日常
ピピッ、ピピッ。
デジタル式の目覚まし時計が鳴る。
むすっと布団の中から顔を出し、時計を覗く。
時刻は7時丁度。
はぁ。。とため息を吐き、その目覚まし時計を叩き
音を止める。そして、再度眠りに着く。
ピピッ、ピピッ。
また鳴る。時刻を見ると7時05分。
それは、デジタル式ならではのスヌーズ機能であった。
そのスヌーズ機能を止めるには、目覚まし時計を叩くのではなく、
裏にあるアラームのスイッチをOFFにする必要があった。
だが、寝起きの自分にとってそれすら面倒い。
ピピッ、と鳴るたびに時計を叩き、音を止める。
その繰り返しで、気付いたら
時刻は8時丁度を指していた。
オレはその時刻に対し目を覚ます。
時計のアラーム音ではなく、表示される時間で目を覚ます。とは
自分のこととはいえ情けない。
しかし、そんな悠長に反省している場合ではなかった。
オレの家から、学園までは徒歩で約20分。
走れば、10分で行けるであろう。
そして、クラスでのホームルームが始まるのが8時35分。
それを、考え計算すると
オレが学校へ行く身支度を済ませるのは約25分。
朝ごはんを抜きとすれば別にそれほど慌てる事は無かった。
そして、顔を洗おうと布団から出ようとした瞬間。
あ、あれ・・?
体動かない。金縛りか!?
と思ったが、目だけではなく、起きたその脳みそで考える。
それは、保健室で起こった事の後の出来事が原因であった。
〜日常〜
はぁ、はぁ
息を切らして走る。もう少しで・・・。
左手にはめている腕時計を見る。時刻は8時30分を指していた。
走ること約10分。鳴斎学園の門が見えてきた。残り、5分もあれば十分。
校門から教室までは近いので、走りながらも安堵する。
あの後、ぎりぎりの所でオレは
目覚まし時計の横に置いてあった”パネル”を使い難を逃れた。
それは、昨日の午後の授業の際に配られたサンプル用の”パネル”であった。
有する能力は『増加』であった。
主に筋力増加など身体能力を上げる能力だが、
授業用に作られたサンプルのため効果は通常の何倍にも薄い。
しかし、それでも疲弊しきったこの体を動かすには十分だった。
校門を通り過ぎると呼吸を整えるため
走るのを止め、その場に立ち止まった。
すぅーはー
と一呼吸入れる。遅刻を免れた安心からか
普段とはなんら変わらない空気がおいしく感じる。
「ぎりぎりだね、慧」
後ろから嫌に聞き覚えのある。声がする。
振り返りたくない。だって怖いから。でも、無視するともっと怖い。
そんな、思いからか後ろを振り向く。
そこには、生徒会という腕章を二の腕に付け、
腕を組み仁王立ちしている。涼華の姿があった。
「誰のせい、だと思っているんだ。」
そう言うと、涼華は全く悪びれた様子もなく
笑顔で反応する。
「過去の事をぐちぐち言うのは男らしくないわよ?」
過去って・・・。
女の子とは、ころころ変わるものだと学習したが
もはや、昨日の出来事を過去で済ますとは・・。
その言葉に驚嘆する。
「流石にあそこまでしといてそれは酷というものではないか?」
反論する言葉にすら、疲れが出ていた。
昨日はあれから散々な目にあった。
まず、保健室から家までオレはされるがままに引きずられながら下校した。
どうやら、その時に涼華はわざわざサンプル用の”パネル”を
使用したらしい。開発者もこんな事の為に”パネル”を使うとは絶対思わないだろう。うん。
しかも、その時涼華は
「あんたの為に仕方なく使ってあげたのよ」などと抜かす。
状況が状況だけにその時のオレにはその言葉に対し、殺意しか沸かなかった。
だが、そんな涼華らしい上からの言葉遣いにどこかほっとしている自分がいた。
そんなこんなでオレの家の前に着く。オレの家から涼華の家は
お隣さんで目と鼻の先だった。
やっと、解放された思いからオレは立ち上がる。
ぱっぱ、と尻に着いた土を払い玄関へ向かう。
しかし、歩こうとした瞬間前に進まない。
確かに、足は動いている筈なのに進まない。
あれ、おかしい。そして、苦しい。・・・苦しい?
首が締め付けられている様に苦しい。なぜ?
