1、迷宮の探索者たち
初回は2話の更新です。
短めで終わる予定です。
この国には迷宮都市と呼ばれる場所がいくつかある。
そこで生まれた者に資質があれば、迷宮産の素材やアイテムを加工する生産業で身を立たせることが可能だ。だが資質を持たない多くの者は、迷宮でしか採れない素材やアイテムを回収して生活を成り立たせる「探索者」と呼ばれる職業につく。
人間が迷宮にはいることは危険なこととされている。いたる所に罠があり、魔物と呼ばれる迷宮にしか出ない存在が人間に襲いかかってくるからだ。
それでも迷宮内にある素材や落ちているアイテム、魔物を倒せば出てくる魔石などは貴重なもので、市場では出回らないため高く売れる。
命がけにはなるが、一攫千金を狙う者たちは探索者として今日も迷宮に潜っていく。
どう見ても酒場にしか見えない『探索者ギルド』と呼ばれるその場所で、今日も俺は待ち合わせをしている。
自分で言うのもなんだが、ほどよく筋肉のついた細身の体には、とある魔物の皮製ライトアーマーを装備している。探索者である俺は『斥候』を担当しているから、音が出るような金属製の重い装備などには向かない。
ちなみに探索者における『斥候』とは兵法などで使われる本来の意味じゃない。冒険者ギルドの職業『盗賊』みたいなものだ。
やけに胸元を強調している酒場の女……じゃない、女性ギルド職員の色っぽい流し目に軽く挨拶をしていると、パーティメンバーのルカが遅れてやってきた。
戦士のルカは重そうな鎧を装備しているが、普通の戦士とは違い探索者に向いたつくりの鎧だ。出会った頃はフルプレートだったのを指摘し喧嘩をしたが、今では俺の言う通りの装備をしてくれている。それも一度死にそうになったからなのだが……まぁ、こちらとしては言うことを聞いてくれるなら生存率も上がるし、文句はない。
プライベートで絡むことは少ないが、信頼できる相棒でもある。
ルカは鍛え抜かれた腕の筋肉をピクピクと動かしながら、仕事前のため水を頼んでいる。
「ウィル、今日はどうする?」
「そうだなぁ……ルカの籠手にヒビが入ってるから、その素材を集めようぜ」
「まだ大丈夫だ」
「おいおい、前衛の装備に気をつかうのは当たり前だろう。大丈夫なうちにやっとかねぇとダメだろう」
「む……そうか。すまん」
「いいってことよ」
軽く返せば、無表情に見えるルカの目尻が少し赤くなる。嬉しい時に起こる相棒の変化に、俺の気分もよくなる。
黒髪をくしゃりと搔きあげ、小さく息を吐くと「それはそうと……」と珍しくルカが話を振ってくる。
「迷宮新聞なんだが、ウィルの情報提供だと聞いた」
「ああ、そうだよ。迷宮の罠とか魔物の弱点とかも情報として金になるからな。もちろん相棒であるルカにも情報料として金を入れてる。安心してくれ」
「いや、それはおかしいだろう。ウィルが斥候として集めた情報がほとんどじゃないか」
「前衛がいねえと俺もやっていけないのは知ってるだろうが。お互い協力しあって得た報酬なんだから気にすんな」
「む……」
良くも悪くもルカは真っ直ぐだ。迷宮都市の外から来たということしか知らないが、とにかく真っ直ぐすぎて探索者に向かない人間だ。
だからかもしれない。俺はルカを迷宮探索の相棒として選んだ。真っ直ぐすぎて折れてしまうのを、どうにか守ってやりたいと思ったんだ。
……変な意味じゃないぞ? ルカは探索者としての能力は低いが、戦士としては一流だ。ルカの戦闘を見ればわかるが、まるで美しい舞を見ているような気持ちになるんだ。
「とにかく、迷宮新聞に出す情報提供の報酬は二人のものだ。わかったな」
「……うむ」
腑に落ちないとルカの顔に書いてあるのが見えて、俺はつい噴き出してしまう。
ムッとしたような表情の相棒に謝り、俺たちはいつものように迷宮へと潜るのだった。
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