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7、暴走する相棒


 色々と問題のあったルカも、徐々に探索者としてやっていけるようになってきていた。

 ルカを庇って怪我をした時から、俺の言葉を素直に聞くようになったからだ。それと『迷宮新聞』のおかげで、俺の心と金に余裕ができたというのもある。


 ルカを筋肉ムキムキの戦士としてではなく、可愛い女の子と捉えるようにしたら面白くなってきたんだ。

 煽ってくる酔っ払いとのケンカや、キラキラの鎧を装備したがるのも、魔物に突進していくところも……可愛い女の子がやっていると思えばなんてことはない。笑って許せるレベルだ。

 探索者としては笑えないからしっかり説教するが、俺の言い方も柔らかくなったせいかルカも反発せずに聞くようになった。良いことづくしだ。


 だがしかし、ここにきて問題が起こってしまった。

 まさかルカが『迷宮新聞』の連載小説を、しかもタイトルからして痛々しい恋愛小説を読んでいるとは思わなかった。しかも一冊の本になったものまで購入するとは。

 ルカの好みは男性向けの冒険小説だと知っていたし、恋愛小説は読むと寒気がすると言っていたのに。


「この小説、恋愛なのだが読んでも寒気がしない」


「へー」


「きっと作者様は素晴らしい探索者でもあるのだろう。戦闘の部分もすごい迫力だ」


「ほー」


 そりゃ毎日魔物と戦っているんだから、並みの作家には負けないだろう。

 いや、そうじゃない。

 ルカが「作者様」とか言って目をうるませているのが危険な気がする。どうしよう。これは逃げるしか……。


「ウィル、お前は『迷宮新聞』に情報を提供している。もしやこの作者様を見たことがあるのでは」


「ない!」


「……む、そうか」


 それきり無口なルカに逆戻りになった。そしてベンチから立ち上がる。


「どこに行くんだ?」


「部屋で、読む」


「新聞の連載を読んでいたんだろ?」


「書き下ろし、読む」


「そ、そうか」


 そういえば編集者に言われて番外編を書いたんだった。忘れてた。

 ルカはアパートで部屋を借りているらしい。金額的には俺のいる所と変わらないが、アパートだと飯が出ないから俺は安宿にしている。

 大事そうに本を抱えて去っているルカの背中を、俺はなんともいえない気持ちで見送るのだった。







「ブッフォ」


「笑いごとじゃねぇよ。俺、どんな顔して相棒に会えばいいんだよ」


「別にいいじゃない。身近にファンがいたんだから、俺が作者だぜ☆ って言えば」


「言えるか!!」


 銀縁眼鏡を指先でくいっと押し上げて、彼女はニヤニヤ笑いながら楽しげに俺を見ている。言うんじゃなかったとは思ったが、ここで口止めしておかないとルカが乗り込んでくるような予感がしたんだ。

 俺は斥候として迷宮で経験を積んできた。その全ての力をもって今、危機的状況を回避しようとしているのだ。いや、本当にシャレにならんぞ。


 予感だとか悠長なことを言っている場合じゃなかったらしい。

 勢いよく開いたドア、そこに現れたのは黒髪の厳つい戦士だ。


「……む」


「む、じゃねぇだろ! 何しに来たんだよ!」


 俺はルカの潤んだ目を見て状況を察知する。こいつはきっとアレを読んだに違いない。

 銀縁眼鏡の編集者がすくりと立ち上がり、ただならぬ雰囲気のルカに向かって臆せず話しかける。この女のこういうところは尊敬できるな。


「弊社に何か御用でしょうか」


「……る、のか?」


「え?」


「終わる、のか?」


「おい、落ち着けルカ」


「落ち着いていられるものかウィル! この『おてんば姫騎士、迷宮都市へいく〜イケメン斥候の罠と恋に落ちて〜』の連載が終わるのかと聞いているのだ!」


 なんでもいいけど相棒、そのこっぱずかしい題名を一言一句もらさず言わなくてもいいんじゃないか?



お読みいただき、ありがとうございます!

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