後ろを振り向く。・・そこには、ふしんsy・・涼華がいた。
「何帰ろうとしているの?」
怖い。ただ単に怖い。さっきのほっとした気持ちで
いたのに台無しである。この鬼め。
「あぁ?」
え。テレパシー?こわ
「いいから、来なさい。」
そう言われまたもや首根っこを掴まれ、今度は
オレの家に連れて行かれる。
来なさいってここオレの家じゃ。。
そこからは、ずっと正座の姿勢のままのお説教と怒涛の質問攻め。
ただでさえ体は疲弊しきってるというのに
精神までも削がれる。恐ろしい夜だった。
今、思い出しただけでも身震いが起きる。
「どうしたの?そんな顔して。早くしないと遅刻するわよ?」
涼華がひょこっと顔を覗き込みながら言う。
「あぁ、分かってるよ。ただ、昨日のお前の泣いてる顔が可愛くて
つい、その事を思い出しちまって。」
嘘である。そんなことを考える余裕なんて昨日のオレには
無かった。しかし、ここまでされ、挙げ句の果てには
昨日のオレに対する罰すら無かった事の様に振る舞う涼華の姿に
少し、苛立ちを覚え
何かしらの仕返しがしたいが為についた嘘である。
自分でも、しょうもない事をなんて思ったが、
どうやら、効果は覿面であった。
「な、ななな・・。」
見る見る内に涼華の顔は赤くなり
まるで茹で蛸の様になる。
どうやら、普段は決して見せない姿を
弄られて恥ずかしいのか。そんな姿にオレは
心の中で、ざまあみろ。と絶対に口に出せない事を思った。
「へ、へぇ・・。慧ってば私にそんな事言うんだ〜?ふーん。」
そんなに体裁を取り繕いたいのか
真っ赤な顔でもなお上から言ってくる。
そんな涼華の言葉に
これで、止めだ!と言わんばかりに言葉を続ける。
「全く、何でお前はそうやっていつも上からの何だよ、顔真っ赤にしてまで。
まぁ、でもそっちの方がオレは好きだけどな」
「・・・えっ!?」
涼華は甲高い声を上げ、驚く。
「す、すすすす」
「ん?」
どうやら、何か言いたそうなので顔を近づける。
そこには、いつもの涼華らしくない、おどおどした姿があった。
「お、おい?大丈夫か?」
心配になり、さらに顔を近づけると
はっ、と近づいた気配に気づいたのか涼華は距離を取る。
「な、なんでもない。わ、私はこれにて失礼する。お、お前も遅刻しない様に気をつけるんだな。」
何やら、言葉遣いが怪しくなり、しどろもどろのまま涼華は走り去っていった。
少し、揶揄い(からかい)過ぎたか、と思い走り去った
涼華の背中を見ていた。しかし、あそこまで取り乱すと思っておらず
もしかしたら、意外にも涼華の本当の姿はあんな感じなんじゃないか?
などと、10年間いつも一緒だった幼馴染みの姿に疑問を抱きつつ、
オレは急いで教室を目指した。
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ガラガラ、とドアを開け、自分の席へと向かう。
何やら、周りの視線が痛い。それは、
昨日のどんぱち騒ぎの危ない連中といことで何故か注目の的になり
周りから一目置かれる存在にオレはなったかららしい、と昨日の大和との
話題の中の事を思い出す。
オレの席はドア側から数えて、4つ目の列の
一番後ろの席なのだが、慌てて教室に入ったため
席から近い後ろのドアではなく、下駄箱から近い
前のドアから入ってしまったため
すでに着席している人達の間を通らなくてはいけない。
そんな、中でもオレに対する視線は止まなかった。
ふぅ・・、とやっとの思い出自分の席に着く。
そして、ふと左斜、を見るとそこには大和 涼菜の姿があった。
こっちを見て、何やら口パクをし、伝えようとしている。
よぉーく、その口の動きを読み取って見ると。
『た、い、へ、ん、で、す、ね』
と言った後、
ふふ、と上品に笑うとくるりと前を向く。
いや、大変ですねって。。
その可愛い仕草や笑い方に一瞬ドキッと
してしまうも、他人事じゃないんですよ
お嬢さんと心の中で呟いた。
「五十嵐〜、ちょっといいか?」
朝のホームルームが終わると担任の如月先生に
呼び出された。その理由は大体予想がついた。
説教だと嫌だなぁ・・・なんて思いつつ
重い足を上げ、教卓の前まで行く。
ちなみに、今のは気が重いのと体がダル重を掛けていたのだが
聞いてくれる人が誰もいないので心の中だけにとどめておくとした。
教卓の前まで行くと、如月先生は
単刀直入に言った。
「五十嵐、お前昨日の午後の授業途中退席したから今日居残りな」
「・ ・ ・えっ」
予想を超えた、意外すぎた事を言われた
オレは最初、その言葉に反応できずフリーズしてしまった。
「いや、先生それはあんまりでは・・」
「いーや、私の授業中に勝手に暴れたおバカさん共は
しっかりと居残ってもらわないとね」
共?
その言葉に引っかかる・
「先生、共って?」
「ん?、あぁ、五十嵐だけじゃなくてその他三人も一緒にだよ。良かったな、女の子と
放課後に居残りなんて。」
如月先生は嬉しそうにそう言うと、教室を後にした。
はぁ。はぁ・・・。
ため息が二度出る。
一度目は、居残りの事。
そして、二度目はあのメンツとの居残りの事。
キーンコーン
一時限目を知らせるチャイムが
鳴ると同時にオレの中で今日を
生き残れるかという戦いの
ゴングが鳴った、