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徒然なるままに  作者: 虫めがね
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異世界転生

※ジャンル ・異世界転生 ・男主人公 ・プロローグのみ

 1995年8月17日。

 何不自由なく産まれ、平凡な家庭ではあったが両親からの無償の愛情を一身に受けて幸せに育った。


 幼少期は友達とやいのやいの叫びながら走り回り、学校に通い始めてからは勉強に部活にとそれなりに忙しく、それなりに楽しく生きてきた。


 この春大学を卒業をし、世間的に大手と呼ばれる企業で働き始めること数ヶ月、最初こそ新しい環境に戸惑っていたが、それももう慣れた。

 平日は適当に仕事をこなし、金曜日の夜は同僚と飲みに行き、週末は友人と遊んだりゲームやアニメを観たりして過ごした。


 つまらない。といえばそうだが、生来何かに本気で取り組んでこなかった俺にとっては居心地のいい毎日だった。このまま一生続くのも悪くないと思っていた。




 そんな日常が、突然失われた。


 会社に向かっている最中、どういうわけかトラックに跳ね飛ばされたのだ。

 なんてことはない、年間で何十万とある交通事故のうちの一件をたまたま引いただけの話だ。

 文字にすれば、運が悪かった、それだけの話だ。

 恐ろしく単純で、恐ろしく理不尽な話だ。



 ふざけるな。

 何故、俺がこんな目に合わないといけないのか。

 悪いこともせずただ平凡な毎日を過ごしていた俺が。


 神の存在は初めから信じていなかったが、今日確信した。

 神など存在しない。仮に存在したとしても、こんな理不尽なだけの神など必要ない。



 俺を轢いた男が必死に声をかけてくるのがわかる。

 周りの人間が写真を撮ったり騒ぎ立てる声が頭に響く。

 うるさい。痛みで今にも意識が飛びそうなのに、こいつらの出す騒音がひどくけたたましく聞こえてきて腹が立つ。

 騒ぐな、殺すぞ、馬鹿ども。



 憎い。

 俺を轢いた人間が憎い。

 周りで騒いでいる馬鹿どもが憎い。

 憎い。憎い。

 俺の代わりに轢かれるはずだった人間が憎い。

 平和な顔で毎日を過ごしている馬鹿どもが憎い。

 憎い。憎い。憎い。


 この世の全てが、憎い。




 ――なら、滅ぼしてしまえばいい。


 頭に声が響いた。はっきりとした声だ。


 ――こんな世界に価値なんてない。


 嗚呼、その通りだ。だが、何を言っている?


 ――そのための力、欲しいよね。


 力……?


 ――そう。全てを滅ぼすための、力。


 そうだな。欲しい。

 この世の全てを滅ぼすための力が。


 ――いいよ、あげる。


 その声を最後に、俺は意識を手放した。




「あ、起きた?」


 次に目が覚めた時、俺は何もない白い空間にいた。

 目の前には男性とも女性ともとれそうな人の姿があり、こちらを見ている。

 なんだこれは、夢か?


「夢じゃないよ。キミはたしかに死んだ。覚えてる?」


 嗚呼、覚えているさ。俺もたしかに死んだと思った。

 ならここは死後の世界か?


「少し違う。キミの肉体はたしかに死んだが、キミの精神はボクの干渉のおかげでまだ生きている。だから厳密に言うなら死後の世界ではなく、精神世界だね」


 さっぱり意味がわからないんだが。


「簡単さ。キミはボクと契約し、この世の全てを滅ぼす力を得た。今はその最終確認だと思ってくれるといい」


 そういえば、うっすらと記憶にある。


「キミにはこれから魔王になってもらう」


 ……? 何言ってるんだ、魔王だと?


「そう、魔王さ。もちろんすぐに魔王になれるわけではなく、あくまでその資格を得ただけの話だけど。最終的にキミは世界を滅ぼすことになる」


 頭が追いつかない。理解できない。


「ちなみに契約は完了しているから拒否権はない。キミが再び死ぬまでボクの力はキミに宿るし、キミは世界を滅ぼす役目を担う」


 俺はたしかにこの憎い世界を滅ぼしたいと願った。それは今も変わっていないし、変わることもないだろう。だが、現実味がないにも程がある。


「……ま、最初はそうだろうね。とりあえずキミには落ち着く時間が必要みたいだし、今回はここまでにするよ。今から魔界で暮らしてもらうことになるから、あとは適当に慣れてくれ」


 よくわからないまま話が終わった。まあどうせ死んでるんだし、この世界を滅ぼせるのなら魔王でも何にでもなってやるよ。


「しばらくしたら魔界に転送されるから、何かあれば呼ぶといい。念じてくれたら応えるさ」



 そういって人影は姿を消した。

 俺は間違いなく死んだ。その時の衝撃も痛みも覚えている。だからこれは夢ではないし、俺が魔王になるのも間違いないのだろう。



 今から始まるのは、俺が魔王になるための物語。

 そして、この憎い世界を滅ぼすまでの物語だ。

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