見慣れない森とスケルトン
気が付いたら見慣れない森の中にいた。
薄暗くじめじめしていて静かで少し寒い。
「ここは......どこなんだ?」
返事は無い。残念ながらやっぱりチートはついて無いようだ。
て言うか森からスタートとかまじでハード過ぎませんか? 戦さんよぉ。
だってチート無いんだよね!? 無理だろ! 狼来て食べられるパターンだろコレ!?
あ、フラグたったなコレ。どーしよ? 今俺にある物は?
木刀、タマゴ、ポーチ(無限に収納できるやつではなかった)、炎球、うんダメだ殺られる。
いや待てよ。炎球がチートって可能性もあるぞ!
よし、思い立ったら実行あるのみ。俺は決断力ある男なのだ!
などと思っていると遠くに白いガイコツが見えた。
焦ったぁー、スケルトンか。異世界でスケルトンといえば雑魚キャラ。炎球を試すのにちょうど良さそうなやつだな。にしても弱そうなやつでよかったぁ。狼とかだったら絶対勝てないからなぁ......。
やつはまだこちらに気付いていない。距離もちょうどよく離れている。
よし、右腕を前につきだして
「喰らえ! ファイヤボームッムムー!」
突然後ろから何かが体を縛り口を塞ぐ。
これは......草か!? でも何で草が!? モンスターか!?
いやそれより息が!詠唱の、途中で......苦しい! あれ、意識が......まずいこの......まま......じゃ......。
音をたてて倒れた平田をツルのように伸びた草が、隠されていた穴に引きずりこんでいった。
■□■□
「おーい、起きろボウズ。」
そんな声で起こされた。
うーん誰だよ。まだねみー、おやすみ~。
「おきろ~ボウズ。起きないとタマゴくっちまうぞ。」
なんだと!? タマゴはやめろー。俺の唯一の希望がぁ。
ここに来て、完全に目が覚めたのか二つの事が分かった。
一つ、俺はまだ生きている。ついでに何も取られていない。
二つ、俺が話しているのは人ではなく、よくお弁当に入っているプラスチックの草に目と口をつけたようなモンスターだった。
なぜかあまり恐怖は感じない。
つうかモンスターって喋るのかよ。
「まず一つ言っておく。タマゴは食うな。食用じゃない。」
「そうなのか。大事そうに抱えていたから今日の飯なのかと思ったぜ。」
いや普通飯って考えるかな? いやまあ、ご飯も大切だけどさ。
「あー、くそ。せっかく助けたのにムダ骨じゃねえか。」
いや知らねぇよ。いやそんな事より
「助けたってどういう事だ? 俺そんなに危なかったか?」
だってスケルトンに向けて炎球を放とうとしていただけなのに。それにモンスターが人間を助ける理由も分からない。対立してるもんだろうに。
「お前、もしかして転生者か?」
「え、ど、ど、どういう事だ?」
あ、つい反応してしまった。
転生者だって事は隠しといた方が良かったのかもしれない。
「あっ。ちょうどいいな。ちょっとこっちこい、ここ覗いてみろ。」
草が指した所には望遠鏡みたいなのがあった。
よく考えたらスゴいなコレ。
全部あの草が作ったってことなのか?
そう考えると器用だなあの草。
草生えるぜ! ってふざけてる場合じゃなかった。
改めて辺りを見回す。
土で作られた壁にいくつも穴が空いている。
おそらく、別の部屋に行けるのだろう。
また、木で作ったタンスやテーブル。そして比較的きれいな布のベッド。
暖かい事と少し暗いことからおそらく地面の中だろう。
しかし、あの電球とかよく作ったな。いや電気通ってないだろ! なんで光ってんのあれ! なんか部屋のはしっこに赤い石みたいなのがあるし。
そもそも人間の俺が立っても問題無いくらいのこのスペース。
暇人なのか? いや草か。
「おい、はやくここ見てみろ。」
おっと、行かなくちゃ。
というかいつまでも草じゃ呼びにくいな。
「なぁ、お前はなんて名前なんだ?」
「名前なんてねえよ。お化け草って種類のモンスターだ。」
お化け草か。よし、グッさんって呼ぼう。
「よろしくなグッさん。俺はイヨウ・ヒラタって言うんだ。」
異世界風に言うならこうだろう。
「いやグッさんって......まあいい。早くここ覗いてみろって。」
グッさんが急かすので望遠鏡を覗いてみる。
ほうほう、地上が見えるぞ。どういう原理だコレ?
「スケルトンが見えるだろ?」
「おう、右から左に歩いてるな。」
「その後ろの草むらに黒い騎士が見えるだろ?」
あ、ほんとだ。言われるまで気付かなかったぞ。カッコいいなあいつ。
「なぁ、あいつなんて名前なんだ?」
「あいつはデモンナイトと呼ばれている。まあそこは関係ない。あいつとスケルトンが戦ったとき、どっちが勝つと思う?」
「そりゃあデモンナイトだろ。明らかに強そうじゃん。」
まるでスケルトンが勝つと言っているようだ。どうやったらスケルトンがナイトに勝つんだよ。想像がつかないぞ。
「まぁ、見てろ。」
お、デモンナイトが動き始めた。
音一つ立てずに移動する様子はさながら死神のよう。
よく考えたらこれが異世界来てはじめてみる戦闘になるんだよな。
等と考えているとナイトがスケルトンの後ろの草むらから斬りかかった。
縦一閃・安らかに眠れ・スケルトン
下らない川柳を詠んでいると、まるで金属と金属のぶつかったような音が森に響いた。俺は思わず叫んだ。
実際には金属はナイトの持つ剣だけ。
それをスケルトンは素手で受け止めたのだ。
スケルトンの行動は速かった。
剣を振り払い、隙だらけのデモンナイトの腹に蹴りを入れた。
破裂音と共にデモンナイトは吹っ飛ばされ、木に叩き付けられる。
それと同時にスケルトンの後ろから新たなナイトが三人飛び出してきた。
しかしそれをスケルトンは自分の腕の横一閃で、これまたぶっ飛ばしてしまった。
うわぁ、モンスターの血も赤いんだな。
この間わずか十秒。
異世界初戦闘見学はスケルトンの圧倒的勝利に終わった。