9
俺は小汚い部屋の中で眠ろうとしていた。
なぜだか眠りにつけない。
この奇妙な世界で礼香に出会い、俺の心はまた恋に落ちる。
恋とは奇妙な感覚だ。
俺はこの世界で腕から炎を出せる。
そんな魔力を与えられた。
気分はよかった。
俺は兵士になろうと思う。
すべてを忘れてこの世界で生きたい。
自分を殺したことはあるが、他人を殺したことはない。
礼香が言っていたようにこの国で戦争が始まるらしい。
俺は軍人になる覚悟だった。
軍隊に入隊して、そして敵の兵士達を殺す。
敵国を占領する。
それが俺の仕事だろう。
いったいいつになったら俺の存在は消え去るのだろうか。
消えていく願望。
あらゆる願望は消えていく。
本当に心の中は空っぽになってしまったらしい。
そんな世界の中で、この中世のヨーロッパのような国の中で俺は生きている。
本当に戦争なんかあるのかなと高校生の頃は思っていた。
いざこうして王女の召使になってみると、それなりに悪くない。
この国には農民だって漁民だって狩猟民だってたくさんいる。
王国には様々な物質が供給される。
だから生活に困る事なんてない。
礼香はきっと政治家や軍人のトップ、それに芸術家たちなどとパーティーなんかに行っているはずだ。
それであの礼香、エルザに全ての注目が注がれるのだ。
俺はそんなことを思っては切なくなる。
何もかもが消え去ればいい。
俺はそう考えていた。
けれどこの奇妙な異世界の中にまだ俺は囚われている。
やりたいこと、欲しい事。
それらは全て消えていく。
脳の中で霧散していった。
唯一あるのは礼香への恋心だった。
やっぱり俺は礼香のことが好きで愛していたのだから。
それでそんな思いを伝えるのが恥ずかしいとかそんなことばかり考えていたのだ。
夜は静かでなかなか眠りにつけない。
俺はこの世界にまだ慣れていないせいか心がまだ不安だった。
上官にいつ呼び出されるのかびくびくしている。
俺の仕事は掃除や洗濯や料理など簡単なものだったが、それでもしんどい時はしんどい。
そして礼香もこの世界でちゃんとやっていけるのかなとか心配になったりする。
心はいつも何かに引き寄せられる。
そして俺は明らかに疲れていた。
布団をかぶり眠ろうとする。
それでも中々眠りにつくことができない。
いったい何をすればいいのか俺は考え続けた。
そして何もできない無力感を感じていた高校生だったころを思い出してはなんだかそれがよくも思えてしまう。
記憶は美化されていくらしい。
そして礼香のことを考えながら俺は眠りについた。




