うちの息子は天才かもしれない
※ジャンル ・父親 ・ほのぼの ・剣と魔法の世界 ・異世界転生主人公の父
うちの息子は天才かもしれない。
産まれたばかりの頃は赤ん坊らしくそれはよく泣いていたのだが、数ヶ月経つと全くと言っていいほど泣かなくなった。
絶対にありえない話ではないとはいえ少々不気味だった。なので名医と呼ばれる先生に診てもらったが、特に変わった様子もなくいたって健康体らしい。
俺は考えないことにした。
うちの息子は、産まれてから数ヶ月だというのにこちらの言葉を完全に理解しているように見える。
名前を呼べば当たり前のようにこちらを見るし、料理や道具の名前も理解しているのか言葉にしたものを目で追う仕草をする。子育て経験のある母に聞いてみたのだが、なんとなくで反応しているだけでそういうことはよくあるらしい。単純に俺が気にしすぎなのだという。そういうものなのか。
まだ幼さ故に発声はできないようなのだが、意思疎通はほとんど完璧にこなせる。あれをとってほしい、それじゃない、お腹すいた、などなど。まだ1歳にも満たない赤ん坊のレベルじゃない。
言葉を発するのも時間の問題だろう。
1歳になる頃には、もう1人で動き回れるようになった。動きは遅いが明確な意思をもって這っているように感じる。行き先はだいたい俺の書斎か、もしくは縁側だ。縁側には俺が庭で鍛錬しているときによく来て、じっと見てくる。
少し前まで書斎には妻に連れられていたはずだが、気付いたら1人で向かうようになった。まだ文字は読めないと思うのだが、書物によっては絵図が描かれているのも多いため息子はただそれを面白がって眺めているだけだろうと妻は言っていた。だが俺にはどうも文字を読んでいるようにしか見えない。
2歳になる少し前のこと、息子がついに喋った。それは大変喜ばしいことなのだが、最初からお父さんお母さんと呼ぶのはどうなんだろうか。普通はパパママじゃないのか。そして何故か敬語を話す。
……どうやら子どもは周りの言葉を吸収して覚えるらしく、家に勤めている使用人の敬語を吸収したのではないか、というのは妻の談。俺は子育てに詳しくないからわからないだけで、そういうものなのだろう。
妻はお母さんと呼ばれるたびにキャーキャー言っていた。
ある日気が向いたので書斎にいる息子を眺めることにした。どうやら最近は俺でさえ難しい魔道書が気に入っているらしい。あれは絵も載っているしわからなくもないのだが、理解しているのだろうか。
いや普通なら理解しているはずもないのだが、うちの息子に限っていえば十分ありうることだ。むしろ理解できない魔道書に興味を示すとは思えない。……ここだけだと親バカみたいだな。
いつものように書斎に向かった息子を眺めていると、なんということか、魔力の気配が感じられた!
人は誰しも魔力を持っているものではあるのだが、大魔導士様ならまだしも俺レベルでは普段から他人の魔力を感じることはできない。せいぜい魔術を発動しようとしている時だけだ。
……そう、つまりそういうことだろう。
我が息子は2歳にして魔術を発動しようとしたのだ。そのときは幸か不幸か魔術は発動しなかったようだが。
妻に伝えるべきだろうか。いや、やめておこう。もしかしたら俺の気のせいかもしれないし妻に余計な心配はかけたくない。
息子が3歳になった。この歳になればそれはもう好き勝手動き回るようになる。俺もその頃は庭でよく走り回り手間がかかったものだと母から聞いたことかまあった。
だが、間違いなく素振りはしていなかったはずだ。棒を振り回すことはあっても、素振りはない。まして、俺の見よう見まねにしては完成度が高すぎる素振りなど決して。
その頃から体を動かすことにハマったのか書斎よりも庭で木刀を振ることが多くなった。木刀は息子が欲しいと言ったので買い与えた。本来は5歳かそれくらいの子どもが使うもののはずなのだが、なんなく振り回している。
ふと思いついたので俺が教わった流派の型を息子に見せるようにやってみた。興味があるのかないのか、じっと見つめてくるだけで何か言ってくることはなかった。
地方貴族でもある俺はそれなりに仕事がある。少し前に国都で疫病が発生したらしく、俺に割り振られる仕事が増えた。
そのせいで近頃はあまり息子に構ってやれていないので一区切りついたら顔を見せに行くことにしよう。
庭に向かい、息子の姿を見たところで唖然とした。
型が出来ている。数回見せただけのはずなんだが、どうなっているんだ。覚えがいいという次元か。
俺は見なかったことにして仕事に戻った。
2歳のあの日から、魔力の気配を感じることは多々あったのだがついに魔術が発動した。初級ではあったが、たしかに魔術だ。
3歳で魔術を使う子どもなんて聞いたこともない。国都の貴族の子が英才教育を受けても10歳までに発現すれば天才児扱いだ。下手すれば一生発現しない人だっている。それを、3歳で。
わかってはいたが、わかってはいたが……。
うちの息子は天才かもしれない。