3、迷宮の魔物
まずはルカが一体を仕留め、俺は短剣で二体目を仕留める。
虫系の魔物の甲殻に覆われた部分に攻撃しても剣は通らないが、首あたりの関節になっている隙間に刃を入れれば一撃で仕留めることができる。
緑の体液を流しながら地面に転がる魔物を見ることなく、次の動作に入った俺はエルザの氷魔法が一体を凍らせているのを見て思わず笑顔になる。
「ルカ!」
「ふんぬっ!」
羽根を出して飛び上がった魔物に対し、俺はルカが差し出す手に足をのせ、そのまま上へ放り投げる勢いにのって跳躍する。
「せいっ!」
羽根を出したことによって甲殻がない柔らかな部分を狙って短剣を投げれば、うまく当たって魔物は下へ落ちていく。
空中で一回転した俺も空気に魔力を流してふわりと着地する。
「すごぉーい! かっこいぃー!」
「俺とルカとの合わせ技。すげぇだろ」
「……む」
これは成功すると気持ちいいやつだ。合体技とか迷宮でやって見せる機会なぞ滅多にないから、エルザに褒められてちょっと嬉しい。ルカも褒められて珍しく口元を緩めて嬉しそうにしている。
そんな助っ人エルザが氷魔法で仕留めてくれた魔物が一体地面に転がっている。
迷宮の魔物が倒せばアイテムや素材をドロップして消えてしまうものだ。しかし例外もあり、この虫系の魔物は凍らせると迷宮の外へ丸ごと持っていくことができる。そしてこの硬い甲殻部分が全て素材になるのだ。ドロップするものを持っていくよりも何倍もの金額で売れるのだ。
「似たような虫の魔物がたくさんいるのに、よくこの虫だって分かるのね」
「まぁ、この方法を見つけたのは俺らだからな」
「え? その時にも氷魔法使える人を連れていたの?」
「まぁね」
嘘だ。実は魔力のコントロールに失敗して発動した氷魔法で、たまたま近くにいた魔物を凍らせてしまっただけだ。恥ずかしくてルカにも言えていなかったりする。
ともかく、無事にルカ用の装備の素材を持ち帰ることができた俺たちは、エルザに礼金を払って解散をする。
迷宮を出る頃にはルカとエルザも話すようになっていたし、いい雰囲気だったように見えた。いつも最初は俺にくっついてくる女も、迷宮を出る頃にはルカにくっつくようになるんだよな。まぁ、いいけどね。
「ウィル、明日なんだが……」
「お? さっそく防具屋に行くか?」
「いや、用事があるから休みにしてほしいんだ」
助っ人のエルザと別れたあと、ギルドの酒場で酒を飲みながら明日の話をすればルカが珍しい提案をしてきた。
明日を休みにするのは俺も賛成だ。とある用事があって、足を運びたい場所があったからだ。それでもルカが潜りたいと言えば、俺はそれに従うつもりだったんだけど……。
なぜか申し訳なさそうな表情をするルカに、俺は気にするなと笑ってみせる。
「わかったよ。防具屋は明後日でいいか?」
「それで頼む」
「おう。んじゃ、とりあえず今日は飲みまくれるな!」
「む、竜酒いくか」
酒を水のように飲む竜族も倒れるという銘柄を挙げたルカに、俺は「水割りで」と付け加えるのだった。
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