上がった金の瞳は鋭く、あの瞳に見つめられたいと騒ぐ女性は多い。鼻筋は通っていて、やや日に焼けて黒くなった肌は白い肌が良いとされるこの国でも「男らしくて良い」と受け入れられている。あまり変化する事のない表情でさえ好意的に受け止められた。グレンが元々は平民で、損得勘定で動く人間ではないらしいという噂は更に多くの女性を沸かせている。


 ――そうして理想の英雄像は作られていき。ずっと傭兵として生きてきた為に実際は剣を振るうしか能が無いグレンは、今日もその虚像を持て囃されていた。


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