犯人の供述
「あいつに幸せなんてなくていいんです。何せ俺を殺そうとしたあげく、それをなかったことにしようとしていたんだから。
この十数年間、あいつの恨みを忘れたことなんてありません。あいつのせいで、俺は生まれたことを呪った。生まれた意味を得られなかったんですから。
所詮、俺なんてあいつの欲から生まれて出来た無意味な子供です。あいつは一人の男に溺れてそれはもうヤりまくって、たくさんの俺の兄弟を殺していったんです。……あいつは、男に惚れていた。しかし男はあいつに惚れなかった。男は、別の女のところへ行った。
あいつはそこから狂って、男との間で最後に出来た俺を生み、小さな俺を殴りながら、蹴りながら、小学生まで育てて、そして襲った。男に似ているから。それだけの理由で。
ひどい話じゃないですか。俺、なにも言えないですよ。助けてなんて言えないですよ。だって、言ったら痛い思いをするんですから。
そして急に冷めたのか、「飽きた。」と言い、俺をビニール袋に閉じ込めて、近くの海に、ドボン。俺を殺そうとしたんです。俺をなかったことにしようとしたんです。ね、海の水は冷たいでしょう。今でも水はトラウマです。
なんとか奇跡的に生き残り、とある海岸に流れ着いた俺は優しい老夫婦に育てられました。
はい。俺は、この村で生活していたんです。
ところがなんですか。一ヶ月前、彼女はここに来た。何を思ったんでしょうね。一人で、めちゃくちゃ綺麗になってて、この村に来たんですよ。しかし俺はすぐにあいつだと分かった。そこからは殺したくなって、タイミングを見計らって、俺の嫌いな海で殺しました。
せいせいしました。すごく。後悔なんてありません。どうぞ、死刑でも何でもしてください。
あ、でもね、一つだけ言っておきますね。あいつ、……俺の母は、きっと、どこかで何かをやらかしてます。絶対に。今までなにもないなんてありえない。そうだなあ、海じゃなくて、今度はロッカーとかじゃないですかね。広いところの次は、狭いところじゃないですか。彼女は海の次によくあの人の写真があった棚を見つめてたんです。きっとその棚と似たようなロッカーに、幽閉されたこどもがいる。
俺、また兄弟が出来たって思うんです。俺を殺しただけじゃこの村になんて来ませんから。ま、大方、男は海が好きだったみたいでねえ。だからこの村にしたんじゃないですか?
まあロッカーの子供がもしあいつの手のなかにあったら、今ごろ俺と同じ運命を辿ってたんじゃないですかね。ロッカーの方がよっぽどましだ」