5
私はここに生まれ落ちた。
黄金のベッドの上にドレスを着て横になっている。
私が誰か、誰なのかはっきりしない。
ふいに残像が揺らめく。
私が死んだ時の記憶が、私の無様な日々が。
蘇った記憶は脳から張り付いて離れない。
屈辱的な日々だった。
理由はない。
ただ生きていることに意味が見いだせなかった。
最後に愛した恋人の圭介のことをぼんやりと思い出した。
あいつは元気にやっているのかな。
私はいったいどこにいるのかな。
冷夏。
両親から名付けられた名前。
その名付け親にレイプされるなんて、私は思っていなかった。
「お前のことが好きだ」
嫌がる私を押し倒した父親への憎しみが私の死の理由だった。
圭介のことが好きだった。
どうしてだろう。
胸が切ないのは。
私がいなくなって、お母さんとお兄ちゃんと圭介は元気にしているのかな。
私は好きだった。
特に圭介のことが好き。
私の思いは空へと消えていく。
知らない豪勢な部屋の中で、私は泣いていた。
ふいに圭介のことを思い出したのだ。
時刻はおそらく夜だろう。
立ち上がり、窮屈なドレス姿のまま、カーテンを開けると大きな月と洋風なレンガの古い家の連なりが見えた。
いったい私はどこにいるのか。
それだけが疑問だった。
朝が来るまで私は部屋の中を静かに見渡した。
寂しくて圭介に会いたい。
圭介がいない世界は寂しすぎる。
そんなことを思っていた。
ふいに部屋のドアをノックする音が聞こえる。
「王女様」
「何?」
私が咄嗟にそう言うとドアが開いた。
そこには黒い軍服を着た年のいった男がいた。
「あなたは誰?」
「やっと目覚めたのですね」
「ここはどこなの?」
「王女様。気は確かですか」
私は夢でも見ているのだろうか。
その割には意識ははっきりしている。
「ええ」
私はその黒い軍服姿の男に適当に合わせておいた。
何をしてもここなら許される。
私はそんな気がした。
もはや死も異世界も受け入れよう。
それが私の運命なら。
結局に無になることはできなかった。
私は皮肉にも笑った。
「私は元気よ!」
私はさも女優のようにそう言い放った。
「それならよかったです」
男はそう言って、「あなたは三日目を覚まさず意識を失っていました」と言った。
「へえ」と私は言った。
私は男に正気なふりをしつつ、いろいろなことを聞きだした。
ここがゲルマニアという王国のこと。私はエルザという名前の王女だという事。
そして私がこの国の実権を握っているということ。
私はベッドにうなだれた。
「ワインを頂戴」
「かしこまりました」
ワインなんて飲んだことなかった。




