2、魔法職の助っ人
ルカがあまり好まないのはわかっているのだが、今回の素材はどうしても魔法職の探索者が必要だった。
ある階層の魔物が落とす素材を集めようとしており、それには魔法攻撃が必要不可欠なのだ。
「く、せめて自分が魔法を使えれば……」
「無い物ねだりしてもしょうがねぇだろ。ほら、魔法職のやつを探すぞ」
「ウィルは魔法を使えるだろう?」
「俺のは斥候で使ってるんだ。攻撃する余裕はねぇよ」
「……斥候で魔法を使っているというのが、そもそもおかしいと思うが」
ルカの言う通り、俺のやっていることは普通あまりやらない。しかし魔法職専門でやるほど俺は器用じゃないし、学校に通う時間も金もなかった。とにかく働かないと生きていけない状況だったんだ。
何やらブツブツ言っているルカを引っ張り、迷宮前の受付に魔法職募集の依頼をすれば数分で助っ人の探索者が現れる。
「相変わらず早いことだ」
「ま、俺の美しさのおかげってやつだろ」
美しいかどうかはともかく、俺の顔は女にとって目を惹くつくりになっているらしい。そういうことに興味はあるが、日々生きることに精一杯すぎて恩恵にあずかったことは少なかったりする。
「こんにちわぁー、よろしくおねがいしますぅー」
「はいはい、よろしくね」
「……」
無言のルカを肘で押してやれば、渋々「よろしく」と小さい声で言った。
人見知りの子どもかよ。まぁいつものことだけど。
魔法職の助っ人はエルザと名乗り、やけに胸を押し付けてくるのが面倒だと思っていたら迷宮に入ったと同時に離れてくれた。一応は「探索者」であるらしい。
辛うじてルカと同じくらいの身長の俺は、先頭に立つと周囲の警戒と探知を展開する。わずかな魔力が流れたのに気づいた助っ人エルザが小さく息を飲んで驚いたのも、なぜか自慢げな顔をしているであろうルカの様子も探知でわかってしまうのだ。
『前方、ゴブリン二体』
後ろに手信号を送れば、小さく頷いたルカは俺の前に出てくる。エルザは無言のままだ。
この手信号は探索者なら誰もが知るもので、迷宮内では極力声を出さないようにする必要があって作られた。ギルドで無料講習会を受ければ冊子がもらえるのだ。
足音をたてずにゴブリンへと向かったルカは、剣を抜くと素早く斬り伏せていく。あっという間の出来事にエルザは感心したようだ。体温が少し上がっているのが探知でわかる。
「よし、ここら辺には魔物はいないみたいだな。もう少し先にある転移の門から『森の階層』へ行くぞ」
「ふぅ、あなた達ってすごいのね。もしかして最近噂になっているランクが高い二人組って……」
「俺はすごかねぇよ。ルカの戦闘能力があってこそだからな」
「……む、すごいのはウィルだ」
「あー、はいはい、イチャイチャしてないで先に行きましょう」
「むっ、い、いちゃ……!?」
「ほら、ルカ行くぞー」
盛り上がった胸筋をピクピクさせて慌てるルカに、俺は苦笑して声をかける。こいつはなぜかこういう話題に弱いんだよな。
まさか……経験がないとか言わないよな? さすがに、それは……いや、ルカならあり得ることか?
森の階層と呼ばれるその場所は、迷宮ならではの「外のように風を感じる森の中」だ。
魔物も狼のようなものから、虫や爬虫類まで幅広く出てくる。素材の種類も多いため、それなりに人気の場所なのだが……。
「罠はないけど、猿系の魔物が変な罠を仕掛けているから、俺の足跡をたどってくれよ」
「はぁーい」
気の抜けるような返事をするエルザと無言で頷くルカ。寡黙な戦士はモテるだろうけど、寡黙すぎると面倒だぞルカよ。
迷宮特有の魔法的な罠の心配をしなくていいため、俺の警戒と探知は通常のものに戻しておく。
短剣を振るい邪魔になる枝などを切りながら進めば、やがてお目当ての魔物が探知に引っかかる。静かにするよう手信号を送り、身を屈ませるとルカとエルザもそれにならう。
『五体、魔法で一体、頼む』
エルザが頷くのを確認し、カウントをとって息を合わせた俺たちは一斉に草むらから飛び出し突撃をした。
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