6、相棒との出会い
ルカとの出会いは最悪だった。
あの頃、何人かと相棒としてやってきた俺は、ランクも上がり経験を積んだ斥候となった。つまり探索者の中でもベテランと呼ばれる地位を得たのだ。
ランクアップは探索者ギルドのマスターから直接知らされる。呼び出しを受けた俺は少し浮かれてはいたが、それなりに気を引き締めてギルドマスターの部屋へと向かった。
「マスター、お呼びとのことで参りました」
「ああ、入ってくれ」
もはや伝説級と呼ばれる元探索者のギルドマスターは未だ現役さながらのオーラを身にまとっている。その伝説級の隣には、艶が出るくらいしっかりと磨かれた金属の鎧を身にまとう騎士がいた。
「ランクアップおめでとう。斥候としてのベテラン探索者が出たのは久しぶりだ」
「ありがとう、ございます……」
俺のことをじっと見てくるキラキラの鎧に極力目がいかないようにしていた。この状況は、斥候じゃなくても嫌な予感がビンビンにきているだろう。
そして案の定、その予感は的中するのだ。
「新人のルカだ。本日から探索者ギルドの一員となった。戦士希望とのことだ」
「……む、戦士ルカだ」
「どうも、俺は斥候のウィルだ」
不貞腐れて自己紹介をすれば、苦笑したギルドマスターが爆弾を投下してきたんだ。「君は今、誰ともパーティを組んでないだろう? ルカのことをよろしく頼む」という超特大の爆弾を。
この後のことは思い出したくもない。
まず暗い中でも目立つようなキラキラでガシャガシャ音が鳴る鎧を売っぱらい、戦士として一流だからと言い張る奴の首根っこつかんで探索者講習会を受けさせ、初心者を煽ってくる酔っ払いとのケンカを仲裁し……。
毎日が問題だらけで、なんでこんな世間知らずを相棒にしなきゃいけないんだと何度もギルドに苦情を言ったが、単独で活動している斥候が俺しかいないため要求は却下されてしまう。
それに、ギルドに所属している限りギルドマスターの命令は絶対だ。頼むと言われれば、よほどのことがないかぎり従うしかないのだ。
ある日、探索者たちが購読している『迷宮新聞』の編集者がギルドにきた。
これまで情報提供していた探索者が引退し、できれば斥候の目線での情報が欲しいとのことだった。
運がいいのか悪いのか、たまたまギルドにいた斥候が俺で、新しい魔物の情報を受け付けに伝えていたところを編集者に目をつけられてしまう。
金を払うとのことだったから受けることにしたが、その編集者との雑談でルカの愚痴を言ったところ「それ面白い!」と食いつかれた。
俺もバカじゃない。愚痴だと体裁が悪いから、ルカを可愛い少女ということにして実際にあったそのままではなく脚色をつけて面白おかしく話したんだ。それが思いのほか編集者にウケたらしい。
あれよあれよという間に編集部で企画が通り、週間で小説の連載を『迷宮新聞』ですることになってしまったのだ。
目の前の厳つい戦士は、いつになく興奮して『おてんば姫騎士』について語っている。
「姫騎士の暴走で、つい魔物を深追いするところがあるだろう。そこで斥候が彼女を守って傷を受けてしまう」
「あー」
「そこで泣いている姫騎士に、深手を負って痛みで苦しいはずの斥候がニヤリと笑って『いつもの元気はどうした?』と言うのだ」
「おー」
「ウィルのことを思い出した。自分を庇って怪我をした時があった」
「んー、そりゃげほげほ、そういやそんなこともあったなぁ」
そりゃ、あの時の暴走してたルカを書いたもんだからなと言いそうになった俺は、咳払いで誤魔化す。危ない。
「軽い怪我だったとウィルは言ったが、あとでギルドマスターに怒られた」
「へ?そうなのか?」
「探索者……特に斥候にとって、かすり傷でも危険な場合がある。パーティの中で一番集中力を必要としているのが斥候で、警戒や探知に痛みが邪魔になれば魔物に気づくのが遅くなる。それだけ生存率が下がるということだ、と」
驚いた。俺の知らないところでギルドマスターはルカに色々と教えてくれていたらしい。当時は丸投げしやがってと恨んだが、一応見てくれていたんだなと少し気恥ずかしくなった。
それにしても、普段よく話す俺と無口なルカが入れ替わったような会話になっているのが面白い。どうやらルカは好きなものに関しては饒舌になるようだ。
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